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シャレン!インタビュー 地域と、選手と、サポーターと、-共に戦うフロンターレ- ②等々力劇場ができるまで

第一弾はこちら!


1. スポーツの根付かない街ー川崎ー


シャクル:川崎フロンターレは地域密着に積極的に取り組んでいる印象があるのですが、地域密着を重視するようになったきっかけを教えてください。

岩永さん(以下敬称略):川崎市を本拠地としていたクラブが離れていってしまった経緯もあり、川崎の町は「スポーツが根付かない街」って言われてたんですよ。「どうせフロンターレも出ていくんでしょ。」と最初から言われてたので、川崎市でやっていく姿勢をしっかり見せないといけないと考えていました。でも、フロンターレの事業規模は、大型ショッピングセンターの事業規模より小さいため、実際に地域密着をする際には、一流のホスピタリティを提供することが難しいのが現状です。

シャクル:大型ショッピングセンターよりも事業規模が小さいんですね。それに、川崎はスポーツが根付かない街と言われていたことには驚きました。

岩永:だから、クラブに親しみを持ってもらうことを目指して、地域密着を進めていかなきゃいけないと考えていました。商店街で地域密着活動をしても、目の前で聞いてくれる人が子供3人という時代もあったんだけど、そういう活動を地道に続けていって、地域の方々から応援してもらう状況を作っていかないといけないという危機感があって…。だからこそ、2000年にJ1に昇格して一年でJ2に降格してからは特に地域密着に力を入れていこうと考えてたんだよね。


選手たちが商店街を訪れている様子
川崎フロンターレホームページ『2020必勝祈願・商店街挨拶回り・かわさき応援バナナ販促活動』より
https://www.frontale.co.jp/diary/2020/0109.html


シャクル:そんな大変な時期があったとは知りませんでした。実際に地域密着に力を入れていこうとする際に大変だったことはありますか。

岩永:クラブスタッフは、以前は全然人数が揃わず、現在も増えたとはいってもとても手の回せる程ではないです。 なので、市民やサポーターの皆さんにボランティアとして協力してもらっています。例えば、商店街でのイベントでは、嬉しいことに地域の方々が現地での準備を全部やってくれることもあります。また、オフィシャルボランティアという形で、試合の際には配布物を一緒に運んでもらうなど、様々な場面で力を貸していただいてます。応援団やオフィシャルボランティアに参加してくださる方だけでなく、多くの市民の方に応援していただいていることはとてもありがたいです。

シャクル:そうなんですね。フロンターレと市民のつながりの強さがとても感じられました。他に市民やサポーターとのつながりを感じられるエピソードなどありましたら教えてください。

岩永:フロンターレの応援団のリーダーの話なのですが、夏に商店街でフロンターレのポスターを張る作業をしていたところに声をかけてもらったのがきっかけなんです。その方は、フロンターレが様々な活動をしていると聞いて、サッカーに興味がないにも関わらず、試合を見に来てくれました。実際に行ってみると観客が少なかったため、川崎の街を盛り上げようとしてくれているフロンターレに協力しようと思って、応援団を始め、応援団のリーダーを務めてくれているんです。あとは、川崎市内の商店街の花屋さんからチームの良さや市民とのつながりなど、フロンターレについて話をお聞きする機会を新人選手の研修に必ず設けています。

シャクル:川崎フロンターレの試合では、チームが負けた時もブーイングをしないなど雰囲気がよいと耳にすることが多いのですが…。

岩永:そうだね。応援団やファン、サポーターの方々は、試合に勝ったときはもちろん、試合に負けた時もブーイングをしないで応援してくれますね。このブーイングをしないスタンスは地域密着に力を入れた頃から浸透していました。フロンターレが地域密着に力を入れ、サポーターの方々もそれに応える形で始まったんだと思います。試合に負けても声援を送り続けてくれるサポーターがいるからこそ、選手も力をもらえるという好循環が生まれているんですよ。例えば、連敗していたり不調で苦しんでいる選手がいたりすると、試合の前、選手バスが等々力競技場に入ってくるときにサポーターの方々が花道で迎えてくれることもあり、逆に選手も元気をもらってます。

声援で選手を迎えるサポーターたち
川崎フロンターレホームページ『2017 明治安田生命J1リーグ 第34節 vs.大宮アルディージャ フォトギャラリー』より
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2017/j_league1/34.html


シャクル:地域密着を続けているからこそ、スタジアムにいい雰囲気が作られるのですね。

岩永:ちなみに、セキュリティ的にはバスの場所を分からないようにするのが一般的だと思いますが、等々力競技場では、サポーターが見える位置に、選手バスを停めるように設計しているんですよ。 あとは、フィールドと観客席の間に高低差や柵を設けていないんですよね。

シャクル:そうなんですね。観客とトラブルがあった場合、セキュリティ面は心配ないのでしょうか。

岩永:実例としては、例えばフィールドに物を投げたりヤジを飛ばす方は、フィールドから対応ができないように、ピッチ上から高い場所にいることが多いんです。だからこそ逆に、等々力競技場では、柵や高低差を設けないようにすることでよい雰囲気を作っていくことができるんです。

シャクル:確かにその方が選手とサポーターが一体になりやすそうですね。

岩永:スタジアムの設計だけじゃなくて、スタッフの対応についても工夫しているんです。スタジアムに来てくださる方々を単に「お客さん」として対応するのではなく、近所の方や親戚のような感覚で親しみを持って接するように心掛けているんですよ。例えば、夏に「おじいちゃん、今日もちょっと暑いからね。水分補給しっかりして今日も応援よろしくね。」ってわざと敬語を使わないようにしてるんだよね。

