ホスピタリティとアルゴリズム

インターネットを利用したことのある方なら一度は経験があるでしょう。リコメンド機能。
例えば、日焼け止めの検索をしたら、その後やたらに日焼け止めの広告が出てくるようになったってあれです。しばらく、あなたにオススメ!の日焼け止め広告がバンバン出てきますよね。
それはアルゴリズムによって起きています。アルゴリズムとは、とても簡単に言うとコンピューターで計算を行う時の計算方法のこと。身近なものでは、Facebook広告やインスタ広告、YouTubeなどでよく遭遇しますね。私は買い物はネットがほとんどなので、何か買い物をする度に類似商品の広告が鬼のように上がってきます。

少し前にとある方から聞いた話。

この方は、ネット上に気分が上がらないようなネガティブ広告がリコメンドされると気が滅入るので、敢えて気分が上がるような華やかなジャンルを検索するのだそうです。例えば、行きもしないのにハワイ旅行の検索をすると、明るいハワイの景色がたくさん上がってくる。買いもしないのに、ゴージャスなジュエリーの検索をするとキラキラの写真で溢れる。それを見ることで気分が上がるんだそうです。これは実に上手なセルフメンタルコントロール。勝手にリコメンドしてくるアルゴリズムを逆に使っちゃうのね、と感心しました。

さて、このアルゴリズムの仕事ぶりから思い出したのが、私が尊敬する経営者の話。

この方は講演や研修などで全国各地へ行かれるのですが、とあるホテルに泊まった時のこと。翌日が工業系の業界での講演だったため情報収集の意味で、いわゆる業界新聞をホテルにお願いしたそうです。ナントカ工業新聞とか、繊維ナントカ新聞とかの業界紙は珍しいですし、関係のない一般人はまず手にしません。そこはホスピタリティで名を馳せる有名なホテルだったため、もちろん用意してくださいました。

それから時を経て、何ヶ月後かにその方はまたこのホテルに宿泊することになりました。今回は講演ではなく全く別の仕事でした。果たして、その方の部屋には、以前頼んだことがある業界新聞が置いてあったそうです。その方は思いました。『今回は普通の朝日とか読売とかが良かったなあ』と。

この話を思い出して、ホスピタリティとアルゴリズムって似てる、と唐突にしかもかなり乱暴に思った次第です。
その人の行動の履歴から嗜好を想像して、言われる前に準備しておくホスピタリティと、その人の検索履歴から弾き出された情報を勝手にオススメしていくアルゴリズム・・・一緒やん! ってことは、この分野もAIに取って代わられていくのでしょうか・・・。
おそらく、二度目も業界新聞を用意するレベルならばAIで十分やれます。では、AIで代替できないのは何か?

それは、人間の持つ曖昧さを理解して双方向で行えるコミュニケーションではないでしょうか。
人間らしさとはおそらく、数値化できない曖昧さです。私たちは、果てしなく続く無段階のグラデーションの中に生きています。
業界新聞を用意するレベルのサービスはきっとAIの方が正確にやるでしょう。
では、そうならないために何が必要なのか?
それは、相手が何を欲しているのかを察することではありません。察することとは、主観と想像のみで構成された一方通行の勝手なリコメンドと同じです。

必要なのは、相手が本当に欲しているものが何なのかを聞くことができるコミュニケーションスキルです。そして、想像から用意したものが相手が本当に欲しいものと違った時に「違う」と言われても、それを受け入れられること。
いつもはコーヒーが好きだけど今日は紅茶が飲みたいんだもん、って日もあります。

私たち人間はコンピューターではありません。一方的なアルゴリズムによる勝手なリコメンドではなく、双方向のコミュニケーションを取ってこそ。コンピューターにしかできないことは任せて、人間にしかできない仕事をしたいですね。

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