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続Mの告白-4

あずさは裕福な開業医の家に生まれた。兄がいたが医学生のときに留年を繰り返して放校となり自らガソリンを被って火をつけ自殺した。3歳下のあずさは親の期待を一身に受けた。成績優秀で国家試験まで躓くことはなかった。卒業後は生身の患者さんと会話するのが苦痛で手術で麻酔をかける麻酔医になったのだという。

「毎日日の当たらない手術室で、会話するのは麻酔医か看護師か外科医」

あずさは振り返る。1年下の研修医の指導をしていたとき「どんな麻酔剤を使用したら楽に死ねるか」という話になった。最初にマイケル・ジャクソンが常用していたことで有名なブロポフォールという鎮静剤を入れてその後筋弛緩剤を注射する方法がいいのだという。寝ている間に呼吸が止まる。

「そしたら彼女、一週間後に手術室から催眠剤と筋弛緩剤を盜んで自宅で注射したの。まだ26歳だった。」

「それから」あずさは唇をなめた。腸閉塞の手術の麻酔を担当したときのことである。手術後の回診のときに飲食禁止になっていた老人がらくのみをとろうとしていて手を伸ばしていたので、取ってあげたのだという。老人はらくのみからの水を飲んでまもなく絶命したのだ。

「そのときはわけのわからない何ものかに突き動かされて、らくのみを渡したのだけれど。5年たった今でもどうしてあんな行動をしたのかわからない」

今年に入って60台の女性で脊柱管狭窄症の手術麻酔を担当した。あずさは連日の深夜勤務のため疲れていた。背中から插入されている下半身麻酔用のチューブから入れるべき麻酔剤を間違って静脈注射してしまったのだ。そのため不整脈が頻発、血圧低下により術中死した。患者には元々狭心症があったためその発作が起こったのだろうということであずさが責任をとることはなかった。

「少なくとも最初の研修医の事件は自殺した本人が悪いのであって、あなたが言わなくても何らかの方法で自殺したと思う。あなたが責任を感じるのはおかしいし、殺したという認識は飛躍しすぎだよ。おじいさんのことは確かに未必の故意っていうところで許されるべきではないかもしれない。けど飲食禁止の患者さんの傍にらくのみがあるというのもおかしい話で、病院の管理責任も問われる問題じゃないかな。あと3番目は過重勤務を強いている大学病院のシステムがよくならない限りあなたにかぎらずそのような人為的ミスは繰り返されると思う。というか通常の精神状態が保てなくなるような病院、辞めたら?」

あずさはそんな私の忠告には耳を貸さず続けた。

「患者さんが手術室に運ばれてくるでしょ。点滴を入れる。静脈麻酔で眠らせてから喉にチューブを入れて麻酔器と連結させる。人工呼吸器が作動するまでバッグを揉んで空気を送るのね。私が揉めば患者は呼吸し、揉むのを止めれば呼吸は止まる。麻酔剤を多く入れれば血圧も下がる。そんなときこの人の命は私が握っているんだって実感するの。多分麻酔を辞められない医者というのはそういう全能感に依存してしまった人もいるんじゃないかな」

あずさはそこまで言うとベッドに横になった。吸入した麻酔剤が頭に回ってきたらしい。

「でももうなんだか疲れちゃった」

「もう寝たら?」

「私はキメセクとかやったことないんだけどやってみたい」

そう言うと私の腕をつかんだ。ベッドの上で転がりあずさの上になるように誘った。そういえばいつもあずさが攻める一方で私が攻めになったのは初めてだった。うなじを舌で追う。汗とローションの入り混じったしょっぱさが舌を刺激した。乳首をなぞるようになめあげるとあずさは切ない声をあげた。もっとも敏感な部分をやさしく指でこすっていると、とめどもなく愛液が流れては落ちシーツを濡らした。征服するということは食べることに似ているかもしれないと思った。熱いその部分に指でを插入し、指が奏でるその淫猥な音に興奮した。私自身の敏感な部分をあずさの膝に当てて擦りつけながらあずさのつきあたりをリズミカルに圧迫する。あずさの壁初めてイソギンチャクの触手のように私の指に纏わりついた。私は逆に、食べられてしまうのか?あずさはほどなく絶頂を迎えて呻いたあと静かに弛緩した。

「ねえ、頸をしめて」

あずさが甘い声でささやく。いつも締められている側だった私は何者かに操られるようにその華奢な頸に手を回した。いつもされているように親指を交差させて両方の頸動脈をゆっくりと締めていく。

「もっと強く」

今あずさの命は私の手の中にある。私はこのいたいけな個体を完全に支配している。私は渾身の力を込めた。



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