シャクル:サポーター目線でも、とても親しみが感じられていいですね。


2.等々力で紡がれるDNA


シャクル:J2に降格してしまった2001年当時はホームタウン活動がメジャーではなかったと思います。J1昇格を目指している時は、チーム強化を優先すべきなのではないかと感じたのですが、チーム強化よりホームタウン活動を優先したのはなぜなのでしょうか。

岩永:私はそうとは思ってなくて、将来のビジョンのために地域密着から取り掛かる方がいいと考えていました。当時のフロンターレはチームが弱かったり、資金がなかったり、人気がなかったりという状況だったので、チームを強化しようと思ってもなかなか選手が集まらないんですよ。

シャクル:確かにチームの土台が不安定だと、クラブとして成長することも難しそうですよね。

岩永:地域の方々が集まって一体感が生まれるスタジアムを作る。そうすることで、協賛スポンサーやテレビ中継が付くようになって、結果的にも収益に繋がってチームも強化することができるようになるんですよ。だからこそ、まずは地域密着を図って地域の方々に応援してもらう状況を作り出すことが大事だって考えていました。

シャクル:私達はサッカーの強さと地域貢献にどのような関係性があるんだろうって疑問に思っていたんですけど、逆に、地域貢献に力を注いでいたからこそ、優勝という結果に繋がっていたのですね。

岩永:個人的には、地域貢献っていう言葉には違和感があって、「地域密着」とか「地域と共にある」っていう言い方がしっくりくるよね。地域に貢献してあげるんじゃなくて、「親戚」感覚で一緒にこの街を盛り上げていこうって取り組んでいるからこそ、クラブの雰囲気とかスタジアムの一体感にもつながっているんじゃないかな。

2019年多摩川”エコ”ラシコでの集合写真
川崎フロンターレホームページ『2019多摩川”エコ”ラシコ』より
https://www.frontale.co.jp/diary/2019/1006.html


シャクル:大事なことですね。ちなみになんですけど、フロンターレがホームタウン活動を行うことについて、選手はどのように受け止めているのでしょうか。

岩永:そうですね。コロナ禍になる前までは、毎年シーズンの初めに必ず選手とクラブスタッフが話し合う場を作って交流を図っていました。そういった場で、なぜホームタウン活動をするのか、なぜその活動に選手が参加する必要があるのかを話して、選手たちと打ち解け合いながらホームタウン活動への理解を深めてもらうことを必ず行っていたんだよね。
 
シャクル:選手が意義を理解してホームタウン活動を行うことは大事なんですね。

岩永:それに中西哲生さんの時が一番最初だと思うんだけど、ホームタウン活動をしないとチームは強くなれない、来場者も増えないということをチーム全体で認識できていたのが大きい。そういった認識を選手が引き継いでいたから今まで続けてこれたんだよね。それに、中村憲剛とか日本代表でも活躍しているようなスター選手がホームタウン活動をしているのに他の選手がやらないとは言えないからね。

シャクル:確かにスター選手が率先して行えば、クラブの基盤として定着しますよね。
 
岩永:フロンターレに来たら日本代表の選手ですら地域貢献をするっていうのがもともと理解されていたし…。そういったことが今の選手たちの中でも脈々と流れている。選手や監督が変わったとしても、チーム総替えってないじゃないですか。だからこそ今でも引き継がれるフロンターレのDNAというのがあるんですよ。さっきの陸前高田の話になるけど、最終的にやるって決めたのは選手なんですよね。選手たちが話し合って、やるべきだと判断したから結果として陸前高田での活動を始めることができたんです。

陸前高田市民を招待したかわさき修学旅行
川崎フロンターレホームページ『第9回かわさき修学旅行』よりhttps://www.frontale.co.jp/diary/2019/1110.html


シャクル:フロンターレのDNAが脈々と受け継がれているんですね。受け継がれている点でいうと、トップチームが近年強くなっているように、ユースも強い印象があります。ユースチームもホームタウン活動を行なっていたりするんですか?

岩永:やってますよ。ホームタウン活動をすることで子供たちにもチームと地域の繋がりを実際に感じてもらうというか…。サッカーが上手くなるとか、プロになるためだけじゃなく、世の中で生きていくための教育として行っています。

シャクル:ユースチームでもしっかり地域密着に取り組んでいるんですね。

岩永:でも、ユースの選手達は学校が終わってから練習に励んでいるので、なかなかホームタウン活動に関わる時間が取れないのが実状です。ただ、育成部としてはそういった地域と関わっていくという強化方針は持っていて、ホームタウン活動に取り組む姿勢がないと選手としても大成しないっていうのは身に染みてわかっているので。やっぱり人間性がしっかりしないと良い選手にならないんですよ。だから、時間の無い中でも地域密着を意識して取り組んでいます。

シャクル:時間が限られる中、ホームタウン活動をするのは大変ですね。

岩永:ちなみに、ユースの練習施設としてフロンタウン生田っていう一大スポーツ拠点が2023年4月(インタビュー当時は昨年8月)から動き出します。単にサッカーの練習だけできればいいという訳ではなくて、地域の方々が普段から訪ねやすいような場所にしようという話もしています。イングランドだと、ユースの練習に地域の方を入れないことが多いんですよ。日本はイングランドのようにサッカー大国ではまだないので第二の中村憲剛のような選手を生むためには普段からおじいちゃん、おばあちゃんにも立ち寄ってもらって、「あの三苫薫は小学生のころから目をつけてたよ。」って自分の孫のように語る人がいるようなクラブが僕はいいと思います。

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