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刑事ロニー・クレイブン・完全版

DVD封入ブックレットより イントロダクション

目の前で最愛の娘エマを殺されたロニー・クレイブン警部補は、上司の制止を振り切って独自の捜査を進める。
犯人の標的は自分だったのか? 銃撃犯が判明しても疑念を深めるクレイブンは次第にエマの背後にある黒い陰謀に飲み込まれていく......。

「刑事ロニー・クレイブン」 は単なる刑事ドラマではない。 原題は 『Edge of Darkness』。 暗闇の深淵とでもいおうか。
実際、回を重ねるごとに視聴者は次第に深い闇の中に引きずり込まれていく。
脚本は映画『ミニミニ大作戦』(69年)『戦略大作戦』(70年)などの痛快活劇で知られるトロイ・ケネディ・マーティン。 政治的な要素をドラマの中に取り入れようと彼が選んだのが核問題。
それに、科学者であり環境論者であるジェームズ・ラブロックのガイア理論を絡ませ、 複雑かつ斬新なプロットが誕生した。
監督は当時新進気鋭のマーティン・キャンベル。TVシリーズ 『特捜班CI☆5」 (77年~)で頭角を現した彼は本作で名をあげ、 ピアース・ブロスナンのボンドによる『007/ゴールデンアイ』 (95年) の監督に抜擢。 その後、ハリウッド屈指の職人監督としてヒット作を連発、 現在に至っている。
舞台を中心に活躍し、ドラマ初主演の本作で深い悲しみを秘めたクレイブンを演じ絶賛されたボブ・ペックは、超大作『ジュラシック・パーク」 (93年) でハリウッドに進出。 性格派俳優として活躍したが、1999年に逝去。 53歳の早すぎる死が惜しまれる。
非業の死を遂げつつも、亡霊となってクレイブンを励まし語りかける娘エマを演じるのは 「スキャンダル」 (89年)のジョアンヌ・ウォーリー。 英国女優の中でも屈指の美人女優である彼女の、可憐なヒロインぶりが物語の悲劇性を一層盛り上げる。
男性陣が多くを占める脇役の中でわずかな登場ながら強い印象を残すのが、クレメンティンを演じるゾーイ・ワナメイカー。 舞台で活躍する女優で日本での知名度は低いが、「刑事ロニー・クレイブン」と並ぶ英国TVドラマ屈指の傑作『第一容疑者』 (91年) で大女優ヘレン・ミレン演じるテニスン警部と堂々と渡りあった彼女を思い起こす方も多いだろう。
彼女とクレイブンとの瞬間の逢瀬は、殺伐たる物語の中に一片の安らぎを与えてくれる。上流階級出身と思わせる首相直属の諜報部員 (M15か?)、ペンドルトンとハーコートを演じたチャールズ・ケイとイアン・マクニースの軽妙洒脱な演技も見どころだが、なんといっても出色なのは『ウォーキング・トール』 (73年) のジョー・ドン・ベイカー演じるジェドバーグだろう。 キャンベル監督はこのキャラクターをよほど気に入ったらしく 『007/ゴールデンアイ』にジェドバーグそっくりのCIAエージェント、 ジャック・ウェイドを登場させている。
ゴルフと社交ダンスをこよなく愛すアメリカ人ジェドバーグが、なぜクレイブンと意気投合するのか。 IRAの密告者を仕立てる任務をしていたという過去をもつクレイブンと、CIAとしてあらゆる裏工作に携わってきたジェドバーグが初めて会う場面にヒントが隠されている。 ここでジェドバーグがふと口ずさむウィリー・ネルソンの『伝道者の時代 (The Time of the Preacher)』 はエマの死後、遺品を調べるクレイブンが聴く彼女のレコードの曲なのである。 エマが二人を結びつけたのか? 後に「ダイ・ハード」 シリーズ等を手掛け、屈指の映画音楽メーカーとなるマイケル・ケイメン (残念ながら2003年に逝去)と、希代の名ギタリスト、 エリック・クラプトンによるテーマ曲とともに音楽の果たす役割も重要だ。
