別世界。
これは、若かれし頃の思い出。
同じ職場で、とてもモテていた男がいた。
週末になれば、夜の街へと彼と向かうのだ。
お金がなくとも、全然楽しめる。
なぜなら、彼がいるからだ。
彼の手にかかれば、逆ナンされまくるし、
電話一つで、飛んでくる女性がたくさんいる。
腹が減ってたら、ご飯を奢ってくれる女性。
どこかに行きたければ、連れてってくれる女性。
どこかに遊びに行きたかったらすぐに、
駆けつけて遊びに行かせてくれる女性。
色んな女性が彼の為に動いてくれていた。
女性達は、彼の一番になりたくて、
頑張って、尽くしてくれるのだ。
だが、彼の一番はオレだと言うのだ。
オレは彼に尽くしてもいないし、
ただ、彼の側で恩恵にあやかっていただけ。
一人暮らしのオレの家に入り浸り、
朝から一緒に職場に行き、帰りも一緒に帰る。
だがほとんど、
彼は誰か女性と出歩き外泊してくるのだ。
私と一緒の時すら、だれか女性がついている。
彼は、誰かと一緒じゃないとダメなのだ。
彼は得意のスマイルで、お前が一番だよ。
とオレを口説くのだ。
私は、
オイオイ、やめろ!
それはよそでやってくれよ!
はいはい、お前の一番になれて光栄です!
ありがとうございまーす!
とはぐらかして、笑いにかえるのだ。
彼は、やれやれ…また振られた…。
と笑いながら、タバコをふかすのだ。
ある日、同じ様に、彼と夜の街を歩いていた。
彼に貢いだ女性とも、お別れして、これから、
どうしようかと、彼と相談していた。
すると、ある女性がすごい勢いで、
私に掴みかかってきて、暴れ始めた。
私は、
なんだよ!お前!何してんだよ!
とは言うが、相手は女性なので、なすがまま、
暴れ殴られ、引っ叩かれ、蹴られても、
はいはい…と落ち着くのを待っていた。
彼はただ笑って、このありさまを傍観してた。
女性は、だいぶ体力を使い果たして、
ゼーゼーと息荒く私を睨むと、泣き出した。
なんで、あんたがいるんだよ!
あたし、彼の為にマンション契約したのに!
彼ったら…それ以降に連絡くれなくなったの!
ねー!あんたのせいでしょ!
あんたがいるから!彼を渡してよ!
おや?これは…なんだ?
オレはどうして、こんなに責められる?
こんなに、傷をつけられなければならないのだ?
ひっかき傷から、血が出てるんですけど…。
彼は、タバコを吸いながら、彼女に、
コイツは悪くないんだ、君が強迫してきたから、
オレは身を引いただけだよ。
女性は、
だって、一緒にいたいって言うし…。
私だけになって欲しいの…。
いつもアイツに邪魔されて!
悔しい!なんで私じゃダメなの?
彼は、
オレは誰のものでもないよ。
束縛は嫌いなんだ…ゴメンよ。
君の願いは叶えられないんだ…わかるだろ?
おりこうさんだから、もう泣かないで。
彼女は、ショックだったのだろう…。
呆然と立ち尽くして、ポロポロ泣いている。
彼は、
ごめんな!気にしないで行こう!
と、女性を置いて歩いていく。
私は訳がわからないまま、その後をついていく。
私は、
おい!あれは何だよ!どう言う事だ?
お前いい加減にしないと、殺されるぞ!
そう彼に言っても、彼は笑って、
大丈夫、大丈夫。オレはちゃんとけじめは、
つけてるの。たまーにあーゆー人いるけど、
お前がいれば、大丈夫だろ?
牛丼奢ってやるから、行こうぜ!
別に牛丼が欲しいわけじゃないが、
彼の発する言葉には、優しさが感じて、
相手は許してしまう様なそんな声をしている。
彼と牛丼を食べて、彼は、
また公衆電話で、別の女性を呼び出し、
私の家近くまで、送ってもらった。
決して、私の家は教えないのが彼のルール。
その当時はストーカーと言う言葉は、
なかったが、たまに待ち伏せされて、
後をついてくる女性がいるのだが、
彼はそれを、楽しそうにうまく巻いて、
私の家に、入り浸るのだ。
そして、彼とたわいのない会話をして、
明日の計画を、彼は練るのである。
あー勝手にしろ!
だが、もうオレを巻き込むのは、
勘弁してくれよ、まだあのひっかき傷が、
いてーんだわ。結構メンタルやられるわ。
まるで、オレが悪いみたいな感じだろ?
彼は、相変わらず、
だって、お前が一番なんだから、
仕方ないだろ?お前は特別なのは、
彼女達もわかってるんだよ。
彼はそう言うと、くっくっくと笑う。
お前…オレを敵にして言いふらしてだろ?
じゃねーと、やっぱり納得できないわ!
逆にオレが、いつか殺されるかもな。
と二人で笑い合って、眠りについた。
次の日の日曜日。
私が起きると彼は昨日の計画していた、
女性とデートに行っていた。
私は、とりあえず身の回りの、
掃除、洗濯にと、せっせと動いていた。
すると、チャイムが鳴った。
ん?誰だ?勧誘とかだったら、嫌だしな…。
と覗き穴を見てみると、昨日の夜の彼女だ。
オレを痛めつけた張本人である。
私はドアごしに、どちら様?と聞く。
女性は「宅配便です…」と見え透いた嘘を、
言うだけである。
あの…身に覚えないんで、
部屋、間違ってんじゃないっすか?
なんで、他あたって下さい。
とあしらおうとすると、
ドアを、ドンドンと叩き、
ドアノブをガチャガチャ回し始めた。
おい、おい、やべーじゃん!
アイツはいないし…どうする?
すると、何か叫んでいる。
怖い…今頃、アイツは楽しんでるだろな…。
なんで、オレばっかりこんな目になるんだよ。
あーやってらんねー!勝手にやってろ!
無視を決め込んでると、多分近所から、
通報されたのだろう、お巡りさんが来た。
ドアごしで、口論している…。
声が聞こえなくなったと、思えば、
今度はお巡りさんが事情を聞きに来た。
こればっかりは、無視はできない。
私は、面識あったが、めんどくさい。
いや、全く知らない人です…。
怖いんですけど…なんですか?
多分人違いだと思います…。
とお巡りさんに迷惑ですと伝えた。
お巡りさんは、彼の名前を知ってる?と
聞いて来たが、ここはウソはつけない…。
あー、職場の同僚ですけど。
あっ!もしかして…その人と間違われた?
と、はぐらかしながら、お巡りさんと、
話をしたら、ご協力ありがとうございます。
ご迷惑をおかけして、すみません。
お巡りさんはいなくなった。
その夜、彼は帰ってきた。
昼間の出来事を怒りながら話した。
彼は、大笑いして、
こえー!と叫んで、いやいや、ごめんって!
あの子はヤバいな…手をつけなきゃよかった。
失敗したな…あー面白い!
それから、彼は懲りたのか、女性の数を、
減らし、女性に失言しない様になったと言う。
それでも、彼は私の部屋に入り浸りながら、
女性達と楽しく遊んでいるのだ。
あいつは別世界の人間であり、
私は巻き込まれて、その世界で、
振り回されているだけである。
垣間見る、その世界は、
彼はとても魅力的な声で、
巧妙な話術で女性達を翻弄させているのだ。
いやー、これは真似できない。
彼は本当は優れた才能の持ち主なのだ。
そんな別世界で、
一番を独占できた、私は幸せ者に違いない。
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