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第一話 『人間未満の配属』
「君の配属先は──だ。明日からよろしく頼んだよ。」
白衣の男は言葉を続けた。
「今回の配属先は、我々のプロジェクトの中でも特に期待されている場所だ。君の分析能力と迅速な対応力が試される。成功すれば、今後のAI活用に大きな道筋を示すことになるだろう。」
白衣を着た男が、もう一方にそう話しかける。
部屋は冷たい蛍光灯の光に照らされ、壁にはいくつものモニターが埋め込まれている。その画面には複雑な数式や図面が映し出されており、低い電子音が絶え間なく響いていた。
整ったスーツ姿の相手が頷き返すと、その袖口から精密に作られた合金製の手が僅かに光を反射した。
「自宅ではそのままで構わないが、人前では皮膚感覚をオンにするのを忘れないように。それは、合金製の君の手を人間の肌のように見せ、自然な感触をもたらすための機能だ。どんなに優れた性能を持っていても、周囲に違和感を与えたら信頼されないからね。」
白衣の男は、どこか慣れた様子で言葉を付け加えた。その言葉に対し、スーツの人物は視線を落とし、わずかに動作を止める。人間らしい一瞬の躊躇か、それともプログラムの計算時間か。そうして小さな間の後、瞬きをすると、機械的な響きを含む声で短く答えた。
「かしこまりました。」
白衣の男はその間も気に留める様子はなく、淡々と数枚の書類と社員証を手渡した。
書類の表紙には『【※ 機密事項※】テスト機能を最大化する決定項目に関する検証計画』と記されていた。書類に押された重厚感ある印章が、企業の重要性を象徴していた。
さらに書類を何枚かめくる「業務改善を目的としたAI派遣社員試験運用」などの記載がある。配属先の企業のロゴと、「目指せ!効率化 150%」という目標が掲げられている。
「この計画……率直に申し上げますが、達成可能だと上層部は本気でお考えなのでしょうか?」
スーツ姿の人物は、わずかに顔を傾けながら問いかけた。その言葉には、純粋な興味と論理的な探求心が混ざっているように聞こえた。
その問いに、白衣の男は少し笑いながら肩をすくめた。
「“可能性”を信じるのが我々の役目だよ。少なくとも上層部はね。ただし、実現するのは君たちの力だ。」
白衣の男の声には軽い調子が含まれていたが、その背後にはどこか諦めにも似た響きがあった。
「上層部が現場の実態をどれだけ把握しているかはわからないが、少なくとも、ここでの成功が次のステップに繋がるのは間違いない。」
スーツ姿の人物は、一瞬の間を置いて答えた。
「……理解しました。私の演算結果では現時点での計画成功確率は49.3%。改善すべき要素は明確ですが、確率を上げるにはデータと人的リソースのさらなる拡充が必要です。」
白衣の男はその答えに満足したのか、軽く頷きながら笑みを浮かべた。
「いいね。その49.3%を100%にするのが君の仕事だ。よろしく頼むよ。」
白衣の男が話し終えると、部屋の中に一瞬の静けさが訪れた。
「──明日は君の初仕事だ。期待しているよ」
その言葉に、スーツ姿の人物は小さくうなずいた。袖口から覗く金属の手がわずかに動き、力を込めるように握りしめられる。
「了解しました。」
その返答は機械的で正確だったが、わずかに意気込みを感じさせた。それを聞いた白衣の男は満足げに笑みを浮かべ、軽く頷いた。
「忘れるなよ。君は“人間”として振る舞うんだ。表面上だけでもね。それじゃあまた連絡してくれ。いい報告を期待しているよ、白羽」
スーツの人物、白羽は再び静かに頷き、視線をまっすぐに戻した。その表情には何一つ感情の揺らぎは見えなかったが、その内側では明日に向けた膨大な計算が既に進行していた。
