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バレンタイン短編果実凸

はじめまして、お久しぶりですっ
果実みのるワンダーランドの管理者の赤林檎です🍎
バレンタインは過ぎたんですが、実はまだ淡い短編果実があるんです!
今回はそちらを紹介したいと思います(*´˘`*)


2つの果実

「もっと二人でいたかった」

なんて、贅沢でイケない悩みなんだろう
でも、奪われた時間は戻らなくて
彼が帰ってくるまで、あと、どれ位だろう?と空を見上げる
あの日見た真っ青な空があった

もう少し、もう少しで、彼が帰ってくる
そうワクワクしていたのは私だけだった当時

「ねぇねぇ、ひいおじぃちゃんは?」
今じゃ、曾孫も待ってくれている

「部屋から、庭を眺めていたわよ」
孫が私の代わりに答える

「そっかぁ。ねぇ、ひいおばあちゃん」
曾孫が、私を見る

「なぁに?」
私はゆっくり答えた

「チョコ作るの手伝って!」

「チョコレート?
もう、キッチンに長く立ってられるほど身体が丈夫じゃなくてねぇ」
私は、老化と共に足腰を痛めていた
周りは元気だなんて言うけれど
最近は、部屋を移動するのもやっとだ

「ここで湯煎してくれるだけでいーの!ひいおばあちゃんもひいおじいちゃんにバレンタインしよーよ!」
曾孫が、そんな提案をしてくる

「ばれんたいん...」
もう、そんな歳でもないんだけれど...
孫をチラリと見る

曾孫の母親である彼女は、曾孫の後ろに立って、手を合わせていた
子供に付き合ってくれ、という事だろう
まぁ、彼も甘いものは好きだし喜んでくれるだろうか?

曾孫は、
「おばあちゃん家に行った時にも作ったんだよ!おじいちゃん、すごく喜んでた!」
と、嬉々として話している

「じゃぁ、しようか」
私はニコリと微笑んだ



「チョコをパキパキ割ってー」
曾孫が板チョコを割れ目に反って割っていく
カランカランとお皿に落ちていくチョコレート

「これを、この器に移して、さっき温まったお湯につければいいのよね」

「そうそう。溶けたら、この型に入れるの」
曾孫が持ってきた型はハートや四角、星やリボンなんかもあった

「ウチは、これにしよーかなぁ」
曾孫はハート型に手を伸ばす
もう、何度も作ったのだろう
曾孫のおかげで、いろいろスムーズに進んだ

「私は、何しようかねぇ」
いろんな形があって迷ってしまう

湯煎中のチョコレートからは甘い匂いがして、板チョコの姿はもう無くなりかけていた

考えてみれば、バレンタインなんて何年ぶりだろう?
娘や孫に付き合って作ったことは、何度かある
その時に、あの人に渡したこともある
しかし、娘も大きくなり孫が生まれ、その孫も大きくなり曾孫が生まれた

私の人生は、決して甘くなかったけれど、「しあわせ」という甘い日々はあったと思う
そんな「しあわせ」を歩んでこれたのは、あの人がずっと隣にいてくれたからだ
伝えたい、この大切な気持ちを

「ひいおばあちゃんは何にするの?」
曾孫が嬉々として聞いてくる

「私はね…」
私はひとつの果物の型に手を伸ばした



「となり、いいですか?」
私は背中に問いかける

「あぁ、いいよ」
振り返った彼は、ふわりと笑う

「庭を見るのは楽しいですか?」
私は隣に腰掛け、ポケットを確認する

「あぁ、今日も変わらず春待つ庭だ」
彼が指を指す

指の先には一本の木が植えてあった
まだ寒そうな枝が葉を揺らしている

「いつも、あの木を気にかけていますね」

「当たり前だ。あれは君と初めて植えた木なのだから」

その木は、2つの果実が実る木
甘くて大きな丸い実は私達の思い出の木

「貴方。コレ、作ったんです」
ポケットから1つの箱を取り出す

「…昼間に子供達と何かやってるなとは思っていたよ。コレだったかい」
彼は受け取って微笑む

「開けてみてください」

「いいのかい?なんだろなぁ」
彼はおぼつかない手で箱を開ける

「……コレは」

箱の中に2つの果実の形をしたチョコレート
私達の思い出

「もっと貴方の隣にいたいです」
私は言葉を零す

「こんな年老いて言うのも恥ずかしいですが。若い頃、まだ子供もいなかった頃、貴方の帰りをずっと待ってました」

「あぁ、よく待たせてしまっていた。戦争で、なかなか帰ってやれなくて」

「周りは笑顔で貴方を見送ったけど、私は結婚して貴方といた日は3日だけ」

「寂しい思いをさせてしまったね。すまない」

「いいえ。今、こうして一緒にいて曾孫まで恵まれたのですから」

「さくらんぼ。2つの果実。これからは、一緒にいるよ。ずっと離れないさ」

「……はい。春になったら、一緒に食べましょうね」

「あぁ、一緒に食べよう。…このチョコレートみたいに甘いさくらんぼを」

寒い風が吹く冬
だけど、心は暖かく、春を待ちわびて葉を揺らす
恋の思い出と恋人

肩をくっつけて、ずっと隣にいよう


2つの果実は、きっと春には実るんでしょう
だけど、忘れられない思い出もあって、甘く甘く育つんだと思います…

バレンタインに小さな果実を2つ

心を込めてチョコで包みましょう

𝕤𝕖𝕖 𝕪𝕠𝕦🍎

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