かあちゃんの老後。
かなり長文になってしまいました…。
すみません。
かあちゃんと離れて暮らして、
ずいぶんと、たったある日。
掃除していたら、ある物を発見する。
かあちゃんは消費者金融に、
多額の支払いをしていたのだ。
うむ…と考えて、
少しでもお金が、
返ってくるかもしれない。
私は、
過払い請求の手続きをまず、
司法書士に頼んだ。
かあちゃんと一緒に、
司法書士に行く。
過払い請求の、
消費者金融のカードを出してと、
かあちゃんに手話で通訳する。
すると4枚のカードを出した…。
とりあえず、
通帳と、かあちゃんの記憶を辿る。
それを頼りに司法書士に、
調べてもらう事で、
なんとかその日は終わり。
かあちゃん、どんだけ借りてたんだ?
と聞いたら、
あんたを育てる為に、
必要だったんだよ…。
とかあちゃんは言っていたが、
明らかに違うのだ。
なぜなら、
かあちゃんと家に行くと、
毎回、
沢山のビールの空き缶や、
焼酎のボトル、カップ麺の容器、
惣菜や弁当の食べた後の容器などが、
部屋を埋め尽くされているのだ。
台所は、沢山の使用済みの食器が、
シンクに山盛りになって置いてある。
トイレも同様、
トイレットペーパーの芯が散らばり、
私が掃除しないと何もしない。
なにより、本の数と、
観葉植物の数が半端ない。
今こそテレビは字幕付き、
バラエティ番組でも、
テロップが出てわかりやすく、
なっているが…。
家にはテレビがない。
その代わりに本と観葉植物が大量に、
部屋を狭くしていた。
本が、無造作にいくつも積み重なって、
置いてある。
ふと、災害があったら
と思うと怖くなるのである。
時間はお昼過ぎ。
かあちゃんとりあえずご飯食べに行こう。
と近くのラーメン屋に行く。
食べてる間に、かあちゃんの今後を
考えてた…。
かあちゃんをあの部屋に、
一人にするにも、だんだん限界がある。
とりあえず、ちょっと電話してくると、
ラーメン屋を出ると…
我慢出来ずに、たまらず泣いた。
かあちゃんは、
耳の聞こえ中、1人孤独で、
かあちゃんは何を思って、
何を生きがいにし、
過ごしていたのだろう。
そう思うと、涙が止まらなかった。
かあちゃんは、人一倍寂しがりだった。
頼れるのは私だけだった。
耳が聞こえないから、電話なんて、
気軽に出来ない。
一緒に住んでいた頃は、
かあちゃんは私がいないと不安になり、
酒に溺れ、暴れて近所中に騒いでいた。
月に一回、
仕送りと一緒にアパートに行き、
一通り掃除等して、
なるべく明るく、かあちゃんに
話しかけていた。
もしかしたら…それが、
かあちゃんの寂しさを
増してしまっていたのではないか。
とりあえず、
自分で頬を何度も叩き、
勘のいいかあちゃんに悟られまいと、
平然を装い、またラーメン屋に戻る。
かあちゃんは、私が戻ると、
じーっと私を見つめる。
どうしたんだい?
何かあったのかい?
やっぱり、かあちゃんには敵わない。
それでも、明るく振るまい、
今日はオレ部屋に泊まりに来ないかと、
かあちゃんを誘った。
やはり、かあちゃんだ。
嫌だ!遠慮するよ!
なんでだい!
お前何か考えてるだろ!
と疑って拒む。
何もないよ。
かあちゃんの部屋、
これから片付けると遅くなるし。
今日はかあちゃんがこっちに泊まって、
くれればいいかなって思っただけだよ。
かあちゃんは、
しばらく不機嫌でプイッとそっぽを向く。
わかった。
じゃ、これから掃除してもいいかい?
たぶん…時間はかかるかもしれないけど…
かあちゃんは、
やだよ!
あれでいいんだよ!
お前に迷惑はかけないよ!
と譲らない。
かあちゃんの頑固者!
しばらく考える。
じゃぁ、オレ
今日はこっちに泊まっていい?
すると、かあちゃんは、
あんたの寝る所なんてないよ!
もぉーなんなんだい!
