拝啓、昔の私へ

拝啓、昔の私へ

小さかった貴女は抗う術も知らず、ただ罵られ嘲られ殴られていましたね。
家族なのに殺してやりたいと思うほどに追い詰められて、人を傷つけ、自分を傷つけていましたね。
誰かを攻撃することで、脆く儚い、自分という存在を守ろうとしていましたね。
貴女はもう少し大きくなると大人を、社会を憎み始めます。
誰も助けてくれないと絶望し、諦め、笑うことをやめます。
笑うのをやめたことで、世間は更に貴女を傷つけ、痛めつけてきます。
心を閉ざし、ただ息をするだけの毎日を生きていきます。
人に愛されなかった貴女は自分の愛し方も人の愛し方も分からなくなって、どんどん人と距離を取るようになります。
あの時代、女性と子どもには何の権利もありませんでした。虐待という言葉も身近ではなく、訴える場所もない本当にひどい世界です。

貴女は少し大人になり、世の中を知るようになります。そうして幾多の困難に出会うでしょう。それは貴女が小さい頃から普通だと思っていた出来事が普通ではない出来事だったと知るからです。
本当は貴女は守られるべき存在だったのだと気付きます。
失われた時間を取り戻すように貴女は人を恨み、家族を憎み、血筋を呪います。人を憎むことで人は生きられるのだと知ります。
しかし、その呪いは自分に返ってます。いつの間にか生きることをやめてしまった貴女は食べることも、飲むことも、眠ることにさえ興味を示さなくなります。貴女を生かしていたのは憎しみだけになります。

今の貴女が生きているのは憎しみがあるから、怒りがあるからです。

こんな事を書いているのに、私はまだ生きています。
死ぬことばかり考えて憎しみの中で生きていたのに、まだ私は生きているのです。
きっと昔の私なら「まだ先のある人生」に絶望していることでしょう。
でも、聞いてください。
今の私は生きたいと思えているのです。
本を読みたい、映画を観たい、行きたい国がある、見たい場所がある。
やりたいことが沢山あります。
きっかけは何だったかよく覚えてないのですが、自分を愛してあげようと思える事があったのです。

ただ粛々と生きてみようと思ったのです。

生きる事を諦めた貴女に伝えたい事があります
「無理をしなくてもいい、頑張らなくてもいい、今を生きてる、それだけでいい」ということです。

生きているだけでいいのです。
自分を褒めてあげてください。
人を殺さずに偉かったですね。
ちゃんとご飯を食べてて凄いですね。
朝起きて、夜眠る。何と素晴らしいのでしょう。
憎しみの心は完全に消えていませんが、時々思い出す程度には薄れています。

昔の私へ。
今の私があるのは、貴女がいたからです。貴女が傷ついて、沢山泣いて、それでも生きてくれたからです。

ありがとう。

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