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背番号15の移籍によせて
いつかグルージャというクラブを好きになれたらいいな、と思ってはいたけれどじゃあ何かそのためにしたのかというと何にもしていなかった。好きになりたくて好きになるってなんだ?と思われるかもしれないけれど、私はとにかく「この土地でこの土地のクラブを愛したい」という思いでいっぱいだったのだ。人間は好きになったものを応援するより、応援しているものを好きになりやすいと何かできいたことがあるので、とにかく応援することから始めたいと、何もかもわからないまま前潟イオンで行われる新体制発表会を見に行った。上のフロアからエスカレーターで降りてくるキヅールの姿に度肝を抜かれて「あー、こういうクラブのこと好きになれたらしあわせだろうな」と思った。今年の春には紫波にクラブハウスができるけれど、できれば新体制発表会はこれからもイオンとか、そういうサポーター以外の人が偶発的に居合わせる場所でやってほしいなと思っている。
相変わらず何もわからないままグルージャの試合を見にいくようになった。ゴール裏しか知らないのでもちろんホーム自由席のチケットを買う。あんまり真ん中に行くのは気が引けて春先の間は大体メインスタンド寄りで見ることが多かった。試合が膠着状態のとき、プレーが止まったとき、なんとなしにサブの選手がアップをする様子を眺めたりする。昔カシマや横国で観戦したときには、双眼鏡片手の友人が「あっ、◯◯がアップしてる!」だの「◯◯がユニフォームに着替えてる!」だの逐一ベンチレポートをしてくれていたことがあったが、私自身はピッチ内のことにしか目がいかなかったので、あらためて試合以外のところに目線をやれるのは新鮮な感じがした。
そこでアップの合間に時折ピッチを射抜くような視線で見つめていたのが加々美登生選手であった。第一印象は「今まで見てきた人間の中でダントツ横顔綺麗だな」とかいうプレーに1ミリも関係ないことだったのは反省している。こんな風にピッチを見ている選手が、ピッチ立ったとき、どんな風に試合に絡んでいくんだろう、と思いながらゴール裏の右隅がぼっちの私の居場所になった。
もうピッチに入ったら彼にしか目がいかない!と思ったのは、2023年5月3日のホーム長野パルセイロ戦のこと。0-3のビハインド、拓都くんが中に入れたボールを未勇くんが折り返し、登生くんへ。一度目の低い軌道のシュートは弾かれたけれど、跳ね返されたボールをしっかり足元におさめてふわっと浮かせたきれいなロングシュート。その後チームはさらに1点を取られて、試合としては全然及第点はあげられないようなものだったけれど、その1点をうばってくれた姿が今でも忘れられない。その日、私の人生に久々に「好きなサッカー選手」ができた。コンスタントに試合に出る時間が増えてスタメンに定着すると、この場所からだとよく見えないんだなということに気が付いて私も逆サイドにコンバートした。
勝てない試合が続いて苦しい時も目の前のボールを諦めないところが好きだった。一度ボールを奪われても体勢を立て直してすぐに奪い返しにいくところがすきだった。セットプレー、どんどん上手になって次はどんなキックを見せてくれるんだろうと楽しみだった。試合のあとタオルを掲げているサポにちょっとはにかんで視線をくれるところも。
いままでの人生でサッカーを好きだった時間は他の何の趣味より長いけれど、サインをもらいにいったり、なにか伝えたりしたことはなかったし、これからもしないと思ってた。カシマのサポーターだったとき私はあくまで何十万人といるサポのうちの一人だったので、私ごとき一人が声を伝えようが伝えなかろうがなにもプラスもマイナスもないと思っていたので。でもグルージャを応援するようになって「私なんぞの声でもないよりマシだ。できるだけでかい声出して、手高く上げて大きく見せよう」と思うようになったし、「チームは勝てていないけれど私はあなたたちを応援している」ことがちゃんと届くようにしようと思ってSNSのアカウントを作ったり、ちゃんと試合後にタオルを掲げたりするようになった。オタクは健気だ。
2024年の最終節福島戦後、はじめてファンサを受けにいった。いま伝えなかったら「うちのチームの登生くん」に好きを伝える機会は今後ないんだろうと思ったら泣きそうだった。来シーズンを過ごすクラブがうちで、それを応援できたら本当は一番嬉しいけれどどこにいっても登生くんのサッカーが大好きで応援している。怪我をしないでたのしくサッカーをしてほしい。それだけを伝えて生まれて初めて、大好きなサッカー選手からサインをもらった。宝物だなあと思いながらも、もっとハッピーで希望に満ちたときにもらっておけばよかったな、とちょっとだけ後悔した。
🎵かーがーみとーい ララララララー
登生くんのチャントが大好きだ。
You’re just too good to be true
I can’t take my eyes off you
君はありえないほど素敵 君から目が離せない
ほんとにそう、まったくそう。きっとこれからもそう。どうか移籍先でもたくさんの人を夢中にさせてほしい。真っ白なユニフォーム以外も間違いなく似合っちゃうところはちょっとだけ妬けてしまうのだけど、きっと私もそんな姿にすぐに慣れてしまうのだと思う。それでも登生くんのプロデビューが私の大好きなクラブだということはずっと自慢のたねなので。
プロ生活をグルージャではじめてくれてありがとう。大好きなゴールを見せてくれてありがとう。もしかしたら違う時期でも私はこのクラブを好きになれていたかもしれないけれど、いまの登生くんといまのグルージャを応援できてよかったです。
どうかいつまでも健やかで、怪我なく充実した選手生命を全うしてほしい。
これからの君の人生に幸多かれ!