見出し画像

日本の深海探査\(^o^)/オワタをまとめてみた

割引あり

 下のまとめ見てイラっとしたから書く。この問題について、もとものづくり企業 (某重工メーカー) ででっかい内燃機関を作ってた僕が解説をしようと思う。なお、有料パートでは僕の経験をもとにした説明を書いた。専門的な内容を踏まえてこのまとめにかかれてることをどう解釈すべきか書いたので、是非読んでほしい。
 なお、勢いで書いたので、誤字脱字や変な文章があるかもしれないがそこはご容赦願いたい。

まとめ

  •  日本の深海探査艇は1989年竣工の "かいよう6500" からこの方更新がなく、これからも新造でもっと深度の深いところまでいこうという様子はない。

    • この点で日本の深海探査は停滞しているといわれても仕方ない

    • ただし、"しんかい6500"で日本の領海の95%程度まで調査できる状況で それ以上の深度を目指すのはコストメリットがあるか微妙

  • とはいえ、 "かいよう6500" は竣工から35年を経過しても更新がないのは機器の保全、今後の深海探査の遂行の観点からは問題。

  • 今後の方針としては、"かいよう6500"はもう少しだましだまし使って、自律運転できる海洋探査機作る方が海底探査の色々な目的から考えると妥当であろう。


僕の感想

  • 多くの方は諸外国 (暗黙のうちに中国と韓国を示してることがおおそう) との対比で日本は有人の深海探査艇もろくに作れないとか言ってるの、もう車も自律運転しようかという時代に人間様を危険に晒して10000mの深海に行ってもらおうっていうのに等しく、他人の生命を何だと思ってるのかおぞましさを感じる。時代は、 「おたくまだ人間を海底10000mまでやってるんですか、我が国は人命を最優先させる観点からそういうのはもう自律運転でやってます。専制国家は色々と大胆なことができて羨ましいですね。」っていうマウントを取る のが最先端だろう。

  • 日本の現状認識、諸課題の設定、諸外国の動向からこれからの日本の行く末を考えるというのはとても骨の折れることで、単純に日本\(^o^)/オワタっていうのって本当に楽だし、何か言ったような気持ちになれて最高の趣味だな 。

  • なんかもとのTogetterのやつ、中国は10000m目指すのに、日本はそれはおろか昔作った"かいよう6500"の建造技術すらないとか言ってるの、凄いナイーブな話で、 どのレベルの建造技術のことをいってるのか考えないでただ報告書に無理って書いてあるのをみて "かいよう6500" はロストテクノロジーになりました日本\(^o^)/オワタとかいってるの、自称オタクなのなら率直に言って愚か

  • 文科省の会議はそれなりに冷静な議論がされてて、お金との兼ね合いを考えたら割と今の日本の政策としてはベターな結論だろうと思う。懸念は "かいよう6500"の更新。その他のAOV (自律運転する無人深海探査機) 頑張ろうとか、ROV (無人深海探査機) はレッドオーシャンだしやめとこって判断は悪くないと思う。

文科省の報告書を眺めてみよう

名簿

 まず面子の確認が一番大事だ。委員の方々はここから見れる。大体は大学と国研とメーカーで、メーカーからは川重が出席している。日本で潜水艦を作れるのはほぼ三菱重工の神戸 (以下、三菱神戸) と川崎重工の神戸 (以下、川重神戸) だけなのだが、 今回は川重の番 だったのだろう。

第一回 現状報告と問題提起

 議事内容が議事録にまとまってて、流し読みをしてみた。論点は、

  • 日本の領海には深海が多いので、探査が必要だ。

  • 深海探査は重要だが、深海探査艇の保有数は東アジア地域では中国が図抜けている。日本はキャッチアップされてしまった状況。

  • 深海探査艇も色んな種類があるよ。

 気になったところをピックアップしてみる。
 JAMSTECも川重も当然ながら物凄く冷静で、技術的に正しい議論をしてることがわかる。この20年に一度というのは本当のところで、本音言うと20年でもちょっと厳しい。もう20年前の図面なんてほぼ古文書だからだ。

