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海の飛沫 - #3 「君と出会えたのは、運命だ!」

「……こわっ」
「なんで!?そう思わない!?」
「思わねーよ」
「でもでもだって、2人とも同じ大学の同じ学年の同じ学科で、2人とも常に教室の1番後ろの席に1人で座っていた!これを運命と言わずしてなんと言う!」
「おい、学科で友達作れずに浮いていた事実を明言化するな」
「そうとも言う!」
「……」
「でもそれでこうやって今仲良くしてるんだから、つまり運命じゃない?」
「……偶然だろ」
「偶然じゃない!だって君も私も、新学期早々クラスに友達を作って前の方に座っていた人生って、あると思う?」
「抉るな抉るな。……俺はともかく、お前はあるだろ。現に今、他の友達もたくさん居るみてえだし」
「ないよ!だって私、人見知りだもん!」
「偉そうに言うことじゃないだろ……。ていうか最初お前から話しかけてきただろ、その時点でコミュ力の塊じゃん」
「君がノートに落書きしてなかったら話しかけなかったもん~」
「……どんどん傷を抉るの辞めてくれないか……」
「とにかく、この出会いは運命ってわけ。さらに言うと、私たちがこの大学を受験したのも、また運命」
「いやそれは話が広がりすぎだろ。俺別に絶対ここじゃなきゃ嫌だった、みたいな信念もないし」
「でも選んだでしょ?」
「……俺が受かった大学の中で、1番偏差値が高かったってだけだよ」
「ほら!選んでるじゃん!さらに遡ると、この大学がギリ受かるラインになるくらいの学力なのも、その程度の勉強をしていたのも運命!」
「馬鹿にしてる?」
「それ以外にも、私たちが生きてきた中での色んな出来事の理由とか、そもそもの私たちのモノの考え方とかも、私たちが生きてきた場所とか、出会ってきた人たちに影響を受けてるなって思うの。だからここに居るのも、運命だな~って思う」
「あー、そういうことね。先週の授業の話か」
「?」
「行動遺伝だろ?人の能力に影響するのは遺伝か、それとも環境かってやつ」
「……そうだっけ?」
「同じ授業受けてただろ……」
「一緒に1番後ろでね!」
「うるさい。……でもたしかあの授業だと、半分は遺伝が影響してるって話だったろ」
「え、でも、遺伝も運命じゃない?」
「……は?」
「君のお父さんとお母さんの遺伝子を半分こして君ができてる。君のお父さんとお母さんが出会うのが運命だったから、君が生まれるのも運命」
「突然俺の両親をラブストーリーの舞台にひっぱり上げないでくれ……」
「ちーがーうーの!だから、君のお父さんとお母さんも色々な運命によって出会って結婚して、それで君を産んだって話なの!そこで生まれ育ったから、君は君のその考えを持ってて、だからこの大学にいるの!」
「すげー強引じゃん……」
「強引なのかな。でもそっか、君がそう思うのも運命か」
「は?」
「君と私が出会って、お互いの考えを持って話してるから、君が強引って思うのもまた運命」
「はあ……」
「君のそのため息も、また運命!」
「……」
「あ!つまり、波紋みたいなものかも!海に雫が落ちて、それで波紋広がって、それによってまた波紋が生まれて、それで……」
「あーはいはい、俺らは海の飛沫ってわけね」
「そう!海の飛沫ってわけ!なんだぁ、理解してるじゃーん」
「それで、その海の飛沫であるお前は、運命によってテストで赤点取って再試を受けるってわけね」
「そうそう!そして同じく海の飛沫である君も、運命によって私に勉強を教えてるってわけ!」
「開き直るなよ……。とにかく、運命どうのこうのは一旦置いといて、とっとと次の章行くぞ」
「速いよ~!はぁ、君のスパルタもまた運命……」
「……黙らないともう帰るぞ」
「すみません!どうか助けてください先生~!」

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