卒業アルバム。
私の小学校の卒業アルバム。
私が通っていた、中学校は、
色んな小学校から寄せ集めされていた。
記憶をさかのぼると、確か…。
みんなの小学校の卒業アルバムを、
それぞれ持ってこようと流れになった。
だから、私も小学校の卒業アルバムを、
持ってみんなで、ワイワイと話していた。
休み時間も終わり、
オレの卒業アルバムはどこだ?
誰持ってるの?返してー!
呼びかけても、誰も知らないと言う。
はて?どこ行ったんだ?
この中に、犯人はいるはずだ。
誰かが、嘘をついている…。
だが、そこで騒いでも仕方ない。
恥ずかしがってるのかもしれないし、
犯人は、こっそりと私の机の中に、
返してくれるかもしれない…。
そう思って、特に考えず、
おかしいなー!ま、いいか!
とその場はおひらきになった。
今は、わからないがその当時、
卒業アルバムには、個人の住所等が書いている。
次第に、私の中学で、いたずら電話が、
至る所で発生していた。
しかも、その被害者は同じ小学校の女子。
嫌な予感しかしなかった。
私の卒業アルバムが悪用されている…。
もし、これが事件となると…。
卒業アルバムを持ってないと言い張る、
私が一番怪しく、犯人になってしまう…。
どうする?オレ…捕まるのか…。
被害は大きくなるばかりだ。
それから、
被害者は絞られて、いわゆる可愛い女子に、
執拗にいたずら電話に、いかがわしい手紙、
変な配達物が届いたりした。
とうとう、警察が動き出す。
事件はあっという間に、解決した。
犯人は成人男性であり卒業アルバムを、
買って、好みの女の子に連絡したり、
贈り物もしていたと自白した。
突然、クラスの男子が転校した。
コイツがオレの卒業アルバム売ったのを、
すぐに噂になって、知る事になる。
あの時、もっと強く、
卒業アルバム返せ!と言えば良かった…。
私も同罪だ…後悔ばかり残るのだ。
卒業アルバムを学校に持って行った事、
きちんと、アイツに返せと言わなかった事。
そんな事件が発生していた時、
自分の卒業アルバムが使われていた事。
特に、誰にも言わずに、自分勝手に、
犯人になりたくないと動かなかった事。
それが、私を責め、攻撃して、
私はなんて愚かな人間なんだと落ち込んだ。
その、卒業アルバムは私の元に戻らない。
懐かしむ事もできやしない。
かあちゃんだって、卒業アルバムに、
お金をかけたに違いない。
オレは、一体何をしてんだよ。
被害者のご家族に申し訳ない気持ちで、
いたたまれなく、学校に行けなくなった。
学校には、行くのだが中に入れないのだ。
学校の玄関でウロウロして、隠れたりして、
かあちゃんが仕事でいない時に帰ってた。
また、
いつもと変わらず玄関前を、ウロウロしてたら、
事務室の人に、話しかけられた。
君、どうしたの?
何かあったの?
事務室においで!
事務室のおばさんに話しかけられた。
今は、学校でも別室登校や不登校に、
色んな対策が行われて、登校扱いされている。
でも、あの当時そんなのないし、
不登校と言うより、登校拒否児扱い。
根本な部分は何も解決させてくれない。
登校しないのが、悪いみたいな世の中だった。
だが、
私はその事務室のおばさんに助けられたのだ。
震えながら、事務室に入る。
おばさんは、暖かいお茶をくれた。
震えを通り越して、ぼーっとしていた私に、
おばさんは優しい顔で、ゆっくりしな。
そう言うと、事務仕事をこなしていた。
私は、そぉーとお茶をすする。
そして、おばさんに話しかける。
あの…先生に言わなくていいんですか?
おばさんは、
ん?言って欲しいの?
