『神様の子』
『神様、神様。
どうか私たちをお守りください。
この先の未来を明るく照らしてください。
神様、どうか。
私たちの神様でいてください。
【19××年、山奥の集落で隣神教という宗教があったとされる。
十年に一度、村人から神の子という神の依り代を選び、依り代を崇拝するというものだった。
依り代を10年務めた村人は、神の供物とされ山奥の社に生き神として祀られ、神の元に還すしきたりであったらしい。
近年、開発が進み、隣神教の存在が明るみになり、公的機関の介入があった。当時の集落では介入に過度の抵抗があったが、依り代1名、前代の依り代1名の保護に成功している。
集落はその後、再度信仰を繰り返さないよう引き続き監視の目がついている。
隣神教がなくなった村は穏やかに衰退しているとのこと。
以上が、隣神教についての報告である。】
「美咲さーん、お酒頂戴ー」
「花音君、飲みすぎですよ」
「これっぽっちじゃ酔えないよ」
「全く、これだからザルは……」
ぶつぶつと言いつつ、お酒を用意している美咲はなんだかんだ言って悪い人ではない。
「あっ、そうだ。来週の火曜日はお店閉めた方がいいよ」
「何さ、唐突に」
「うーん、神様のお告げ?」
「何よそれ」
美咲と花音のとりとめのない会話が続いていると、来店を知らせるベルがなった。
「いらっしゃいませー」
「お邪魔します」
「綾瀬さんじゃないですか」
「綾瀬だ!」
綾瀬、と呼ばれた人物は花音の隣に座る。
「お注文は?」
「花音君と同じものを」
「綾瀬、今日は仕事終わったの?早いね」
「ええまあ。花音君は相変わらずですね」
「それが俺の長所だからね~」
全く、とため息を吐きながらも、綾瀬の花音を見る目は優しい。
「お待たせしました」
コトンっ、と花音と綾瀬の前にグラスが置かれる。
「あっ、美咲さん。これは僕の戯言として聞き流してくれていいんだけど……」
少し言い難そうに綾瀬は言う。
「……来週の火曜日はお店閉めた方が良い、かも」
「それはもしや……神のお告げ?」
「えっ、なんでわかったの」
「さっきピンポイントで花音君が言ってたから」
「あー……」
とても気まずそうに頬を掻く綾瀬。
「ほらー、綾瀬も言ってるんだし、来週の火曜日はお店閉めてどっか遊びに行こうよ!」
「うーん……綾瀬さんが言うなら……」
「ねえ、美咲さん。俺のお告げは信憑性ないの?ねえ?」
不満そうな花音をまあまあ、綾瀬は諫める。
来週の火曜日こと、その当日。
三人は遊園地とショッピング、食事を楽しんでいた。
……因みにだが、同時刻、美咲のお店の隣の店舗で立てこもり事件が起こったことを示しておく。
「ねえ、綾瀬」
「何だい、花音君」
「俺らの未来予知ことお告げっていったい何?」
「神様として祀られてたからじゃないかな」
「そんなざっくりな理由?」
「……人間の言霊って怖いよね。僕たちってさ」
俗にいう神様の子だからね。