「恋って偉大だ」で始まり、「そして大人になってゆく」で終わる物語
恋って偉大だ。
いや、正確には偉大「らしい」。
流行りの歌の殆どが恋心の機微を表現しているし、漫画も小説もドラマも映画も、恋愛要素が1ミリもない作品なんて、少なくとも自分が今まで生きてきたこの短い人生では見たことがない。
恋人ができたら他の誰よりもその人を優先することが当たり前なのに、逆にその1人を裏切ればまるで殺人でも犯したかのように非難される。
そんなハイリスクな感情にも関わらず、アイドルの熱愛や芸能人の不倫が後を絶たないのだから、よほど偉大で何にも代えられない感情なのだろう。
神が讃えられるように世間から崇拝されているその感情は、同じく軽視すると神にそれをしたときと同じ扱いを世間から受けることになる。
「薄情だ」「まだその有難みに気が付いていないだけ」「いつかきっと分かる時が来る」
まるで巨大なカルト集団だ。
しかも世界ぐるみだからタチが悪い。
恋をしない人間が居たって良いじゃないか。
恋に興味が無い人間が居たって良いじゃないか。
それによってお前らに何の害を与えた?なぜ強制してくる?どうして「恋をしない」選択肢を与えてくれない?
そんな感情は、外に出すことすら許されず、心の中にしまう事を余儀なくさせられる。
僕はこの気持ち悪い世界が大嫌いだ。
大嫌いだけれどここで生きていかなければならない。
だったら、せめて身近な人にだけでも、「僕は恋をしない人間だ」というのを認めてもらいたい。
奇人と思われようが構わない。
僕が僕であることを認めてほしい。
恋をしない僕を認めてほしい。
僕が恋をしないことを認めてほしい。
僕は恋をしてはいけない、何故なら周りにそう認めてもらいたいから。
無我夢中にアイデンティティの確立のために行ってきたその行動が、自分の首を背後からゆっくりと締めていることには気付かず。
僕はそして大人になってゆく。