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とある親子

以前、働いていた職場に、
新しく入社した40代の
ケイコという人がいた。

失礼な話だが、
一度も恋愛とやらを
した事がないと話してた。

ケイコは、いたって普通の人だった。

だが、だんだんと休む事が、
多くなってきていた。

そして、休む時には必ず、
ケイコの母親が、
お休みの電話をしてくるのだ。



これは多分だが…
ケイコは私の事を好いていた。

ケイコが、めずらしく、
出社してきた時には、
もう定時になり、帰宅してもいいのに、
なぜか帰らず会社に残って、
恥ずかしながら、
私の仕事を手伝ってくれるのだ。

手伝ってくれるのは、
ありがたいが、
なんか申し訳ないと言うか…
かなり迷惑していたのだ。

ある時、ケイコがまた、
帰宅せず残っていたので、

大丈夫だから帰っていいよ。

と言うと、ケイコは素直に帰った。

だが、私が仕事を終え、
帰ろうと会社を出ると、
そこにケイコがいたのだ。

どうした?なんかあったか?

と聞くと、

これから一緒にご飯でも
食べに行きませんか?

と誘ってきた。

いつも仕事を、
手伝ってもらっていたので。
お礼を兼ねて、奢らせてくれと、
その誘いに応じた。

近くのイタリアンに行き、
私はワインを頼んだ。
ケイコはお酒が飲めないとの事。

ケイコは、ご機嫌である。

恋愛した事ない人だったと
脳裏に浮かび…
これは…下手な事できないなと、
少し、ケイコとの距離をとっておく。

ケイコはすごくしゃべる。
趣味の話しや特技とか。
今までの職歴等…尽きない。

職歴に、ん?と引っかかった。
ずいぶんと、短時間で、
コロコロと仕事をかえているのだ。
長くて、半年とかだ。

おい、おい、コイツ…。
ヤバいヤツなんじゃねーか…。

今思えば、時すでに遅し。

彼女は、両親の話をする。
未だに子ども扱いするんだと言う。

いつも、私生活を母親に任せて、
生活しているのだ。
両親の言う事を聞いてれば、
なんでもしてくれから、
それに甘えてるとの事。

だから、今まで恋愛も出来ず、
仕事も両親が、反対するから、
辞めてるんだと話してた。

子供の頃から、大事に
育ててもらって、何一つ、
不自由などないと、
自慢げにケイコは言う。

両親は、
常にケイコの事が心配で、
不安でたまらないらしい。

雨が降っていたら、
風が強いだけでも、
暑い日や寒い日でも、
勝手に、
会社に電話して休ませる。

身の回りの物も全て両親が、
揃えてくれ、持ち物すら、
母親が用意するのだ。

せっかくのイタリアン…
ケイコの話を聞いてると、
食欲はなくなってきてた。

ケイコは、両親の
お飾り人形
と思えてしまった。

ついつい、
おせっかいが出てしまう。

お前は、それでいいのか?
両親のいいなりで。
お前の意思はないのか?
反抗とかしなかったの?

ケイコは、笑いながら
だってそれが日常なんだもの。
反抗なんて、した事なーい。
両親に愛されてるなーと思うよ。
大事にされてるんだって感じるよ。

ダメだ…もうそう生きてきたんだ。
疑問にも思わないんだ。
それがケイコの日常だと言う。
それは、間違いなくそうだろう。

ここで私が、
何か言った所でなんになる?
ケイコには、絶対届かないだろう。

そうなんだな。
お前は、幸せ者だな。

そう皮肉にも近い言葉を
ケイコに投げかけた。

ケイコは頬を赤らめ、
うん。今すごく幸せだよっ。
と返事が来た。

…ん?
もしかして…
地雷踏んだか…
これは解釈を間違ってる。
まずい…これは非常にまずい…。

ケイコの解釈だと、
今この時間が、
幸せだと私に伝えてる様に聞こえた。

いや、間違いなくケイコはそう思っている。

もじもじと体をくねらせて、
熱い目線を送ってきているのだ。

これは、どうにかしなくては…
どうする?どうすればいいのだ?
冷や汗をかきながら考える…。

いやーしかしあれだな。
お前も大変だな。
おっとぉ!
こんな時間になってしまった!
そんなに大事にされてるんだったら、
お前の両親が心配するだろ?
早く帰ったほうがいい。
うん。そうだ!
私もこれから用事があるのを、
すっかり忘れていた!
すまん、すまん。
私は会計してくるから、
君はまっすぐ帰りなさい。

そう一方的に話を、
むりくりおり混ぜ、
かなり雑にまとめて、
ケイコを帰した。

なんとか事なきを得た。

これは、ヤバい。
明日が怖い…どうする?

