万引きGメンから考える警備業務の性質
1. たまにスーパーから保安警備の仕事依頼が来る。その中に私服保安員の仕事がある。
いわゆる万引きGメンと言われるものである。
木の実ナナの2時間ドラマでおなじみ(ちょっと古いか笑)の仕事だが、自社としては今のところ受けないようにしている。
理由は賠償リスクの高さ,である。
2. 例えば,万引きをするふりをして、私服保安員から相談室に呼ばれ、鞄の中身を見せるように言われる。
しぶるなら警察に通報すると言われ、しぶしぶ鞄の中身を見せるが、盗んだはずのものがない。もちろんポケットにも。
そこでその客は言うわけである。「これはプライバシーの侵害であり、人権侵害だ。本来なら警察に告訴するところだが、あなた方が謝罪し、誠意を示してくれるなら考えてもいい。それが嫌なら刑事はもちろん民事にも訴える。」と。
今は分らないが、それなりの示談金で納得してもらう場合もあるという。
3. この場合の民事賠償なり示談の法的根拠は不法行為(民法709条,710条)責任。
(1)不法行為とは故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害すること、である。
この場合の故意又は過失とはその行為者なり加害者の認識の有無又その立場で要求される認識可能性の有無で判断される。
本件の場合だと、普通の万引きGメンが注意すれば気付けたかどうかによって過失の有無が判断される。
次に本件における他人の権利または法律上保護される利益とはお客様のプライバシーの権利だが、その根拠は憲法13条である。
本来憲法は国家対個人だが、法解釈上民事上にもその憲法上の価値が及ぶとされるので以上のような根拠になる。
(2) その他刑事責任の場合はこの場合はお客様を相談室に監禁しているともいえそうなので刑法220条の逮捕・監禁罪が成立する可能性もある。
もちろん、それをいいことにお客側が、お店の店長や保安員を脅迫したり、土下座を力ずくでさせたりすれば、その客側に恐喝罪(刑法249条)や強要罪(刑法罪223条)が成立する可能性もあるが、いずれにしてもこのような事態が生じれば店側の信用もおちることは間違いない。
最悪、警備会社はこの客だけではなく、店側からも示談又は損害賠償を請求させることになるだろう。
4. そういったリスクを考えると、せめてこういった事態になったとしても、保安警備員としての注意義務を果たしたので過失はないといえるほどのパフォーマンスができる警備員を教育出来る体制が出来ていない限りはこの種の仕事を受けるわけにはいかないのである。
警備にはこういったリスキーな仕事が多い。というかそもそもリスクを商売にしているのが警備業という仕事。
こういったリスクに本当の意味で対処できる人材を育てるためにはそれなりの教育費用がかかる。
にもかかわらず、普段、こういったリスクはあまり問題になることもないので、取引先の方々としてはこういったものにお金を出す事を渋りがち。
でもこの問題にならないということが犯罪なり災害の予防が出来ている証拠だともいえる。
サービスが見えにくいことが問題なのだ。
警備業者としてはこの種の見える化を企業単位はもちろん、業界全体として図っていかないと、料金の安定につながらず、結果、優秀な人材が入ってきにくい構造になるはめになる。
こういった主張はなんどもしてきたが、本当に大切なことなので、これからもくどいくらいしていきたい。