かあちゃんの声は大きい。
ラーメン屋の店主が明らかに、
イラついてるのがわかる。
とりあえず、ここを出よう。
お会計をし、
すみませんでした…。
と頭を下げて。
ラーメン屋を出る。
一旦、部屋に戻る。
頑固者のかあちゃん。
これから、
掃除やるのかい?
いいよ、勝手にやればいいさ!
と許しをもらう事が出来た。
洗濯をしつつ部屋掃除していく。
ゴミをまとめると、気づかなかった…
そこには、
幼い頃の私の写真や、
いつ書いたのかわからない、
かあちゃんの似顔絵、
必死に小遣いを貯めていた缶が
中身はそのまま手をつかずに、
置いてある。
かあちゃんは、これを眺めながら、
毎日酒に溺れてだんだな…。
かあちゃんの中で、
時は止まったままなのかもしれない。
ある程度片付いて、掃除機をかける。
本は、棚にしまった。
ふと、
かあちゃんの化粧品の多さに気づく。
よく見るとどれも高級品だった。
かあちゃんは、いいカモにされていた。
耳が聞こえないからって勝手に高額の、
化粧品をかあちゃんに買わせていたのだ。
かあちゃん…何してんだよ…。
洗濯を終わらせて、
全て干す。
水回りもちゃんとキレイにし、
作り置きのおかずを大量に作り、
冷凍庫と冷蔵庫に入れる。
終わった時は、すでに深夜。
かあちゃんはいつの間に酒を飲んで、
いびきをかいて寝ている。
そんな、かあちゃんを見て、
かあちゃん…ごめんよ…1人にして…。
寂しい思いをさせていた自分を責めた。
次の日は会社に有給休暇をもらい、
体を休めた。
かあちゃんはご機嫌だった。
かあちゃんの口癖。
やっぱりお前がいないと、
かあちゃんはダメな人間だよ…。
と少し寂しげにつぶやいた。
とりあえず、また来るからね。
かあちゃんは
手話でご苦労様と示して、
口ではありがとうね。
と言って玄関を出て外に出るまで、
手を振って見送るのだ。
司法書士から、電話があり、
結構な過払い金があるのが、2社
これは、弁護士じゃないと出来ないらしい。
のこりの2社は、司法書士さんで、
なんとかしてくれるとの事。
弁護士さんを紹介してもらい、
そこに行って、司法書士さんから
すでに資料はもらっている様なので、
手続きにサインと捺印を押し、
よろしくお願いしますと帰った。
それから、それぞれの消費者金融からの
過払い金がたんまり戻ってきた。
驚くほど大金のお金が返ってくる。
それと同時に、
生活保護は受けれない。
生活保護やめるなら、
一緒に住まないかと案を出す。
だが、かあちゃんは、
もう、一人に慣れちまったから、
いまさら、あんたがいるのは、嫌だね。
と言う。
わかった。
じゃぁ仕送りと一緒にまた来るから。
と言うと、
少し嬉しそうに、
そうかい。勝手にしな。
と照れ隠しをしていた。
だが、心配なのは大金が、
かあちゃんの手元にある。
絶対に、無駄遣いするに違いない。
またカモになって、
大金を取られるかもしれないのだ。
かあちゃんに釘を刺す。
すると、かあちゃんは、意外な事を言う。
わかってるよ…。
お前に頼みがあるんだ…。
このお金で、
あたいの葬式と墓を
お願いできるかい?
と、通帳を渡して来た。
何言ってんだよ!
縁起でもない事言うなよ!
と怒ったが、かあちゃんは泣いて、
だって…そうだろ?