夜は悶々とケイコの事を考えて、
ヤバいよ…どうしよう…と
なかなか寝れなかった。

次の日、ほとんど寝てない状態で、
会社に出社した。

するとだ…ケイコの両親が
会社にやってきたのだ。

私を名指し、
今すぐ呼べと叫んでる。

はぁ…こーきましたか…。
想定外でした…とりあえず話し合おう。

お待たせしました。
ここでは、なんなので、
一旦、ロビーに行きませんか?

と両親をロビーに招き、

わざわざお越しいただき、
この様な対応ですみません。
今日はどのような御用件でしょうか? 

そう言うと、ケイコの父親は、

うちの娘をお前は騙したな。
隠しても無駄だぞ。
ケイコが、昨日泣いて帰ってきたんだ。
お前にもてあそばれたと言っていた。
どう言う事だ、説明してもらおう。

やっぱりそうなったのか…。
参ったな…ややこしいなぁ…。
ここは、正直に事の経緯を話そう。

いつもケイコ様には、
大変お世話になっておりました。
昨日は、
そのまま定時に上がってもらい、
私は仕事があったので、
遅れて会社をでました所、
ケイコ様がお待ちになられてて、
お食事に誘っていただきました。

日頃、お世話になっていたので、
私がおもてなしさせて、いただきました。

すぐ近くのイタリアンのお店で、
食事をし、軽い世間話をして、
あまり時間が遅くなると、
ご両親様がご心配されるといけないと思い、
そうそうと切り上げて、
ケイコ様は、
お帰りになられたかと思います。

ケイコ様からは、
ご両親様からとても、
大事にされてるとお聞きしました。

騙すような事は、
一切しておりません。
そして、
もてあそぶ様な素振りは、
こちからはしておりません。

もし、何かケイコ様が、
お気を悪くしてしまったので
あれば謝ります。

誠に申し訳ありません。

と頭を下げた。

ケイコの父親は、
とりあえずだ!
ケイコは傷ついているんだ。
どう責任とってくれるんだ!

とまだあきらめてない。

私が出来る事は、
限られております。
誠心誠意、ケイコ様に、
謝罪をさせて頂けないでしょうか?


すると、黙っていた、
ケイコの母親が口を開く。

あなたの誠意は、
充分、伝わりました。
こんな所まで、
押しかけてしまい、
すみませんね。

深いため息をする…

わかりました。
今回は帰ります。
そしてケイコともう一度、
この事は、話し合ってみます。

そう告げるとケイコの両親は
帰っていった。

おいおい、マジでヤバかったぞ。
殴られるの覚悟したぞ。
とりあえずひと安心だ。
今回って事は次回もあるの?
マジで勘弁してくれ…。

その日は、会社に事の経緯を話し、
厳重注意されたのだ。

てめーらがこんなヤバい女を
採用するからだろーが!
と心の中でぼやく。

帰りが怖くなり、仕事を早めて、
早退をさせていただいた。

幸い、連絡先を交換していなかった。
これで交換してたら本気でヤバかったな。

次の日、
ケイコの母親から電話で、
ケイコを退職させて下さい。
と電話が来たらしい。
普段から休みがちだったし、
まだ試用期間でもあったので、
会社側も自主退職として認めた。

それから、帰りが怖くて、怖くて。
いつケイコが現れるんじゃないかと、
ヒヤヒヤした。

しばらくしてから、
もしやケイコはまた違う職場で、
同じ事を繰り返しているのかも…
と思うようになり、怖さはなくなった。

こんな親子がいるなんて…。
ケイコはいつまでこの日常を、
続けていくのだろうか。

親がお亡くなりになったら、
誰がケイコの面倒を見てくれるのだ?

ケイコはある意味、
被害者である。
両親の過剰な過保護が
鳥かごの中の様な所に
ケイコを置いているのだ。

身の回りの事から、
ほんの少しの行動一つ、
ケイコは自分では何も出来ない。
後始末も全て両親任せ。

誰でもいい、
ケイコを鳥かごから、
出してくれ人が現れる事を祈るばかりだ。

過保護は自己満足でしかない。
本当に娘を想うのなら、
自由に外の世界に向けて、
迷惑のかけない様に、
育てていかなくてはならない。
時に厳しい事があっても、
すぐに手を貸す事は、
娘の為にはならない事を、
ケイコの両親には知ってほしい。

こんな人達もいるんだなと、
勉強になりました…感謝します。

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