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「ペット不可物件」で保護ネコと暮らす
ウチには2匹のネコがいる。
ウチはペット不可物件なので、ネコは飼えない。が、毎日庭先の見回りをするノラネコに煮干しを与えていたら、この母娘は勝手に家の中に上がり込み、あちらこちらを嗅ぎまわり、そのまま居ついてしまった。それからもう2年が過ぎた。
イエを汚さないように、すぐに私はネコの多頭用ワイドトイレを買ってきて、常にきれいな砂を入れている。イエの床を傷つけないように、ダンボール製の爪とぎをいくつか買ってきて、部屋のいたるところに置いている。
勝手に入り込んだネコたちはお腹を空かせ、「エサをくれ」と「にゃあにゃあ」鳴いてうるさかったので、スーパーで何種類ものエサを大量に買ってきた。飽きないように組み合わせ、完食するよう工夫をしながら与えている。
夜には柔らかなネコ用ベッドで寄り添い、閉じた目を吊り上げながら、気持ちよさそうに寝ている。そんな様子を見ると、とてもじゃないが追い出せない。明け方には2匹で部屋中を走り回り、朝ご飯を食べたら出窓の陽だまりで長い時間昼寝をし、夕方にはお腹を満たし、また寝る。彼女たちは毎日のリズムを確立しているのだ。
だがしかし、断じて飼っているわけではない。
母ネコは、ノラネコとしての高い矜持を保っている。私が近づこうとすると、気配を察して、さっさと逃げる。チュールを食べるときだけは、夢中になって指までなめるくせに、撫でてやろうと手を伸ばすと「触るな!調子に乗るなよ!!コラ!」という顔つきで睨み、時にはパンチを繰り出す。したがって私はこのキラという母ネコの体温を知らない。毛がかたいのか柔らかいのか、どこを触ってあげればキラが喜ぶのか、想像するしかない。
仔猫は、生まれてすぐに母親に連れられて来た。彼女には、ノラネコの頃の記憶がほぼない様だ。だから、心配になるくらい無警戒で、いつでも擦り寄り、甘えてくる。
ある日歯を磨きながら、長い時間このキキという子ネコを撫でていた。キキは「あちらも撫でて。こちらも撫でて」とコロコロと転がる。
それ以降、私が歯を磨き始めると必ず、キキは私の足元に走り寄り、腹を上に向けて寝転がるようになった。合図は「シャカシャカ」という歯ブラシの音。パブロフの犬的なネコ。
私はキキを撫でる。キキが「もういいよ。ありがとう」と体勢を整えるまで、歯を磨きながら撫で続ける。毎朝と毎晩の数分間、キキと時間を共有する。貴重なネコ時間。おかげで私の気持ちはなごみ、歯は綺麗になった。
これまで何度か管理会社に「ペットを飼えないか」掛け合ったが、必ず「大家さんが許してくれない」と断られてきた。
いつか台所の換気扇が壊れた時には、連絡を受けた管理会社の社員がウチにやって来てネコを見つけ「契約違反」と指摘するのだろう。
ネコを追い出すか、引っ越すか。
答えは決まっている。