見出し画像

母と言う人間。

これは、今までのかあちゃんの素性です。
過去の言葉も行動も変わりはないですが、

私は会話と手話をしています。
母も会話と手話をしています。

あえてその部分は書きませんでした。

なのでこれが本当のかあちゃんです。

私の母、いわゆる、
かあちゃん。

それは私の中で、
大きな影響と衝撃を
与えてくれた人である。

不器用で、
暗やみがダメで、
家事一般できない。
クレイジーで、暴力的で、
すぐ泣くし、酒乱で手に負えない。

でも、
人一倍頑張り屋で、
人一倍努力する人。
ミュージカルが好きで、
笑顔がとても素敵な人。


かあちゃんは、
産まれた時から
難聴であった。

何度か手術をしたであろう。
かあちゃんの耳のまわりには、
複数の傷跡が残っていた。

だが、持ち前の頑張りで、
難聴とはわからないぐらい、
活発で、歌なんか歌ったり、
踊ったりと会話も普通に出来ていたのだ。

そんな時、
私を産んで、
一人で育てて、
無理をしていた為、
かあちゃんの耳は、
聞こえなくなっていた。

かあちゃんは、
鋭い勘の持ち主だ。
洞察力に優れて、
その場の雰囲気や
人の口の動きや、
その人の動き、しぐさや、
目の動き、顔色ひとつで、
何もかも見透すのだ。

かあちゃんに嘘やごまかしは
一切、通じない。

幼少期から、
一緒に風呂に入ると、
指文字で数を数えた。


その習慣は今も私に刻まれて、
風呂を上がるカウントを、
指文字で数えて上がる。


その他の手話は、
かあちゃんから教わった。

かあちゃんは手話を
使いながら話すからだ。

小学校の高学年の時、
ふと、かあちゃんに、
オイラの声はどんな声? 

と聞いた事がある。
かあちゃんは、

口の動きもわかりやすくて、
優しい、かわいい声だよ。

多分かあちゃんは嘘を言った。

小学校入ってすぐ、
習った歌を
大声でかあちゃんに、
聞かせたのに…

なんだい!ん?
ごめんよ…何言ってるの?
ちょっと…うるさいんだよ!

と言っていたからだ。

オイラの声はうるさいんだ…。
とすごく落ち込んだ記憶がある。

まぁ、安い補聴器付けてたから、
大声はただの雑音としかならない。

かあちゃんの耳からピーピーと
音が漏れていたから、
それだけ大声で歌っていたって事だ。
そりゃうるさいと言うはず。

だけど、
かわいい声と言うのは、
まだ幼い頃の私の声の事だと感じたのだ。

かあちゃんはオイラの声が、
聞こえなくなっているんだ…。
オイラの声もう忘れたんだ…。

とそう思ったら悲しくなって、
泣いて落ち込んだのだ。

かあちゃんは自分の声も聞こえなのか、
すごく声が大きいのだ。

知らない人だったら、
この人、ずっと怒鳴ってるんですけど…
と眉間にシワを寄せて近づかない。

だから、かあちゃんのまわりには、
人が寄りつかなかった。

かあちゃんは正直者で、相手かまわず
よく暴れケンカをしてくるのだ。

かあちゃんが耳が聞こえないと、
思って悪口を言うヤツが沢山いたからだ。

だから、かあちゃんは、

言葉と一緒に手や行動が先に出てしまう。

つんぼ、つんぼとうるさいんだよ!
何が悪いんだこのヤロー!

と暴れまわるのだ。


聞こえないと言うもどかしさ、
悲しいのだろう…
いつも泣いて、怒鳴り散らして、
そして私に暴力を振るうのだ。

つんぼって意味を、
小学校の先生に聞いて知った。

差別用語だったんだ。

ある時、役所の人が来た。

かあちゃんが耳が聞こえないと嘘を
ついて不正に手当をもらっていると
誰かが役所に告げ口したのだ。

先に言う。
かあちゃんはバカではない。

すごく努力家で頭も賢いのだ。
そして、
かあちゃんには先見の明があった。

前もって大きな病院で検査をし、
本当に聞こえないと言う証明書を、
手にしていた。

それを役所の人に突きつけ、

アイツだろ!
そんな告げ口したヤツは!
お前らも鵜呑みにすんじゃねーよ!
こっちは苦労してやっと生きてるんだ!
生きる為に必死なんだよ!
お前らに何がわかるんだ!
耳が聞こえないヤツの気持ち、
お前らにはわかんねーだろ!

