2手の逃げ道

「お逃げなさい、私の愛しいこどもたち。」

シスターはそう言った。

あの日、夜中に部屋の蒸し暑さで目が覚めた。

ほかの兄弟やシスターも起きていた。

アズキをあやしながらアスカ姉と俺は部屋のドアを開けた。すると、

「あっちぃ!!」

反射的に後ろに下がった。

部屋が燃えていた。

これではこの部屋まで火がくるのも時間の問題だ。

「シスター、どうしよう!?」

俺達があたふたとしていると、シスターは近くにあった箒で窓ガラスを割り、子供が通れるくらいの穴を作った。

「ここから出なさい!さぁはやく!!」

シスターのこんな慌てた様子を見たこと無かった。

俺たちは言われるがまま小さい順に窓から出した。

イロハとカナデは火が怖くて泣いていた。

ネルはガタガタと震えていた。

アスカ姉もアズキを抱えながら腕がプルプルしてた。

俺も、恐怖で足がかたくなった。

最後にシスターが窓から出ると、火は俺たちが寝ていた部屋に入ってきた。

「危なかったわね、、、」

アスカ姉の言う通りだ。もう少し遅れていたらと思うと恐怖で漏らしてしまいそうだ。

「シスター、とりあえず消防を」

そう言いかけた途端、銃の音がしてシスターは後ろに吹き飛ばされた。

シスターに駆け寄り何事かと振り返ると、そこには軍人たちが立っていた。

そして頭領らしき中年の軍人が出てきてこう言った。

「リーリエ・ヴィカーズだな?反逆罪で逮捕する。」

なんでシスターの名前を知ってるのかも不思議だけど、何より逮捕という言葉が、俺は許せなかった。

「シスターは何もしてないよ!!悪い人じゃない!」

「そうだよ!シスターは僕たちを育ててくれたんだもん!!」

「逮捕なんてだめなのです!!」

ネル、カナデ、イロハが軍人に反抗した。

軍人たちが隊列から出てきて3人に容赦なく銃を突きつけた。

3人は突然のことに驚いて動けない。

「その子たちは関係ありません!!私だけ捕まえなさい!!」

シスターは口から血が出てるのに叫んだ。

「嫌だよシスター!俺たちはシスターがいなくなったらひとりぼっちなんだよ!!そんなの生きてけないよ!」

俺はそう叫んでいた。

「反逆者どもよく聴け!!この女は国の方針に逆らい、王にすら反抗したのだ!!よって豚箱行きだ!!貴様らの母は戦争反対派なんだ!だから処罰する!貴様らと一緒になぁ!!」

そう言って軍人たちは俺たちを取り押さえた。

力が強すぎて振りほどけない。

この世界は腐ってる。

大昔に戦争であんなに人が死んだのに、まだ懲りてないの?

銃なんて人殺しの道具でしかないのに。

シスターは正しい。

王はイカれてる!!

俺が悔し涙を流すとその時、火が窓から飛び出した。

「うわああああああああああ!!」

軍人たちもさすがに怯んで後ずさった。

その隙をつき、俺たちは拘束を解いてシスターのもとに走った。

待て、と軍人が叫んだその刹那、俺たちの後ろ、つまり軍人たちがいる方に火が飛んでいった。

あついあついと叫ぶ軍人を後ろに、シスターは荒い息遣いをしていた。吹っ飛ばされた時、撃たれたらしい。

「シスター、大丈夫なの?」

ネルが泣きそうな声で問いかけた。

「平気ですよ。私は強いので、これくらいなんともないです。 あなたたち、よくお聞きなさい。私はあなた達の親代わりとして楽しく暮らしていけたことに感謝しています。そしてあなた達を深く愛しています。ですから、あなた達には生きて欲しい。この世界を壊して変えて、幸せになりなさい。子供の幸せを願うことが親の義務です。今からとある場所への道を教えます。光の射す方へ走りなさい。」

途切れ途切れながらもそう言って、咳き込む。

俺たちはシスターから離れたくなかった。

「嫌だよシスター!一緒に逃げようよ!!」

イロハがそう言うとカナデもネルもシスターに抱きついた。

「それは出来ません。私も逃げれば、軍は血眼になってあなた達を探すことでしょう。私の最後のお願いです。お逃げなさい、私の愛しいこどもたち。」

イロハ達はシスターから離れたがらない。

俺とアスカ姉はシスターの言葉を思い出していた。

『 2人とも、よく聞いてください。この孤児院も、いつ危ない目に遭うかわかりません。今は戦争をしていて、とても不安定です。ですから約束してください。私が逃げなさいと言った時には、ほかの兄弟を連れて二手に分かれて逃げなさい。私が道を作ります』

あの時、なんであんなこと言ったのかわからなかった。でも、シスターはこの状況を予想してたんだ。

俺とアスカ姉は「シスター、ありがとう。ごめんなさい。」と言ってネルたちをシスターから引き剥がした。

「いってらっしゃい。」

シスターはそう微笑むと、人差し指を立ててそこから黄色い閃光を放った。

そしてそれはカーペットのように地面に延び、ふたつの道となった。

「シスター、何してるの?どうしたの?」

ネル達は状況が分かっていない。でも、ここから逃げないと。

アスカ姉はアズキをおんぶ紐で背中にくくり、カナデの手を引いた。

俺はイロハを背中に背負い、ネルの手を引いた。

「何するの!?シスターもつれて行かないと!!」

「やだやだ!!シスターと一緒がいい!!」

3人はそう言って泣いた。俺達も涙がボロボロ出てくる。しっかりなさいとアスカ姉に叱咤されるも、アスカ姉も泣いていた。

俺たちはそれぞれの輝く道を走り出した。

後ろからは軍人たちの咆哮と、教会の燃える音がする。

鼻につく熱い臭い。人のやける臭い。

口の中の水分が奪われていく。涙が溢れて前が見えない。

あたりは真っ暗で足元のカーペットのような道しか光源は無い。

すぐ近くまでアイツらが迫ってきている。早く逃げないと。

俺達は走り続けた。

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