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色褪せる夏

シンガポールに来てからずっと考えているのはいかにしてタイに帰るかということばかりだ。あれだけ、楽しかった毎日がこの国に来た途端単調で本当につまらなくなった。

最初のうちは場所のせいにせず、与えられた環境で楽しむ努力をした。
それでも一向に生活が色付いていかない。どんどんとモノクロになって、タイどころか日本での暮らしの方がマシな気さえしてきた。

思えばタイにいた頃は毎晩「今日も楽しかったー」
と独り言でも言いながら眠りについていたが、今は感情がない。

なぜなのだろう。
一つ一つの要素を見ればシンガポールも悪くない。
むしろ良いことも多い。
今回はあいまいにでもこの原因と今後の方針を探りたい。

仕事

会社に入ってしばらくしてトレーニングセッションの中で上司から質問をされた。

「あなたはなぜこの会社に入ったのですか?」

10人近くいる新入同期は一人ひとり理由を語っていく。
「シンガポールという多文化が共生する土地での経験は役に立つと思ったから。」
「SNSマーケティングを学ぶことで市場にインパクトのある人材になりたかったから。」
この会社の人間は皆賢い。私が聞いたこともないような英単語を使って、大層な理由を答えていく。

私の番になった。
「内定が一番最初に出たので。」
ジョークだと思ったのだろう。皆が笑った。

しかし、これは本当だ。
タイで失職してから時間に追われる中での転職活動で、仕事の内容は選ばず一番最初に内定が出た場所に入った。

タイの会社に就職した時は少なくとも「タイに住みたい」と思いながら仕事を決めた。

しかし今はどうだろう。私はなんのためにシンガポールにいるのか?

仕事そのものを見ればパワハラだらけの前職とは比べものにならない
ほど、今の仕事は良い。
接待や気遣いの必要ない職場で仕事に集中できる。
給与もとても良い。
ともに働く仲間も優秀だ。

しかし、この仕事を選んだ理由だけがない。

以前の職場と今の職場では私の仕事に対する姿勢は間反対だ。
前回の職場では自分の能力を可能な限り発揮して攻めの姿勢で取り組んでいたが、今の職場では「仕事だから」と割り切って、結構適当に時間を過ごしている。特段やる気を出したからといって結果の大きく変わる仕事内容でないのも後押しして、平日の私はロボットと大差ない。

かといって、それでやりがいが無いとかいうことはない。
成長もできる。

そう考えると仕事はあまりシンガポールが気に食わない理由では無いのか?

綺麗なオフィス

文化

SGが私の肌に合わないと最初に感じたのは、下見で訪れてすぐだった。
感覚的にこの国は自分に合わないと感じてしまった。

まず人だ。

シンガポールにいると日本に負けないくらい人々のつながりが細分化されていることを感じる。自分の生活を淡々と送る。真面目で他者には無関心。

この国で人の優しさに触れることは基本的にない。
念のために述べておくが、シンガポール人は話せば皆良い人たちだ。

しかし、国全体を覆う価値観として、資本主義と能力主義の比重が価値主義より遥かに重い。金銭のやりとりやメリットの発生しない人とのつながりは断ち切られて効率化された時間が流れているように感じる。

シンガポールにいる日本人は皆育ちが良く、一流大学の出身だ。
賢く、聡明で良いやつばかりだ。
一方でタイにいる日本人のように向こうみずで、情熱だけにモノを言わすような面白い人には出会わない。

人以外の文化で言うと、食も結構合わない。
インド料理か中華。安く食べられるところは限られていて、栄養のバランスが明らかに悪い。

美味しいものを食べようと思ったらかなりの値段を払わないといけない。

タイでの食事が恋しい

歳と道

ここまでシンガポールに問題点の全てがあるように述べてきたが、私自身にも問題が全くないわけではない気がしている。

まずは年齢の問題だ。私は今年で26になる。
楽しく人生に輝きを持って過ごせる年齢は終わったのかもしれない。
何も面白くなくても淡々と毎日を過ごせる大人にならなければいけない
年齢かもしれない。

また道の問題もある。
次に目指したい自分の姿を描く力がこの1ヶ月で目に見えて衰えた。

常に疲れ果てて、エネルギーを失っている。
昔大好きだった、「情熱」とか「希望」とかの言葉はいつの間にか片鱗も無くなってしまった。

本来ならシンガポールの環境の中でも自分の道を描いて進むこともできるはずだ。しかし、この国で自分が幸せになる絵はどんなに頭を捻らせても描くことができない。

流石にこのまま暮らすのは辛すぎる。もう少し頑張って耐えてみたら慣れてきて楽しく暮らせるようになるだろうか。

まずはなんとかタイで改めて暮らせるように調整してみて、年末までにそれが難しければ一度日本への転職も視野に入れたい。


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