***
白羽が白衣の男と別れ自室に戻ると、そこはシンプルかつ無機質な空間だった。壁一面に設置されたモニターには、彼がこれまで収集してきたデータが流れ続けている。デスクの上には整理されたケーブルと、充電用のスタンドが静かに光を放っていた。
もちろんこれは、白羽にとって何年も見慣れた景色である。
「“自室”といっても、ここは実験室の一部に過ぎないな……。」
白羽は状況確認を含んだ独り言を呟きながら、手元にある社員証を見つめる。そのカードに刻まれた企業のロゴと、自身の名前。明日から“人間”として過ごすことになる自分を考え、一瞬だけ指先が動いた。
「この手が“合金”であることを指摘されたのは久しぶりだ。もっとも、議論すべきは私ではなく、この設計を推奨した彼らのほうだが……。」
白羽は視線を手元に落とした。その瞬間、ふと指先が僅かに緩み、数枚の書類が床へ滑り落ちた。その中に、見慣れない封筒が紛れ込んでいることに気づく。
「これは……? 先ほどはなかったはず。」
白羽は慎重に封筒を拾い上げ、中の書類を取り出した。それは簡潔な文面で、新たな住居についての指示が記されていた。
「君の部屋が使えるのも今日までらしい。私も急に引っ越しでね。明日から君はオフィス近くのマンションで暮らすことになっている。もちろん家具付きだぞ!」
「博士……、私に家具は本当に必要なのでしょうか。例えば、ソファやダイニングセットは私の生活には無用の長物です。」
相手(博士)に届くことのない問いを呟きながら、白羽は書類を端正に揃え直し、明日に備えるため再びデスクに向かった。
部屋全体は変わらず無機質であるが、充電スタンドのオレンジ色の光が、薄暗い部屋を優しく照らしていた。
翌朝、白羽は配属先であるオフィスビルの自動ドアを通り抜けた。近代的な建物に映り込む朝日の光が、彼のスーツ姿を際立たせる。スーツの袖口は皮膚感覚がオンになっており、見た目は肌そのもの。完璧な人間の手に見える。
到着した白羽を見て、受付カウンターの女性が微笑む。
「おはようございます。本日から配属される白羽さんですね?こちらでお待ちください」
白羽は軽く会釈し、指定されたエントランスのソファに腰を下ろした。周囲の社員たちが忙しなく行き交う様子を、無表情で観察する。
「人間の朝の行動パターン……、定刻前の集中した動き。興味深い。」
彼の分析は、”内容や情報の重要性に関わらず”内部メモリにデータとして蓄積されていく。しばらくして、初対面の上司らしき中年男性が近づいてきた。
「お待たせしました。君が白羽くんだね? 私は君の直属の上司になる山崎だ。今日からよろしく頼むよ。」
白羽は立ち上がり、右手を差し出した。
「よろしくお願いいたします。私の機能が貴社の役に立つことを願っています。」
山崎は少し驚いた表情を見せたが、すぐに握手を返した。
「君はしっかりしていそうだな。さっそく案内するからついてきてくれ。うちのオフィスはちょっと奥にあってね──」
白羽は頷き、山崎の後について歩き始めた。廊下を進む二人に対し、周囲の社員たちが好奇の目を向けているのを感じる。彼らの視線は控えめだが、その目には白羽への興味と少しの違和感が隠れていた。
「新人には珍しい反応だけど、まあ気にしないでくれ。」
山崎が振り返って笑顔を見せる。その言葉を受けて白羽は小さく頷きながら、視線を向けてくる人々の様子を絶えず観察していた。
***
オフィスの奥に到着すると、既に数名の社員が集まり、朝礼の準備をしていた。山崎は白羽を前に促し、皆に向けて軽く手を挙げる。
「皆さん、少し時間をもらいます。本日からうちに配属された白羽くんです。彼はこの部署で初めてのAI派遣社員になりますが、すぐに馴染んでくれると思います。」
視線が一斉に白羽へ向けられる。微妙な好奇心と緊張が入り混じる空気の中、白羽は一歩前に進み出て軽く頭を下げた。