と笑いながら事務仕事を続けていた。
いや…そう言う訳じゃないんですけど…。
オレ…自分がどにかなりそうで…。
でも、誰にも言えなくて…怖くて…。
オレが悪いのは…わかってるんです…。
でも…だから何?って感じですよね…。
すみません…オレ迷惑ですよね…。
おばさんは、私を見て、
迷惑?呼んだのは、こっちだよ?
ここには、先生も来ないし、君は、
ただ玄関から、ここに移動しただけ。
少しは落ち着いた?
えらいね、学校にちゃんと来て。
でも、勇気がないと無理な事もあるよね。
君だけじゃない、誰だってそうだよ。
あたしだって、無理な事はあるよ。
そう言うと、笑って、
お茶おかわりいる?
何も考えなくていいから、
今度からは、ここにおいで。
おばさんは、
そう言うとまた事務仕事をしていた。
教室では、味わえない空間と時間の流れ。
それから、私はその事務室に通った。
おばさんは、何も聞いてこない。
ただ、お茶を出してくれ、黙々と、
事務仕事をしているだけである。
この空間だけ、学校とはかけ離れてて、
生徒の声やチャイムの音が微かに聞こえる。
しばらくして、私はおばさんに、
今日は教室に行ってみようかと思う。
ダメだったら、戻ってきていい?
そう伝えると、おばさんは、
わたしは、ここにいるからいつでも、
戻ってきてもいいんだよ。
その言葉が私を後押ししてくれた。
久しぶりに教室に入る。
同級生が、
お前、生きてたの?死亡説流れてたぞ!
と笑いながら、話しかけてくれた。
そして、もう事務室には、行かなくなった。
月日は流れて。
卒業式の日、いつもの様に、
かあちゃんは、行事には参加しない。
息子の晴れ舞台だと言うのに…やれやれ。
私は、おばさんに会いに事務室に行く。
おばさん!見て!卒業証書!
晴れて、中学卒業できたよ!
おばさんは、泣いていた。
おめでとう…おめでとう…。
久しぶりに、事務室に入って、
おばさんと話した。
初めて私を見かけてから、
ずっと気になっていたらしい。
学校の玄関前で、深刻な顔をして、
ウロウロしている私がいつもいた。
あの時は、とっさに声をかけてしまった。
おばさんには、
息子がいて、いじめで自殺したそうだ。
そんな我が子と私が重なったと言う。
学校側は、いじめはないと言われたらしい。
一人抱え込んで、死に至るまで辛かったのに、
何にも力になれなかったと泣いていた。
だから、私が卒業した事がなによりも、
嬉しくて、たまらず泣いてしまったそうだ。
おばさん、お茶飲もう!
二人で温かな日差しの中、
お茶を飲みながら、当時の思い出を、
振り返って、話に花が咲いた。
最後、おばさんに、
本当にお世話になりました!
おばさんに、助けられ、無事卒業する事が、
できました、本当にありがとうございます!
あの…おばさんの家に行きたい!
その息子さんに、
会って卒業証書作ってくるから!
線香あげたいんだ!
お願いします!
と頭を下げて、
当時は重く遠くに感じていた、
学校の玄関を静かに開ける。
中学の卒業アルバムを大切に持って、
今度は絶対に手放すものかと、家路に帰った。
次の日曜日、
手作りの卒業証書を持って、
おばさんの家に行って、卒業証書を読み上げ、
仏壇の写真の息子さんの横に置き線香あげた。
あの時、行動に移せなかった自分は、
もういない、行動あるのみなんだ。
その中学校の卒業アルバムは、
かあちゃんの遺品の中に大事そうに、
置いてあり、あるページだけ浮いてあった。
それを、見たら私のクラス写真に、
色んな行事での写真で私が写っているページ。
かあちゃんは、時々これを見てたんだ。
酒か、涙か、その跡がページに染み付いてる。
なんだよ…行事に参加しないくせに。
あー小学校の卒業アルバム…ないもんな。
かあちゃんは、どこまで知ってるのだろう。
ごめんな、かあちゃん。
小学校の卒業アルバムも見たかったよな。
オレの卒業アルバムはどこにいったのだ?