49階
俺とメルさんが話していると、全員と話し終えたらしいレウさんとミシャくんが居た。
「お疲れ様。私とミシャくんは全員と話を聞けた。皆、ここからの脱出に協力してくれるそうだ。」
ふむ。目的はどうであれ、ここから出たい気持ちは同じっちゅうわけやな。
ビルの中にいたのは、俺を含めて8人。
1番年上の人でも、29さい。年下は14さいらしい。
何人かまだ話してない人もいる。でもとりあえずここから出たい。
俺たちは目覚めた部屋のドアを開けた。
すると、そこには長くてくらい廊下があった。
奥がまるで見えない。
俺は上着のポケットからライターを取り出し、火をつけた。
少し周りが見えてきた。普通のオフィスビルの廊下らしい無機質な白い壁の向こうに、ひとつのエレベーターが見える。
あそこへ向かえばいいのか?
俺たちは薄暗い廊下を無口で歩き、エレベーターに乗った。
重量センサーでもついているのか、1番後ろを歩いていたメルさんがエレベーターに乗ってすぐ、扉は締まり、下へ下がり始めた。
しかし30秒もかからないほどでエレベーターは止まってしまった。
降りると、そこは和室だった。俺は畳だろうが容赦なく踏んずけ、部屋を見渡した。
壁は無数の襖に囲まれ、へやには和風のローテーブルと人数分の座椅子がある。
部屋の広さは旅館にあるようなおおきめの宴会場ほどで、天井は高い。のんびり昼寝でもしたくなるような部屋だ。
「わぁ、広い部屋ですね!!」
最年少で、中学生のらなちゃんが言った。
俺はとりあえず、全員で手分けして襖を全て開けようと提案した。話し合ったところ、
「1人みっつずつあけよう」
ということになった。襖には名前がかいており、取り敢えず自分の名前の襖を開けることになった。
即死トラップはないとのことだが、人を拉致して無惨に殺すような連中を簡単には信用出来ない。
俺に配られた道具は鉈だった。俺の半身くらいあって、刃は鋭く光っている。
漁師が獣の皮を剥いだりするのに便利だ。
俺は襖を素手で触るのに気が引けて、鉈の刃を取っ手にひっかけて開けた。
そこには1冊の本が置いてあった。
題名は書いておらず、子供用の小説位の厚さで赤いブックカバーがついている。
開けると、本に挟まっていたらしい写真が、床にバサバサっと落ちた。
俺はそれらを拾い上げると、写真の人物に目を通した。
見覚えのない人々の写真を1枚ずつ見ていくと、その中に見知った顔があった。
それは新聞を切り抜いたらしい写真だった。
これは、、、俺の母親だ。
あの日から14年、ほとんど会ってない。
俺と同じ茶髪のロングヘアで、目は緑がかった黒。俺は職業柄、髪を伸ばさなきゃいけない。
俺はどちらかと言うと母に似たので、髪色や目の色は母譲りだ。
父親と似ていたのは、鋭い目つきくらいだ。
まぁ、もう死んでるけどな。
取り敢えず写真をポケットにしまい、本に目をやる。
絵本のようだ。
それもモノクロで、かなり残忍な描写が多い。
その中で俺は見覚えのある景色を見つけた。
ああ、これは。
その絵には、1人の女が怒りに満ちたハイライトの無い目で包丁を持ち、「何か」を追いかけている様子が描かれていた。
一時の感情に駆られた人間の様子だ。
その瞬間、目の前がぐにゃりと曲がり、目の中にあの忌まわしき記憶が蘇った。
あの男はしんだのに。あの女は豚箱にぶち込まれてるのに。なんでまだ前に向けないんだよ
ふざけんなあいつら俺がなんでこんなんになっちまったか分かるか!?
お前らのせいだよ返せよ俺の選択肢
法なんかクソ喰らえってんだ。
蛙の子は蛙ってか?そして歴史を抹消したいのか?どんだけ人を決めつけるのが好きなんだよ
誰のせいで死にたいか分かってんのかよ
、、、少し取り乱した。俺は取り敢えず深呼吸をして傍に落ちてる本と鉈を拾い、押し入れから出た。
ほかの人たちのとこにも行ってみようか
隣の襖へ行ってみると、黒いフードを被った白髪の男が居た。先程、レウさん達が話してた人だ。
背が高く、180は超えている。その割には肌は青白くて全身が細い。
大丈夫なのか、この人。
なんて思ってると、彼は俺の方へ振り向いた。
「あ、こんにちは。君が翠くんだよね?僕は東 幸人(あずま ゆきと)。小説家です。レウさんたちから聞いたよ。」
ほう、それなら話が早い。
よろしくと挨拶したあと、ふと思った。
この人たち、命がかかっているというのに冷静すぎやしないか?
ふつうだったら死にたくないと喚くだろうに。
、、、俺は長生きする気はなかったし死にたかったから怖くない。他の人も同じなんだろうか。
だとしたら、ただ俺たちは楽に死にたいだけの怠惰な奴だということだな。
もしくは、未だ暗闇の中で星を探すようなものだ。明るい未来を、まだどこかで望んでいる。俺はまだ、生きていたいのかもしれない。
でも、俺はもう生きられないんだ。
そう思いながら、俺は幸人さんの探索を手伝い始めた。
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