メーカーの立場から言いますと、HOVが出ていましたけれども、我々も防衛省向けに深海救難艇という潜水艇を作っています。やはり技術伝承のためには、20年に1隻は作らないと、なかなか技術伝承できません。そういう意味でも「しんかい6500」がかなり古くなっています。これは三菱重工さんが作られましたので、技術伝承がどうされているのかは分かりませんが、我々の経験からすると、20年に1隻はHOVを作り続けていかないと技術者は育たないということです。特に工作サイドの細かいところの技術、昔は職人芸であったこともあるところをどうしていったかということも、20年も経ってしまえば分からなくなるというのが現実でございます。以上です。

深海探査システム委員会(第1回) 議事録:文部科学省 (mext.go.jp) より 

おそらく6,000mまで測れると、世界の海洋の98%ぐらいを調査できるからではないかと思います。10,000mは、さらに深いところで未知のものが見つかるのではないかという挑戦的な意味合いや、技術的なチャレンジの意味合いが強いのではないかと思います。

 実際にチタンでこのような玉を作るときは、まん丸のチタンを作ったり、2つに合わさったチタンを綺麗に溶接する総合力があって初めてできるものなので、技術力の高さをデモンストレートしていることになるのだと思います。特に中国のほうは、そのような気がします。

深海探査システム委員会(第1回) 議事録:文部科学省 (mext.go.jp) より

 大体今より深いところまで行くかは中国のデモンストレーションにどこまでお付き合いしますかっていうのにどういうスタンスで臨むかによる。結構古い記事だが、元三菱でJAMSTECの方の見解はやはりそのようである模様。

第二回 深海探査艇の需要調査とか

 飛ばすけど、学術界からはどんな需要があるかっていうヒアリングをしている。この記事の趣旨から外れるので、詳細は飛ばす。

第三回 深海探査艇

 深海探査艇に求めることと、深海探査艇を作れるかどうかの話。主に 一番上で上げたまとめで問題だって言われてるやつについて議論されており、この話題の一番のポイント 。議事録はこちら

 例によって、話題になってたところをピックアップする。しかし川重の湯浅さんってすげえな。エグゼクティブフェローのポジションにいるんだから当たり前だけど。

 最後に、有人潜水船です。これはオーダーメイドにならざるを得ないので、国産化は必須だろうと思っています。搭載機器は、AUVと同じような機器を使えるということになりますので、輸入品の採用も可能だと思っています。日本の水中の機器メーカーも作っていただけるということであれば、部品レベルから国産化ということもできるのでないかと思っています。ただし、耐圧殻は球殻の製造技術は現在ないと言わざるを得ないかなと思っています。
(途中省略)
 こちらは「しんかい6500」で、三菱重工さんと、チタン自体は神戸製鋼さんが作られたということを聞いております。材料としてはチタン合金になりまして、曲げだとか溶接、真円度の確認というところはポイントになってくる。我々が伝え聞くところによりましても、三菱重工さんにしろ、神戸製鋼さんにしろ、チタンの耐圧殻を作るというのは現状難しいと伺っております。

深海探査システム委員会(第3回)議事録:文部科学省 (mext.go.jp) より

 みんながワーワー言ったところである。
 注目してほしいのが、引用した箇所には、 「現在ない」とか、「現状難しい」と書いてある ことだ。これはどのレベルの無理なのかによるが次のようなグラデーションのうちのどれかだ。

  • 昔は作れたが今は生産設備、生産ノウハウがないので今すぐには作れない。

  • 昔は作れたが法規制、倫理的な問題で今はもう作れない。

  • 今も昔も作れない。そもそも技術的に無理。

他にも色々なオプションはあるかと思うが、 常識的に考えて一番上の状況だと考えるのが自然だろう。何故なら昔、1989年頃に既に一度作っているから だ。昔作れていたものを今現在はもう作れない、ロストテクノロジーだというのはものづくりを嘗め切った発言であり、技術に対する無知に起因する過去への過大なロマンティシズムで、古代ローマの女の子がギリシャ人のまねをしてたのと同じようなものを感じる。
 昔に比べて冶金の技術も、鍛造技術も、機械加工技術も、溶接技術も驚くべき進歩を遂げており、銭金に糸目をつけずやれば1989年の建造時より良いものがつくれると考えるのが自然だ。そういう発言は、日本刀はロストテクノロジーでもう同じものを作れないというのと同じである。日本刀を古式鍛錬で昔と同じものを作るのは無理だが、日本刀と同じ機械的性質をもつ刀を今の技術で作るのは造作もないことである。
 従って、この いまは作れない というのは、現有設備、現有人員では作れない訳だが、その気になればまた作れると考えも差し支えない。そう思う根拠は、 僕のものづくり企業での経験等踏まえて有料部分で解説しようと思う。これは個人的にはかなり面白いと思ので是非読んでほしい
 というか、この いまは作れない というのを 今は という制限を外して読むのはとても愚かなことである。しかも耐圧殻の製造可能性に言及された議事内容の中で 二度も 出てくるのである。注意力散漫なのか、敢えて日本\(^o^)/オワタという論調に誘導したいのかのどちらかのように感じる。
 もし本当にこの 今は で全称命題が回避されていることに気がつかなかったのならきっとインターネット上でも色んな炎上騒ぎに加担するネットイナゴのようなものなのだろう。

