人間
「イラルさん、この本は心理の棚のところに置いておきますね。あと、魔導書の新刊が届いてます。」
「分かりました、あとは僕がやりますのでユウキさんは魔導書の陳列をお願いします」
はい、とユウキさんは返事すると、魔導書を腕に積み上げて運んで行った。
テキパキ働いてくれて、とても助かる。一人でやっていた頃よりも仕事効率は上がった。それにユウキさんは看板娘的存在なので、そのかわいさに惹かれて店に来る人も多い。そんな美人が働いてるなんてどれだけ凄い書店なのだと思うかもしれない。
残念なことにこの店はそんなに広くない。
しかし、外来本や魔導書、参考書、製本のサービス、絵本に漫画、それにオポサイドワールドの本はほぼ全てある。
そのため子連れや学校終わりの学生、仕事の資料を求める大人もくる。
なので3人で暮らしていける財力はある。
こんな高い本棚が迷路のように立ち並ぶ店だから、不思議がられることもある。
しかし僕は本や知識が大好きだ。
だから、この仕事は僕にとっての天職と言えるだろう。
この日も十数組のお客を迎え、普段通りの売上を出し、そろそろ店じまいにしようとしていた夕方頃、
ニリンとシュウヤくんが戻ってきた。
おかえりなさいと言いかけると、2人がなにか大きなものを3つ抱えているのに気がついた。
「ど、どうしたんですか!?」
ユウキさんも驚きで声が震える。
2人が抱えていたのは、弱りきってびしょ濡れになった3人の子供だった。
1人は12歳くらいの男の子、後のふたりは10歳くらいの女の子と4歳くらいの男の子だった。
「ユウキ、2階に布団を3つ敷いてくれ!!イラルはタオルとお湯だ!頼む、急いでくれ!!」
突然のことに慌てつつも、3人の子供のために最善を尽くそうと思った。
僕はみんなで助け合う世界を望んでいるから。
タオルをありったけニリンに渡し、戸棚からやかんをとりだして水を入れ、それを火にかけた。
僕は無意識に火を強くしていた。
少したってお湯が沸き、こぼさないようにしつつも速足で風呂桶に入ったお湯を運んだ。
そうして2階に上がると、さっきの子供たちは布団に寝かされていた。
ユウキさんとニリンは3人に水を飲ませたりタオルで体を拭いたりしている。
「さんきゅー、お湯貰うぜ。シュウヤ、このタオルにお湯浸して汗拭いてやれ。」
シュウヤくんは黙って頷くと言う通りにしだした。
僕は床にこぼれたお湯を拭きながら子供たちを観察してみた。
翼がない。それに牙も無い。何よりあんなにびしょ濡れだったのに、吸血鬼だとしたら弱点に対する反応がないのもおかしい。
ということは、、、
そう考えかけた途端、1番年上の男の子が目を覚ました。
どうやら混乱している。当たりをキョロキョロとみて、隣で寝る2人を揺すっている。
「そいつらなら大丈夫。寝てるだけだよ。」
ニリンがそう言うと、少し安堵したらしく僕たちの方を見た。
「ここはどこですか?」
と、少し脅えながら聞いた。
そりゃそうだ。目が覚めたら知らないやつが目の前にいるのだから。
「ここはガイラルディアっていう名前の書店です。僕は店主のイラルといいます。」
「そ、そうですか。あの、助けてくれてありがとうございます。」
「いいえ、君たちを運んでくれたのはここにいるニリンとシュウヤくんです。お礼ならかれらにお願いします。」
そう言うとその子は2人に深深と頭を下げて感謝をしていた。
「でもひとつきになるんだけどさ、お前は何者だ?そんで、どこから来た?なんで川岸に倒れてたんだ?」
ニリンの話によると、2人はリトアールを終えて家に帰ろうとしたが、狩場にある川岸に忘れ物をし、取りに行ったところこの子達が倒れていたという。
「えっと、、」
「ニリンさん、あまりいっぺんにきいたら驚いてしまいますよ。」
「おお、そうだな。じゃあとりあえず名前だけ教えてくれ。」
「ミヤザキ ショウヘイです。こっちの女の子はハジマ ネル、そこの幼児はガサイ イロハです。」
「なんか、珍しい名前だな。ショウヘイくんよ、なにがあったんだ?」
「実は、、、」
そして彼は涙ながらに語ってくれた。
彼らの住む孤児院が火事になったこと、軍隊に囲まれ、捕まりそうになったこと、シスターが身をていして逃がしてくれたこと、気がついたらここにいたこと。
僕達はそれを黙ってただ聞いていた。