かあちゃんは一人なんだ…。
入る墓すらないんだよ…。
葬式って言っても…
誰も来てくれないだろう。
けど…形だけでもいいんだ…。
かあちゃんは、それが心残りなんだよ…。
あたいには、お前しかいないんだ。
かあちゃんは、
ものすごく悲しい目をしている。
あれ?なんだよ…。
かあちゃんはこんなんじゃなかった…。
こんな…弱気な人ではなかった…。
こんな…こんなの…かあちゃんじゃない。
涙をこらえて、
わかった…かあちゃん。
ちゃんと葬式もするし、
立派な墓、建ててやる。
この通帳は預かっておくからな。
それから、変わらず毎月
かあちゃんに会いに行った。
かあちゃんは、嬉しそうに、
色々と喋ってくれる。
そして、ついにその日は来る。
いつもの様にかあちゃんに会いに行く。
かあちゃんは眠ていた。
もー!かあちゃんはだらしがないなぁ。
と肩を叩いても、ゆすっても起きない…。
…死んでいる。
私がいつも部屋を片付けていたのを、
かあちゃんは悪いと思ったのか、
ゴミをかき集めてある。
かあちゃんは編み物をして死んでいた。
あの不器用なかあちゃんが、
なんで編み物なんてしてんだ…。
ふと見ると、
型紙と、編み物の本があった。
その型紙は、まさしく私のサイズだ。
編み物の本も男の人がモデルになって、
デザインがとても難しいそうであった。
かあちゃん…オレに内緒で編んでたんだ…。
オレを喜ばせようと…こんなデザイン…
かあちゃん…何やってんだよ…。
かあちゃんのばかやろ…。
私は救急車を呼び、
かあちゃん運んでもらった。
救急隊は、心拍停止している、
かあちゃんに必死に心臓マッサージを
してくれた。
私は、
耳の聞こえないかあちゃんに、
大きな声で、
かあちゃん!おい!
かあちゃん!頼むよ!
返事してくれよ!
と叫んでいた。
近くの病院で、心拍停止の状態で、
医師の方に状況をみてもらい、
もう手の施しようがないと
告げられた。
当時は、病名がわからなく
突然死と宣告された。
看護師さんが、
母の身体を拭いてくれ、
身なりも整えてくれた。
病院のベットで横になっている
かあちゃんを見つめ、
手話でご苦労様と示して
かあちゃん…ありがとうな。
と泣いてつぶやいた。
かあちゃんの希望通り、
アパートの近くの会館で、
葬式の手続きをした。
あれだけ、
迷惑かけていたご近所さんが、
かあちゃんの為に色々手伝ってくれた。
たくさんお酒をもってきてくれた。
ご近所さんが次から次へと、
かあちゃんの葬儀に、
来てくれた。
そして、みんなが
最後の最後まで迷惑かけやがって
と泣き、笑い、かあちゃんを偲んだ。
火葬場は一人で行った。
最後、棺の中のかあちゃんに、
かあちゃんの子供で幸せだったよ…。
かあちゃん…かあちゃん…大好きだよ。
と、かあちゃんの冷たい頬を触り、
涙がポツポツとかあちゃんの顔に落ちた。
そして、かあちゃんは骨になった。
納骨をし、
こんなに小さくなるのか…
と不思議な感覚になり抱きしめた。
墓は、かあちゃんが住み慣れた、
アパートから見える山にある、
霊園に建ててもらった。
かあちゃんの金と私の貯金を足した。
いつかは、私もここに入ります。
とかあちゃんに伝えて、
手を合わせる。
かあちゃん。
納骨の時に、喉仏をもらったよ。
これは、宝物とお守りとして、
大事にするからね。
天国なら、きっと耳は聞こえるように、
なってるよね?
だから、これから、かあちゃんに、
たくさん声かけるよ。
大人になったオレの声わかるかな?
大丈夫、かあちゃんならわかってくれる。
そう信じてるよ。
線香をあげ、
ゆれる煙をおいかけると
大好きなかあちゃんの笑顔が、
ふと浮かび上がった。
私も笑顔で、
オレの聞こえたのかー!
やっぱりかあちゃんはすごいな!
と叫ぶ。
お供えに持ってきた缶ビールを、
飲んで、走馬灯の様に色んな事を
思い出して、泣いて…泣いて…泣いて…
缶ビールをいっきに飲み干して、
かあちゃん!じゃぁな!
また、いつも通り来月来るからな!
とかあちゃんの墓に告げ、
歩いては、
何度もかあちゃんの墓に、手を振った。
かあちゃん…ありがとうね…
大好きだよ…かあちゃん…
たくさん苦労したね…
たくさん涙流したね…
たくさん笑ってたね…
その全てが尊いよ…
かあちゃんの子供に産まれて、
オレは本当に…ほんとに幸せでした。
ありがとうございました。
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