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懐中電灯

どの本で読んだのだか忘れたが、いいことが書いてあった。確かDubaiにいる時に読んだ本だ。

人の視野とは暗闇を懐中電灯で照らすようなものだ。立っているその位置から照らせる範囲は限られている。「見ることができる範囲」と「今見えている範囲」は違う。歩きもせずに全て見えたつもりになってはいけない。

もし今あなたが困難な状況に立っているなら、立ち止まってはいけない。歩きながら周囲のチャンスにいつもより注意しなければならない。歩き続ければ、次の目標もアイデアも自然に見えてくる。

苦しい時ほど行動せよ。
確かこんな内容だった。
苦しい時はゆっくり休みたくなる。
部屋でYouTubeでも見てゴロゴロしたい。

しかし、現状が苦しいならそこから脱しなくてはいけない。そのためには行動が必要なことは言われてみれは当たり前だ。

八方塞がり

仕事がなくなった翌日。
私はAsokのパブで朝からビールを飲んでいた。

これからどうしよう。

私が一番最初に連絡したのは以前の就活で内定を貰った企業の担当者だった。日本、タイ、ネパールの3カ国の皆さんとは今も良好な関係だ。状況を説明して、もし可能ならそちらでお世話になれないか確認する。

内2社はいつでも歓迎だという。
しかし、向こうも人事のプロだ。
「もちろん構いませんが、大塩さんが本当にやりたいことができる仕事を改めて見つける時間をとってください。その上でウチが必要ならまた連絡ください。」

パワハラで部下をゴミみたいに扱う大人がいるかと思えば、どこぞの馬の骨にここまで親身になってくれる大人もいる。色んな人間がいて面白い。

次に就活エージェントに改めて登録。以前お世話になった2人のエージェントにすぐ連絡。加えて7社ほど転職プラットフォームに登録する。

いいアドバイスがもらえそうな友人にも一通り連絡をする。彼らに今の状況や不安を話すと少し心が落ち着いた。

色々動いているうちに、状況が整理されてきた。今の取り組まなければならない問題は3つ。

1.次の仕事を見つけること
2.タイで転職活動ができるよう一度出国して観光VISAを取得すること
3.次の仕事の給与が出るまでのお金

どこから手をつけたらいいかさっぱり検討もつかない。

誰かいいアドバイスがもらえそうな人をLINEの友達リストから探すと適任がいた。

LGBTQ+の催事があった

挑戦の化け物

私が退職する2週間程前。会社のベトナム支社を任されていた担当Tが突然退職した。Tとは面接の際に東京でチラリと顔を見た程度だったが、タイとベトナムでそれぞれ協力して仕事することもあり、何度かメールもやり取りした。Tは社内で強烈にタフな男として有名だった。

私が東京で面接を受けた際に趣味を聞かれた。
「散歩と喫茶店巡り、あとランニングも好きです。」
「ランニング!それはTさんと気が合いそうですね。Tさんは東京から新潟を走破したり、世界各地のトライアスロンに参加する化け物ですよ。」

東京から新潟を走破?!
300kmはある。確かに化け物だ。

それ以来、Tとはしっかり話す機会がなく退社してしまった。風の噂でBKKに戻っていると聞いたので、飲みに誘って見る。

返事はすぐきた。
「大塩さんも退社されたと聞いて驚きました。早速昼から飲みましょう。」

Phromphomの居酒屋で待ち合わせる。
私を見つけると、悟ったようにTは一言。
「大塩君。やっぱりね。」
私が退社すると最初からわかっていたようだ。

Tの退社理由も私と同じ。上司の人扱いの悪さに嫌気が刺したのだそうだ。
一通り前職の愚痴を話し終えると本題のこれからの話になった。

なぜタイに来たのか。
今回の仕事をやってみてどうか感じたか。
そもそも本当にやりたいことはなんなのか。

互いに状況と思いを話していく。
私が「でも」とか「難しい」という単語を使うと、
「いや、できる。君なら絶対大丈夫。」
とTは私を励ましてくれた。

ほぼ初対面とは思えない。Tと話していると本当になんでもできる気がしてくる。

「君は若いんだから!まだこれからだよ!」
私も今年で26だ。そろそろ「安定」が求められているのだと感じている。
そう伝えると。

「何言ってんの。俺はこの年でも自分のやりたいことに嘘はつかない。チャレンジできなければ、その時こそ本当に終わりだよ。」

なんで私は日本でこういう大人に出会えなかったのだろう。

勉強しろ。将来役に立つから。
人に合わせろ。ルールを守れ。
自由に色々していいのは20代だけ。
いずれ地に足つけろ。

違う。
私がなりたい大人は今、目の前にいる。
かつてDubaiで出会った大人達と同じ目をした挑戦の化け物。

軟弱者

VISAの問題もあり、ノロノロと転職活動をするわけにはいかない。観光VISAを取得できても猶予は1ヶ月。貯金の問題からもこのくらいがデッドラインだ。

タイの求人に片っ端から応募を出すが、返答がこない。流石に3か月で退職した第二新卒への風当たりは冷たい。

また、タイで現地採用を行う業界はほぼ限られている。
それは製造関連。特に機械業界だ。
タイでは自国で生産することに技術的障壁がある分野への外資参入が優遇される。一方で、そうでない業界の経営には厳しい制約がある。この背景からBKKの日系企業の求人はほぼ製造関連だ。

このノンテック採用で若手となると、営業しか仕事はない。経営体制や社内文化も似たり寄ったり。パワハラがないような大手で働くとなれば現地採用は少なくなる。

気持ちが焦る。
もうタイでは働けないかもしれない。
それどころか、日本ですら会社を3か月で辞めるような軟弱者は採用されないかもしれない。

そんな気持ちを晴らすようにとある求人の応募がスイスイと進んでいた。
シンガポールのIT広告会社だ。

書類選考、英語の筆記、英語面接、ロープレ、人物評価。日本で大手を受けた時のようなしっかりした採用フローだ。面接担当官も私を気に入ったようだ。

内定通知は追って送るという。

怖い。また、変な会社なのではないか。
もう週末にレストランを下見したり、おじさんの酒の相手をするのは嫌だ。

どちらにせよ、VISAランで一度タイを出国しなくてはいけない。シンガポールがどんなところなのか見に行って見よう。

気持ちは落ち着かない。
仕事の疲れは癒えてない。
話が急で自分でも何をやっているのかよくわからない。

何がなんだかよくわからないが、行動するしかない。行動しないと次の目標もやるべきことも見えてこない。

まさに暗闇を懐中電灯一つで歩く感覚だった。

最後まで読んでくれてありがとう。
次もすぐ書くので、楽しみにしてくれると嬉しい。

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