本作が製作された1985年当時、東西冷戦は終盤を迎えつつあったが、1983年にレーガン大統領によって発表された戦略防衛構想、通称スターウォーズ計画が進行しており、フォークランド紛争で勝利を収めたサッチャー政権も核武装を強化していた (アメリカ製の潜水艦発射弾道ミサイル、トライデントの購入是非について、サッチャー首相が答えるインタビュー番組が本作に登場する)。 それに伴い、 反核運動も活発化した。 平和を願う反核集団が過激なテロ組織と変貌していく様を描いた 『ファイナル・オプション」 (82年)や、フレデリック・フォーサイス原作による『第四の核」 (86年) などの映画作品が製作されたのもこの頃。 世界は核戦争の脅威にさらされ、地球滅亡の恐怖におびえる人も少なくなかったのだ。プルトニウムを獲得しようとアメリカから企業買収にやってくるグローガンのモデルは、スターウォーズ計画を創案した経済学者、 政治家のリンドン・H・ラルーシュだという。 そのグローガンに無謀な戦いを挑むジェドバーグは、あたかも中世における孤高の騎士を思わせるが、二人の祖先からの因縁については、 画面からだけではうかがい知ることは難しい。
本作は一言でいえば、最愛の娘を目前で殺された父親の復讐劇ということになるが、それは単なる断片にすぎない。エマの亡霊に導かれ、陰謀を探るクレイブンは次第に深い闇の中に嵌っていく。クレイブンの、放射性廃棄物処理企業、そして事件のもみ消しを図る英国政府との戦いは、やがては地球対人類との果てしない戦いへと繋がるのだ。エマが銃弾に倒れた地からは泉が湧き、打ちひしがれるクレイブンに「木のように強くなって!」と彼女は叱咤する。
勝利するのは人類か、地球か。
地球の味方だと答えるクレイブンが最後に見つめる黒い花は、地球から捧げられた献花なのだろうか?
製作されてから25年以上も経つが、 内容の衝撃度は全く色褪せることはない。ましてや、放射能の危険に晒される昨今、本作のエッジは深く霧は晴れない。 秀作ぞろいの英国ドラマの中でも傑作と呼ばれ、ドラマを超えた作品といわれる所以である。
「刑事ロニー・クレイブン』は当時の英国で主なテレビの賞を独占し、 中でもキャラクターとしてのジェドバーグの人気は絶大だ。 主演のボブ・ペック、ジョアンヌ・ウォーリーの出世作となり、 マーティン・キャンベルはメル・ギブソンを主演に本作のリメイク 「復讐捜査線」 (2010年)を監督。 しかしその完成直前にトロイ・ケネディ・マーティンは世を去った。 本作の執筆に渾身を込めた彼は、 ハリウッド映画となった自作をどんな思いで鑑賞したのだろうか?
最後になるが、 村井国夫 (クレイブン)、日高のり子 (エマ)、石田太郎 (ジェドバーグ) ら一流の声優陣による日本語吹き替え版の出来が素晴らしく、 中でもベテラン、 近石真介の重厚な演技がペンドルトンというキャラクターに深い味わいを与えている事を明記したい。

1990年 7月16日(月)~21日 (土) 6夜連続、 21:00よりNHK衛星第2にて日本初放映。
1991年 3月21日 ポニーキャニオンより「観ないで死ねるか」シリーズのひとつとしてレンタルビデオがリリース (現在は廃盤)

DVD発売:スティングレイ(現在は製造中止)
封入ブックレットより
http://www.stingray.co.jp/store/eod.html
2024年3月現在:配信なし

追記:福島の原発事故のあとに観ると、いろいろと身につまされる問題作。こういった作品がもっと配信などで視聴できるといいのに。

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