 ちなみに言うまでもないことだが、川重さんのスライドはとてつもなく素晴らしいものなので、チラリとでもご覧いただければ色々なことがわかると思う。ものづくり企業のスライドはかくありたいものだと思う。

https://www.mext.go.jp/content/20240205-kaiyou-000033580_02.pdf

第四回 総括と今後の方向性

 ここでこれからどうするというのが書かれている。

https://www.mext.go.jp/content/20240222-kaiyou-000034148_001.pdf

すなわち、最初にまとめた、

  • 有人深海探査機は "しんかい6500" をギリギリまで使う。いずれリプレースが必要になるだろう。依然として有人でやる意味は色々なところにある。

  • しかしながら、効率性を考えると有人よりも、無人深海探査機や、自律式の無人探査機の開発に積極的に投資するべきだろう。その中には当然AIとかVRの技術も組み込むことになるだろう。

というやつで、僕としては極めてまっとうな結論であろうと思う。有人で10000mまで潜ろうとすると現有の "しんかい6500" よりさらに分厚い耐圧殻を作らないといけない。こちらに "しんかい6500" の耐圧殻の圧壊試験の写真が載ってるが、尋常じゃない厚さのチタン合金が使われていることがわかる。恐らく10000mを日本の規制に基づいていこうとすると10cmくらいの厚さの耐圧殻になるだろう。それを作るのはやはり国家プロジェクト並みの金がかかるのである。

文科省の報告書の読み方

 文章の読み方というのにはテクニックや慣れが必要であり、そういった技術がないといとも簡単に変な陰謀論的なものの考え方に陥ってしまう。一方で、色々な諜報活動では、情報の90%は公開情報から得ているという。しかしずぶの素人がそういう公開情報から何らかの知見を手に入れられるかというとそれは無理な話だ。なぜなら当該領域の専門知識がないとインターネッツや新聞やテレビに流れてる阿呆みたいな量の情報の中から重要そうなものをピックアップできないからだ。
 そう、 そもそも知識がないものは必要なものを目にしても素通りしてしまうのだ 。一方で、そういう人々の無知に付け込んでお金を稼ぐのが情報商材屋であったり、ニセ科学なのだ。
 そして、そうならないためにはきちんとqualifyされた人間が書いたものを情報源にしないといけない。例えば一番上のTogetterのまとめの中で騒いでいる人物は騒いで日本\(^o^)/オワタというだけで、上記にあげた記事の中のはまりポイントにはまっている。表面的にしか記事をよめていないのだ。
 いい加減世の中にそういう誤読に基づいた日本\(^o^)/オワタ論が跋扈していてうんざりするので、元ものづくり企業で内燃機関の研究開発をしていて、特許たくさん出して、国際学会でお話ししたり、論文誌に投稿したり、国内でも招待講演とか呼ばれたりしてた僕がこの辺を内部事情交えながら読み解いてみよう。勿論これまでに書いた内容でもある程度のところはわかるかと思うが、より技術的、技術者の発言の受け止め方に寄った説明である。

 なお、僕の背景についてはこちらの記事を参考にしてほしい。
 また、ここまでの記事が面白かったらスキしてもらえると喜びます。勿論フォローしてもらっても嬉しいです

ここから先は

4,853字 / 1画像

 もし僕の記事が気に入ったらサポートお願いします。創作の励みになりますし、僕の貴重な源泉外のお小遣いになります。そして僕がおやつをたくさんかえるようになります。