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「好き」には「憑き」が付きもので
深夜2時のゴールデン街
終電を計画的に逃したお客さんや、あてもなく新宿を彷徨い、薄ぼんやりのネオンに誘われ入店したお客さんが多くなる時間。
その日の店番、僕は素敵な常連さんや新潟からやってきた初来店のお客さん(A子さん)やら数人と楽しいとりとめもない会話をしていた。
そうして飲んでは喋り飲んでは喋りを繰り返していると、製氷機の氷が追い付かなく、急遽近くのコンビニに買い出しへ。
店の幅と体格も相まって出入口へ抜ける時にお客さんと体が密接になる。
常連さんに店番をお願いし、「デカブツでごめんなさいね」「通りまっせ」と先に謝りながらお客さんの後ろを通る。
無事氷を調達し店に戻り、再びデカブツがお客さんの後ろを通るのをアナウンスし通っていると、A子さんが僕を見ているのに気が付いた。
普通ならここから恋のストーリーが始まり、僕らは様々な葛藤やしがらみを乗り越えながら永遠の愛を誓うのだが、A子さんの表情は僕に恋する表情ではなく、その逆、何か違和感を感じている表情だった。
別に気にする事でもない気がしたので、「なにか?」とは聞かずに、営業を再開して再びとりとめのない会話に花を咲かせていた。
暫くして、僕が急に「前行ったバーの店長に『幽霊見えるでしょ』と言われたことあるんです」と、皆に話始めたのだ。
自分の話なのに『話始めたのだ』という言い草は変だと感じると思うが、自分でも何で急にそんな話をしたのか、あれから数日が経った今でも分からないから、そう書かせてもらう。
僕がひとしきりエピソードを話し終えると、A子さんの表情が曇り始め、「あの……」と話し始めた。
「これ、すっごく言うか言わないか迷ったんですけど……お兄さんがその話し始めるので、言わせていただくんですが」
A子さんの思い喉がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あたしも『視える』とかは全くないんですが所謂『臭う』タイプでして……さっきお兄さんが氷買う時に後ろ通ったじゃないですか。あの時凄い臭いがして……お兄さんの匂いとは別の何かの臭いが」
あらあら……
僕はゆっくりと話すA子さんの言葉を理解し、どこかひんやりと冷や汗が出てくる。
「多分です。確証はないんですけど、十中八九お兄さんって別の何か一緒に連れていると思います」
先月、父親にも同じことを言われたのを思い出し、ゾッとした。
「でも、なんか嫌な感じはしないので別に大丈夫だと思いますよ」
一瞬、空気が凍る店内。
A子さんも空気を感じたのか、笑って見せて
「しかもほら! 飲み屋とかそういうとこって『居た』ほうが儲かるって言うじゃないですか」
普通の人は嫌がるでしょう、A子さんの言葉。
でもオカルト狂いの僕にとってはとてもありがたかったわけで。
「マジすか!? この前父ちゃんにも同じこと言われましたよ!」
「嬉しいなぁ」
と、逆にテンションが上がってしまった。
金曜24時からお待ちしています僕の時間
一部の人には2人営業に見えるのではないでしょうか。
お待ちしています。