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クリスマスになると思い出す、好きな人とトキメキの時間を過ごしたはなし

 昔は一年間で最も楽しみな日が12月24日というぐらいクリスマスが大好きだった。

 欧米の本ばかり読んでいた小学校時代は、朝起きたらリビングの大きなツリーの下にプレゼントが置いてあるようなクリスマスにとても憧れていた。姉とクリスマスツリーの飾りつけをして、サンタさんに欲しいおもちゃをお願いする手紙を書いて、イブは一番お気に入りの服を着て家で母と姉と一緒にチキンとケーキを食べる。25日の朝は早くプレゼントが見たくていつもより早起きしたものだ。
 父は仕事で留守がちだったので家族パーティには参加しなかったが、ローマ字で書いた”サンタからの手紙”をくれたりして、父なりに愛情を注いでくれていたように思う。

 中学に入ってお菓子作りが趣味になった私はクリスマスケーキ作り担当になった。黒柳徹子さんがテレビで披露していた ビスケットで作るブッシュドノエルを作り、映画「ホワイトクリスマス」を観てクリスマス気分を盛り上げるのが私のルーティーンとなった。
 「ホワイトクリスマス」は私が映画好きになったきっかけのうちの一本で、あの定番曲と美しい歌声はもちろん、昔のハリウッド映画独特の煌びやかな雰囲気と、いわゆるアメリカのクリスマススピリッツ的な王道ハッピーエンドのストーリーを見ると気分が高揚した。

 私が今までに過ごした中で一番思い出深いクリスマスイブがある。

 大学時代、都内のホテルでバイトをしていた私は、当然クリスマスイブもシフトが入っていて予定を何も入れていなかった。夜10時過ぎにバイトを終えて「このまま帰るのは寂しすぎる!」と思った私は、サークルの同期で気になっていたA君に思い切って電話してみることにした。A君は長身のイケメンで後輩女子からも人気があり、イブ当日にヒマなどという事はないだろうと思ったが、私は彼のそこはかとなく漂うヲタ臭に一縷の望みを抱いていた。

 何度もためらいながらようやく電話してみると、彼はクリスマスとか関係なく自宅で友達と試験勉強中だった。それまでサークルのイベントでしか顔を合わせた事がなかった私がイブの夜という重めのタイミングでいきなり電話しても大丈夫か心配だったが、彼は軽い感じで「じゃあ駅前のドーナツショップで会おうよ」と言ってくれた。
 ドキドキしながらドーナツショップで待ち合わせし、コーラを飲みながら今日のバイトの話なんかをしていると彼は「ホントはうちで一緒にクリスマスパーティやりたいんだけどB(一緒に勉強していた男友達)に会わせたくないんだよなぁ」と言った。私はB君がいようがいまいが、このままバイバイするよりはA君の家に行って楽しく過ごしたいと思ったので「いいじゃん、3人でパーティやろう」と言ってA君の家に行くことになった。

 コンビニでお酒やおつまみやケーキを買いこんで3人でワイワイ過ごしていると、A君の心配した通り、酔ったB君が軽いノリで口説いてきた。私は適当に流していたが、時間が経つにつれてB君を止めないA君にちょっとした怒りが湧いてきて、B君が隣に来て肩に手を回してきてもわざとそのままにしていた。
 だんだん気まずい雰囲気になり、B君がトイレから戻ってきたタイミングでようやくA君が「ちょっと彼女と2人にさせてもらっていい?」と言った。B君はちょっと不満げだったがA君が真顔なのを見ると「じゃあ俺ちょっと横になるわ」と言って寝室に入っていった。

 私はリビングのテーブルを挟んでA君の向かい側に改めて座り直した。しばらくの沈黙の後、A君は今日私から連絡があってすごく嬉しかった事、もしかして僕の事好きなのかなと期待したけど今日の私の態度を見ていると単に遊び友達を探しているだけなのかと感じた事などを冷静に語り始めた。
 私は内心、彼も自分に好意を抱いてくれている事を知って有頂天になったが、まずは誤解を解かなければと思い、先ほどの態度を謝罪して素直にA君のことが気になっていると伝えた。するとA君はようやく笑顔になり、テーブル越しに私の手をギュッと握って「良かった。じゃあ付き合おう」と言った。その日はリビングで2人で寄り添って寝た。ドキドキして全然眠れなかったけど。

 A君とはその後しばらくして別れてもう何十年も会っていないけど、この夜の出来事だけはなぜか今でも、その一連の会話とか彼の誠実な眼差しとか自宅のソファの感触までが臨場感を伴って思い出される。
 私が今でもこの出来事をときどき懐かしく思い出してしまうのは、今はすっかり失ってしまった「恋心」というものに対する未練があるからなのかもしれない。

おわり

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