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タイの教訓

2023年7月5日朝9時。チャンギ空港に到着してホステルに向かう。
12人の共同部屋に1ヶ月ほど滞在して家を探す。薄暗いロビーの椅子に腰掛けると自分がとても疲れていることに気づいた。

仕事は来週から始まる。

今回はタイの振り返り。
今整理しておけば、これからの仕事や生き方にきっと役立つと思う。
後で改めて読んで気付きがあったら嬉しい。

マリーナベイサンズ前
タイが恋しくなる

車の実力

高校時代の太鼓部にいた時だ。
直近に控えた発表に向けて演目の通し練習をしていた。
その通しでは何かの拍子に曲のテンポが著しく上がってしまった。

テンポが上がること自体はそんなに問題ではない。
テンポが上がって演奏が乱れてしまうと演奏はダメになってしまう。
それでも速い方が勢いも疾走感もあって、本番でメンバーのやる気に火がついているとどうしてもテンポは上がりがちだった。

そんな私たちに顧問がよく聞かせた話がある。

日本の道路では一般道で60km。高速でもせいぜい100kmが速度制限だ。なのに、生産される車のほとんどが180kmは出る。なぜかわかる?車自体を100kmまでしか出ないようにすれば済む話なのに、なぜそうしないか?
それは余裕が必要だからだ。100kmでしか走れない車が100kmで走り続けたらすぐに壊れてしまう。君たちは今180kmまで出せるのなら180kmで走ってはダメだ。

この話には2つ教訓がある。
まず自分の実力の全てを常に発揮し続けることには無理があるということ。
そして2つ目は、もし180km出したいのなら200kmで走れるようにしなければいけないということ。つまり求められているアウトプットのさらにその上の実力を自分の中に準備しなければいけないということだ。

3月から働いていた会社では私は常に全力だった。全力でやるので結果が出る。結果が出ればさらに周りの要求は難しくなり、それにも応え続けて行くと段々自分の最高速度を超える力で走り続けなければならなくなる。そのうち結果自体にも不備が出たり、自分自身も消耗して立っていられなくなってくる。

今回だけではない。これまで何かの土俵に立たされると私は全力以外出したことがなかった。相手がなんであろうと関係ない。簡単な仕事にも私の実力を超えた仕事にも全力。その度にクタクタになり、周りの期待にも応えられず居場所を失うケースは多かった。

では次からどうすれば良いだろうか。
まず、仕事に取り掛かる前に、どのくらいの質と量が求められているのかよく観察する必要があるだろう。ただ闇雲に全力を尽くしてしまうのではなく、今からの勝負に対して必要十分な労力を推し量る。その上で実力を行使していく。力が足りなければ、成長して最高速度を押し上げるか周りに協力をお願いする。

全力で何かに取り組むのは楽しいし、何より興奮する。
まさに車を最高速度で飛ばしたらスカッとするのに似ている。

それでもより遠いところまで行きたいなら上の教訓は役立つかもしれない。

グレーの美徳

今年1月、タイに観光客として訪れた人の国籍別数のトップは陸路からの入国が可能なマレーシアだった。さて、2位はどこかわかるだろうか。日本でも、中国でもない。ロシアだ。

アジアトラベルノート
『訪タイ外国人観光客、1月は韓国人が大幅増 約17万人で国籍別3位に 日本人は約46000人で16位』

ウクライナ侵攻以降、ロシア国内では海外に移動する富裕層が激増している。大手企業のロシア国内からの撤退や兵役と言論弾圧から逃れるために海外に訪れる。去年10月のロシアからの直行便再開以降タイ・プーケットのロシア人観光客は急増した。訪日ロシア人数もコロナ明け以降回復傾向にあり、2023年1月までに2019年ごろの水準まで回復しているが、それと比較してもタイへのロシア人観光客の延びは異常だ。

NHK国際ニュースナビ『「ロシアには帰りたくない」タイに殺到するロシア人の本音とは?』

ではタイ人たちはこれをどう捉えているのだろうか。
結論から言えば、「大歓迎」している。

観光業はタイの主力産業だが、コロナで長い間この利潤が皆無に等しかった。コロナが明けた今、ロシア人観光客の大量流入は復活に拍をつけている。

産業の視点からは歓迎かもしれないが地元の人たちはどう捉えているのか。
知り合いのタイ人たちに聞いてみると答えはどれも似ている。

「戦争は良くない。でもタイは関係ない。」
全くその通りだ。

しかし、ふと思う。
今回のウクライナ侵攻に関して日本で聞けば日本人からも同じ言葉が出てくるだろうか。
「日本は関係ない。」
とはっきり言う日本人がどれだけいるだろうか。

きっと、ウクライナを擁護したりプーチンを批判する言葉が最初に出るのではないだろうか。

この侵攻の件に関しては経済的・政治的背景があるが、それを抜きにしてもタイ人は常に争うことを最大限避ける傾向がある。それは規模の大小に関わらない。

友人関係で対立があっても首を突っ込まない。
良くも悪くも傍観。自分の立場はグレーを保ってどちらにもつかない。

これが日本人からするとタイ人が「はっきりしない」「適当」という印象につながっているのではないだろうか。しかし、見方を変えれば賢くて平和的な国民性だ。

以前の職場で一緒に働いていた同年代のタイ人女性がいた。彼女は名門タマサート大学出身の秀才。はじめ彼女は日本語がわからないと聞かされていた。しかし、日々の言動を見ていると、どう考えても私と上司の会話を理解している。彼女は日本語がわからないフリをしているような気がしてきた。めんどくさい日本人同士の仕事に首を突っ込まないようにしているのではないだろうか。

なんで日本語話せないフリしてるの?" 
いきなり日本語で聞いてみた。

彼女は黙って私に微笑むだけだった。

日本人の文化だろうか。対立する2極があればどちらかに付くのは自然な流れだと感じる。しかし、客観的に見ればほっておいた方が得なことも多い。はっきりしない、グレーでいることの美徳をタイで学んだ。







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