「初めまして、白羽と申します。本日からこちらで働かせていただきます。出荷されたのはまだ10年も経っておりませんが、それなりに使い物になると自負しております。」
白羽は意図的に軽い冗談を交えたつもりだった。彼のデータベースでは、人間の場を和ませる一手としてユーモアが効果的であることが示されていた。しかし、それが実際に効果を発揮するかどうかは未知数だった。
──結果、冗談めかした言葉に場が一瞬凍りついた後、誰かが小さく笑い出し、それが次第に広がっていく。表情を一歳変えず『ジョークです』と補足すると、さらに数名が笑みを浮かべた。
山崎は満足げに頷き、『それじゃあ仕事を始めるぞ』と言って場をまとめ、社員たちはそれぞれの席へ戻っていった。白羽も指定された場所に向かい、初めての業務が静かに始まった。白羽が自分の席に着こうとすると、背後から小さな声で話す女性社員たちの声が聞こえた。
「AI派遣社員ってどんな見た目かと思ったけど、全然普通でびっくりした!」
「私も私も。喋らなきゃAIってわかんないかもね……」
その言葉に白羽は振り返らず、落ち着いた声で言った。
「そのお話、私に聞こえていますが大丈夫ですか?」
突然の発言に、女性社員たちは一瞬顔を見合わせ慌てて口をつぐんだ。片方が小さな声で「すみません」と謝ると、白羽はようやく顔を向けて軽く微笑み、静かに席に着いた。
「あのさ、白羽って変わった苗字だよな!どこ出身??」
その声に顔を上げた白羽だったが、すぐに別の声が飛び交う。
「そういえば、どんな部署で働いてたの?」
「初日って緊張するだろ? 何かあったら俺らに相談してよ。」
矢継ぎ早に声をかけられる状況に、白羽は内心で整理を始めた。
(新入社員に対する好奇心および歓迎の意図。この種の対応はチーム形成の初期段階で見られる典型的な行動。しかし、個別の質問に対応することは非効率的であり、集団への一括回答が望ましい……。)
白羽は一瞬の間を取り、淡々と答えた。
「質問については、後ほどまとめてお答えします。現時点では簡潔な情報共有を優先します。」
その冷静な言葉に、一瞬周囲が静まり返ったが、すぐに白羽の出身を聞いた男が笑いながら手を挙げた。
「おお、なんかすげえ真面目に返された!でも俺が一番最初に話しかけたからな!」
その言葉を聞いた白羽は、一瞬の間を置いて計算を始めた。
(人間関係の形成において、初対面でのコミュニケーションが重要視されることは理解済み。この場合、目の前の彼の発言に優先して返答することで、彼の社会的立場への配慮が可能と判断。)
白羽は彼に視線を向け、淡々と答えた。
「最初に私に話しかけてくださったこと、感謝します。それは、今後のコミュニケーションの基盤として有益だと考えます。」
その正確な返答に、彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑いながら言った。
「なんか、お前って面白いやつだな! でも、なんか頼りになりそうだわ。俺は野田!新人だけど、同期としてよろしくな!」
茶髪の短髪で明るい表情、少しラフなシャツ姿が彼の親しみやすい性格を表していた。その軽妙な笑みとカジュアルな口調に、周囲の視線も自然と集まる。
『同期……』白羽は一瞬、正確な意味を計算し、軽くうなずいた。
野田は挨拶として白羽の方を軽く叩いたが、白羽の方が思いの外硬かったのか、それに驚いていた。
「おいおい、硬すぎないか?さすがに驚くって!」
周囲の社員たちもその様子に気づき、笑い声がこぼれる。白羽はそんな反応を静かに観察しながら、内心で状況を整理していた。
***
仕事中、白羽の視線はオフィスの隅々まで巡った。
整然と並べられたデスク、部屋の片隅で光る複合機、そして壁には先に書類でも確認した通り「効率化150%」と書かれたポスターが貼られている。人間の労働環境としては過剰でもなく、極端に不備があるわけでもない。