と泣きながら役所の人に、
ケンカをふっかけて追いやっていた。

そんなかあちゃんとの生活は、
かあちゃんが働いても障害者雇用。
全然、お金にならない。
仕方なく生活保護を受けていた。
それでも、貧乏だった。

かあちゃんがすぐ物を壊すのと、
お酒を大量に飲むからだ。

だから私は、
かあちゃんが生活保護を受けれるよう、
高校を卒業と同時に、
家を出ざるおえなかった。

そして、こっそりとかあちゃんに、
仕送りをしていた。

かあちゃんは、
若くに苦労して頑張ってきた為、
耳がきこえない分、
体に大きな負担をかけていた。
働く事がだんだんと出来なくなった。

耳の聞こえない、
頑固者のかあちゃんを、
雇う所もそうそうないのだ。

働かなくてなった、
かあちゃんは、
だんだん老いてゆくのが早くなった。

ぼーっと本ばかり読んでいる。

月に一度、仕送りを持って、
実家であるアパートに行く。

かあちゃんは、
家事一般ができないからである。

行くたびにゴミだらけなのだ。

それを毎回片付けて、掃除をし、
おかずを作り置きするのだ。
まる一日かかる。


かあちゃんは、
耳が聞こえないから、
もっぱら本ばかり読む。

かあちゃんは京極夏彦さんが好きだった。

それを、私はいつも持ち帰り、
愛読するのが日課であった。

京極堂シリーズの、
探偵の榎木津礼一郎が、
かあちゃんと重なる。

幼少期から、
かあちゃんには能力があると信じてた。
先程、書いたが先見の明を持っている。

耳が聞こえないはずなのに、
その人の考えてる事や行動がわかる。

見た目だけでは、わからない所まで、
その先に何がおこるか、わかるのだ。
何でもお見通しで、鋭い勘を持っていた。

だが、
もうあの時のかあちゃんは、
どこにいったのか…。


かあちゃんは水を出しっぱなしにし、
気付かず、部屋を水浸しにする。

それだけでは、ない。

火をつけたまま忘れて、
火災報知器が鳴っても、
気付かず、近所からの苦情で、
やっとガスコンロの火を止めて、
近所中、大騒ぎになるのだ。

来訪者が来たら壁に取り付けてる、
ランプが光るのだが、
それすら気付かなくなっていった。

だから、毎回行くのが怖かった。
何かしら、やらかしてるからだ。

近所の人達から、
さいさん注意を受けるのだ。

そして、かあちゃんは、
自分の都合が悪くなると、
もう聞こえませ!手話も見ません!
と目を閉じてプイッとするのだ。

だんだん子供っぽくなっていた。

それが心配で、心配でたまらない。

大人になり、かあちゃんの苦労を
痛いほど感じてきていた。

だから、どうしても、
かあちゃんを甘やかしてしまう。

かあちゃんは、可愛い笑顔で、
手話ではお金ちょうだいと示して、
いつもありがとうと言うのだ。

かあちゃんも私を育て、
私が巣立ったら、
何かふぬけになって、
暇を持て余していた。

それで観葉植物やさぼてんを買って、
部屋中に置いているのだ。

観葉植物やさぼてんに、
大きな声で話しかけては、
ずっと土いじりしている。

いつも間にか、
丸みの帯びた、
かあちゃんの後ろ姿が、
とても微笑ましく、
守ってあげなければと強く思う。

音のない世界で、
ひとりぼっち、
何を思っているのだろう。

そう思うと涙が止まらなくなる。

それでも、
なるべく笑顔で過ごしたくて、
かあちゃんとの時間を
楽しい思い出にしようと、
いつも、かあちゃんを楽しませていた。

あの時、もっと、もっと、
かあちゃんとの時間を作ればよかった。

そう後で後悔するのである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?