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紺碧の海に落ちた一粒の涙

旅先ではだいたいいつも、なるべく安くて清潔感のありそうな宿に泊まる。クロアチアではSOBE(ソベ)という民家に寝泊まりする民泊が主流のようで、プチホームステイ気分だ。民家は小高い丘に連なるように並び、緩やかな上り坂が続く。地中海気候の中を歩き続けるとじんわり汗ばんでくるけど、THE 快晴! な空がテンションを上げてくれて足取りは軽い。

太陽の恵みをいっぱい浴びている国にはたくさんのブーゲンビリア。いろんなおうちに鮮やかなピンクのブーゲンビリアが咲きこぼれていてトキメキがとまらない……。日本人にとってのブーゲンビリアは、外国の人にとっての桜みたいな存在で、キターッ!と思わずにはいられない、ハッピー度数を上げてくれるお花だと思ってる。

SOBEに到着して迎えてくれたマリアは、笑顔が柔らかい地元のおばちゃんという感じで安心感バツグン。ウエルカムコーヒーを入れてくれたので中庭の木漏れ日の下でいただく。こんなに心地いいことありますかって気持ちでカップを口に運ぶと、挽かれた豆がコーヒーの中にそのまま入っているという斬新な淹れ方で、にょ〜と顔が歪んでしもうた。ウエルカムされてる? 大丈夫? (笑)

それにしたって、小高い丘から見渡す街の眺めは最高。オレンジ色の屋根をたずさえた白壁の建物が一面に広がっていて、魔女が宅急便をしているあの街を見ているよう。そうそう、こんな景色を見たかった! って、旅の情緒を沸き立たせてくれる。

中世から育まれてきた歴史的な街並みや建物。ドブロブニクの旧市街は高さ25メートルもの強固な城壁にぐるっと囲まれ、足を踏み入れば一気にタイムスリップしてしまう。その昔、この城壁は強大な他国の支配から“自由と自治”を守るために大きな役割を果たしてきたそうな。この美しい街並みは、その過酷な歴史から成る涙の結晶なのだ。

メインロードや迷路のような小道がたくさん入り組んでいて、どこもかしこも石造りで覆われている。露店、ジェラート屋さん、カフェなどがそこかしらに軒を連ねているかと思えば、民家の2階から空を仰ぐように洗濯物が干されていたりして(気持ちよさそ〜)、生活の様子を感じられるのもグッとくる。オープンエアーなレストランでは、屋根の代わりに溢れんばかりの緑がそよそよと、風がささやくたびに木漏れ日を揺らす。ヴィム・ベンダースかて! 最高やないかい。これぞまさしくPerfect Days?(違うか)。

アドリア海でとれた新鮮なシーフード料理を目の前に、ビールにする? ワインにする? はいッ、Zivjeli(ジヴィエリ※クロアチア語で”乾杯”)〜! 料理を運んでくれたお兄さんも然り、クロアチアの人たちはみんな優しい。

いろんな道を歩いていれば、城壁に扉のような穴を発見。くぐり抜けてみると目の前には大きな海。そして岸壁にはBAR。海はとんでもなく”アオ”で、これこそ正真正銘の紺碧色だ! と言えるほど美しい。紺碧は青色の宝石ラピスラズリに由来する色であり、ドブロブニクが美しい海と貝殻(城壁)に守られた『アドリア海の真珠』と称されるのも当然だ。水面に反射する太陽の光があまりにもまばゆくて、キラキラと目にほとばしる。すべての煌めきを集めたかのようなアドリア海に、ジヴィエリ〜! してしまうのはしょうがないよね。岸壁BAR、最高。

あれ? よく見てみると、岸壁から海にジャンプしてる人がひとり、ふたり、何人もいる! けっこう高さがあるけど、飛び込まないと損だよねって思っちゃうほどここでしか経験できない大事なモーメント。地球を丸ごと抱きしめながら泳いでると言っても過言ではない。

美しい! 美しい! 美しい! この街の空気を吸うだけで、風に触れるだけで、太陽を浴びるだけで、こんなにも満たされるなんて Is this HEAVEN? 日焼けはお肌の大敵だけど、そんなことは気にしてられない。欧米では焼けた肌こそリッチの証し。優雅なバケーション気分で立ち向かおう(言い聞かす)! その国に似合うお洋服で旅するのが私は好きだ〜(海に向かって叫ぶぜ)! 観光客のおばさまたちも日焼け上等、素敵なワンピースを装っていて、もうなんか、みんな楽しそうなのがいいのです。

太陽が沈んだ後だってドキドキを忘れさせてくれないのがドブロブニク。空が瑠璃色へ変化するとともにオレンジ色の街灯が灯り、神秘的な雰囲気へと早変わり。同じ道を辿ったって昼間とはぜんぜん違う顔をしている。夜になっても賑わいは衰えず、むしろ陽気になっているような……。露店でゲットしたモヒートを歩き飲みをしながら、今宵は月の雫に乾杯だ(何度だってジヴィエリ〜!)。

素朴だけど可憐でロマンティック。小さな宝物がギュッと詰まったオルゴール箱のような街。人が温かくて、自然が豊かで、大事にされてきた歴史があって、そんなところに人は自ずと集まってくるのかもしれない。こんなにも美しく、水ひかる海がそこにあるかぎり、いつまでもね。


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