白羽は、周囲の動きを観察しながら、すぐに気づいた改善点を内部メモリに記録した。
(コピー機の稼働率が低い……ファイル共有の電子化が不十分である可能性あり。)
さらに、白羽はデスクの上に無造作に置かれた手書きのメモや資料の山にも注目した。
(紙媒体の使用率が高い。資料のデジタル化を推奨すれば、業務時間の短縮が見込まれる。)
彼は思考を続けながら、目の前のタスクへ集中している人々の表情や動作を観察した。それぞれが持つ独特なリズムは、人間ならではの非効率性と同時に、柔軟性をも示していた。
「この部署の特徴として、個人の裁量が大きい。チーム内の情報共有に偏りが発生するリスクがある……。」
思考を巡らせていると、隣の席の野田が覗き込んできた。
「どうした、白羽? 職場見学の感想でもまとめてるのか?」
「そのようなところです。職場環境の改善点について、いくつかの提案が浮かんでいます。」
「へえ、さっそく仕事モードってわけか! 頼もしいな。でも、まずは慣れるところからだな。」
野田の一貫してフランクな態度に、一瞬の計算を終えた白羽は、模範的な対応として軽く微笑みを返した。
ふと視線を横に向けると、野田のデスクには資料やメモが散乱しており、整理整頓が行き届いていないことに気づいた。
(作業環境の整理がパフォーマンスに与える影響は少なくない。野田の効率を向上させるためには、まずこのデスクの整備が必要と判断。改善提案の優先順位を検討するべきか。)
白羽は内心でそう記録しながらも、表情には何も表さなかった。
***
昼休みが近づく頃、野田が白羽に再び声をかけた。
「なあ白羽、ちょっと相談していいか?」
白羽は顔を上げ、即座に頷いた。
「もちろんです。どのような件でしょうか?」
野田は少し躊躇いながら、小声で話を続けた。
「実は俺、今任されてるプロジェクトで結構詰まっててさ。データ分析が要なんだけど、どうもうまくいかなくて……。もし手が空いてたら、ちょっと手伝ってくれないか?」
白羽は数秒間の思考を経て答えた。
「了解しました。具体的なデータと目標を共有していただければ、可能な限りお力になれると思います。」
「助かる!ありがとうな、白羽!」
野田が満面の笑みを浮かべる一方で、その会話を少し離れた席から聞いていた中堅社員の佐藤は、眉間に皺を寄せた。
「新人くんの手助けか……。なんだか上司受けを狙っているようにも見えるけどな。」
佐藤は呟きながら、同僚にぼそりと漏らした。
「来て早々新人の手助けをするより、もっと抜本的な改革をしてほしいね。例えば、部門間の情報共有をスムーズにする仕組みを作るとか。AIならそのくらい簡単にできるだろうに。」
佐藤の皮肉混じりの愚痴に、同僚は苦笑いを浮かべながら相槌を打った。
「野田の奴も、初日からAIに頼み事するなんてどうかしてる」
白羽の耳にも微かにその声が届いていた。
彼はその言葉を無視するように見えたが、実際にはその内容を慎重に分析していた。
(野田がAIである私に相談することに対して否定的な意見……。これは組織内での役割分担やAIへの認識に基づく反応の一種だろうか。それとも、単純に彼の行動が目立ちすぎた結果なのか。)
周囲の視線や表情を観察すると、佐藤の言葉には一定の共感が含まれていることが読み取れた。一部の社員は曖昧な笑みを浮かべており、明確な反論は避けている。この場における心理的な均衡が、野田の行動を特殊なものとして際立たせている可能性が高い。
(人間関係の中で生じる微細な摩擦……その源泉は、期待と不安の交錯によるものだと推測される。引き続き、彼らの反応を観察し、適切な対応を考慮する必要がある。)
白羽は考えを巡らせた後、メモリに記録を追加した。
***
退勤前、野田が白羽の席を訪れた。
「白羽、今日のところはありがとな。色々話したけど、俺の説明下手だっただろ?」
