POI申請を愉しむ⑤(磨崖仏・後編)
今回長くなりそうだから前編・後編に分けます。最初書きかけてたら、知人が最新の研究成果をくれたので「コレも載せたい」と思ってしまい、説明すること含めて冗長になりそうでした。
続きになります。長い海岸線をテクテク歩いてようやく目的地に着きました。フックのような外形をした小さな湾になっています。その湾のやや出口寄りに磨崖仏があります。イメージですが湾の奥から船が出る時、右舷に磨崖仏が見える感じになります。航海の安全を祈願してそうな雰囲気。
最初着いた時の様子です。海の中に浸かってる、というのが正直な感想でした。これホントに全部出るのかな?左右にある燈籠が浮いてるように見えますね。
この岩は広島花崗岩といい、今から7000万年くらい前の白亜紀にできたものです。恐らく後背地からゴロッと海の方に落ちたものがコアの部分だけを残して風化し、今のような楕円形状になったものと思われます。
潮が引くまでに時間があるので、説明板を見ます。周辺には他にも石碑があったり、八十八箇所の地蔵も数が多めだったりで昔から名所だった感いっぱい。
三原市教育委員会の設置したものです。重文指定された昭和50年の段階では、しまなみ海道もなかったはずです。船でここまで来たんでしょうけど、当時今よりずっと不便だったと思われます。
まだ当該期のことを十分に理解していませんが、この周辺には中世の塩田荘園があった弓削島、古くから海賊の島として知られる生口島・大三島など、中世の交通の要衝が並んでいます。この地も同様に天然の良港として重要な意味があったと思われます。
写真の奥の方が港になりますが、何艘も並んでいるのがわかるでしょうか。船は右手を通って湾の外に出ていたのだと思います。
また右手は西なのですが、上の説明板にも「西の面に向かって地蔵が…」とあります。言外に西方浄土に向かっていると言いたいのです(けど役所が宗教的な発言は慎まねばならないから控えめになってる)。中世墓などでも西を意識して作ることは一般的だったので、そういう意味も併せていると考えられます。
そろそろ潮が引き始めたので、周辺を歩きます。陸に近い砂浜の奥に、小さな石碑のようなものがありました。右手に天保二(1832)年とあります。
こちらは磨崖仏の脇にある文章を写し取っているのだそうです。左から2行目「于時正安二庚子年九月日…」とあるのが見えます。こちらは磨崖仏に書かれている内容と同じことが書かれています。実は潮と風雨にさらされるうちに銘文は判読しにくくなっていたのですが、この記録のお陰で正確に知ることができます。正安二年とは1300年となります。
17時近くなると、潮もほぼ完全に引いてきました。18:25がこの日の干潮だったのですが、ほぼ潮が引いたのでストビューを撮り始めました。
やっぱりなのですが海中にあるので足下がヌメヌメします。少し前に古墳申請にいったのですが、その時足を踏み外して田んぼ(の用水路)に派手に落ちたことがありました。携帯は生活防水だったので、なんとか守れましたが、モバブーとコードが死んでしまいました。(注:申請して田んぼ壊したのではないです、休耕田隣の用水路でした
で、磨崖仏の撮影時、かじぃさんとやり取りしてたんだけど(上記のことを知ってるから)、こんなメッセージが。。。
今回は海水なので落としたらシャレなりません。本気で慎重に歩きました。お陰で無事でした。
ラストに最新の研究成果を少しお知らせして終わりましょう。
三原市教育委員会『三原市の文化財』2016によれば、願文含め全体が傷んでいるようです。海に洗われる関係もあるようですが、幾つか原因があるようです。2018年に東京文化財研究所から出た論文を見ると下記のようなことがわかってきました。
参考:朽津信明ほか「多視点ステレオ技術に基づく磨崖和霊石地蔵の劣化状況評価」『保存科学№57』2018
①1986年にFRPで作られた磨崖仏レプリカと現在のそれを三次元モデルで復元し、30年間で変位がどの程度だったかを計測→全体の0.56%が変化していた
②変化した部分は現在の海水面から20㎝前後の範囲に集中
③同時に過去30年間で広島の海水面は20㎝上昇→(特に②との関連も踏まえ)漂流物などが磨崖仏に当たって破損した可能性あり
④海水準変動曲線から類推すると1300年当時の海水面は現在よりかなり低かったと想定される→昔から日常的に水没していたのではない
以上のようなことから、今後海水面が上昇することで傷む範囲が広がる可能性が高そう…って知ってるがな!みたいな話ですが、論文は色々検証してたのでお暇な時に読んでみて下さい。
オマケ:帰り道に「夕日が美しい!」とあった場所を歩いたら、確かに綺麗な夕日でした。ミカン農家の方が軽トラで通りかかって「港までなら乗っていきんさい」と言って送ってくれました。チャリにしなくて正解!w
以上です。