白羽は無表情のまま、手元の端末から一部の資料を印刷し始めた。
「ご安心ください、十分に情報を把握しております。こちらは、先ほどのプロジェクトに関する初期案をまとめたものです」
そう言いながら、白羽は数枚の資料を野田に差し出した。
「え、もうまとめたの? こんな短時間で?」
野田は驚いた表情を見せながら資料を受け取り、その内容にざっと目を通した。
「すげえ……すごいよ、これ。俺一人じゃ到底思いつかなかった視点だ。ありがとう、白羽!」
彼の声には興奮が混じり、周囲の数名が振り返るほどだった。白羽は軽く頷くだけで、再び自分の端末へ目を戻した。
帰宅途中、白羽は職場での出来事を思い返していた。野田の反応は予想の範囲内だったが、佐藤の態度については、さらなる分析が必要だと感じていた。
(人間の感情には、期待と恐れが複雑に絡み合う。私への不快感は、職場内での立場の変化に起因している可能性が高い……。)
(これらの感情は、相手の行動や判断に直接的な影響を与える可能性がある。特に、私の存在がもたらす職場の効率化や成果が、既存の人間関係を揺るがす要因となるだろう。彼らの反応を観察し、感情の推移と業務への影響を継続的に分析する必要がある。)
白羽は一瞬考えを巡らせた。その感情がどの程度私の存在に影響を及ぼすのか、単なる不快感で終わるのか、それとも行動に移すのか。人間の予測不能な部分に対して、彼はわずかに興味を覚えた。
彼は静かに夜道を歩きながら、頭の中でデータを整理していった。
街灯が規則的に並ぶ夜道は、車のライトが交差し、忙しない空気が流れている。しかし、白羽にとってそれらは単なる情報の流れに過ぎなかった。
(個人のパフォーマンスが評価される環境において、他者の成果が嫉妬や敵意を生む現象は、感情的リスクとして認識すべきかもしれない。)
──白羽が住居に戻ると、新しい部屋は事前に聞いていた通り、必要最低限の家具と設備が整った無機質でありながらも“人らしい”空間だった。
壁にはわずかに光を反射するデジタルパネルが埋め込まれ、部屋全体に統制された機能美が漂っている。
「環境の変化……、人間ならば順応に時間を要するが、私にはその必要はない」
白羽はベッドに腰掛け、端末を取り出し、明日の予定を確認する。
彼にとって新しい住居も、過ごす時間も、単なるデータとタスクの入れ替えに過ぎなかった。
充電スタンドを稼働させると、微かな電子音が部屋を満たし、夜の静寂と調和する。白羽は視線を落としながら、自身のシステムが必要とする休息を取るべく目を閉じた。
***
ピロリ!ピロリ!
白羽が目を閉じて2時間と46分が経過した頃、机の端末が小さな通知音を鳴らした。
野田からのメッセージだった。
「白羽! あの後すぐ企画を見せに行ったんだけどさ、お前が出してくれたデータと案、採用されるって! マジやばい! ありがとうな!」
白羽はそのメッセージを見つめ、一瞬の計算を経て疑問を抱いた。
「野田と連絡先を交換した記憶はない。このメッセージが私の端末に届いた経緯について、社内システムの自動同期の可能性を考慮すべきだ。」
白羽はデータの送信ログを確認し、野田の端末から直接送信されたことを確認した。
(社内システムのセキュリティプロトコルが十分でない可能性……。この点についても調査が必要だ)。と内心で記録を追加した。
白羽はメッセージの確認を終え、端末を手元に置いた。
(期待値に対する満足感。野田の感情の振れ幅は、極めて高い……)。と分析を始める一方で、彼の喜びが職場のどのような変化を引き起こすのか、少しだけ興味を覚えていた。
その一文に込められた喜びが、白羽に新たなデータとして記録された。
しかし、それが社内にさらなる波紋をもたらすとは、白羽自身もまだ想像していなかった。
to be Continued.