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地域の未来を耕す〜北信越の農業スタートアップの挑戦〜
農業の未来を切り開く若き起業家たちが、北信越地域で静かに動き始めています。彼らは地元の農家と協力し、新しい技術やアプローチを取り入れながら、地域の農業を再び輝かせるために奮闘中です。今回は農業に焦点を当てて、これから注目間違いなしのスタートアップをご紹介します。
地方農業の課題
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地方農業は、現在様々な課題が存在します。その中でも代表的なものとして、以下の課題に直面しています。
高齢化と担い手不足
耕作放棄地の増加
海外作物との価格競争
高齢化と担い手不足
農業の担い手不足と高齢化は、長い間指摘されており、さまざまな政策が行われてきましたが、未だ改善が見られません。
自営農業を仕事にしている「基幹的農業従事者」の数は減少し、平均年齢も上昇しています。
新規就農者が思うように増えないことが主な原因です。新規就農者数は毎年数万人単位であり、地域全体で新規就農者をサポートすることが重要です。
ある調査では、2015年以降の基幹的農業従事者(個人経営体)の数を見ると、2015年の175万7,000人から毎年減少を続け、2020年速報では136万3,000人になっています。2021年の農業構造動態調査による推定値は130万2,000人と、やはり減少しています。
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耕作放棄地の増加
耕作放棄地や荒廃農地の増加は、長い間認知されながらも改善できない深刻な問題です。
高齢化や労働力不足により、すべての農場では作付けできなくなり、一部の農場の耕作を放棄してしまうケースが多いです。
耕作放棄地や荒廃農地は、食糧生産だけでなく、地域の治水や環境システムの維持などにも影響を及ぼします。
海外作物との価格競争
中国やロシア、東南アジアの国々などからの農作物との価格競争が激化しています。
日本の農業は、これらの課題に対して効果的な対策を講じる必要があります。
日本農業が抱える3つの問題|農家ができる未来へ向けた解決策とは? | minorasu(ミノラス) - 農業経営の課題を解決するメディア (basf.co.jp)
グローバルな視点から見た日本の農業―現在の立ち位置と今後の発展について | McKinsey
地方農業再生の鍵
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地方農業の課題を解決するための方法の1つは、持続可能な農業経営の実践です。現在、様々な取り組みによって、地域の農業が持続可能な方向に進化しています。これにより、地域経済の活性化と農業の発展が同時に実現されることが期待されます。
以下では、具体的な取り組みを一部紹介します。
スマート農業の実施
AI技術を活用した農業は、作物の病害害虫の早期発見や適切な施肥管理、収穫時期の予測などに効果を発揮しています。
ロボット技術を使用した自動収穫や除草作業が、労働力不足を解消し、作業効率を向上させています。
IoTセンサーを農地に設置して土壌の状態や気象データをリアルタイムでモニタリングすることで、適切な農作業を行えるようになっています。
農地や経営の大規模化
農地バンクを活用して、使い勝手の良い土地を見つけることができます。これにより、新規就農者が農地を手に入れやすくなります。
農業組合や協同組合を通じて、農地の集約や共同購入を進めることで、経営の大規模化を図ることができます。
持続可能な農業の促進
有機農業や無農薬栽培など、環境に配慮した農業が増加しています。これにより、土壌や水質の保全が進んでいます。
SDGs(持続可能な開発目標)に基づいた取り組みが、持続可能な農業の実現に向けて進められています。
北信越の農業スタートアップが挑む未来
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北信越地域における農業に、新たなイノベーションの波がきています。各地域で生まれたスタートアップによって、地域の課題に対する斬新なアプローチが見られます。ここでは、北信越地域で注目を集める農業スタートアップを紹介し、どのようにして地域の農業を変革しようとしているのかを探ってみます。
新潟県内には農業系スタートアップが複数存在します。詳しくは、以下の記事からご確認ください。
1.ウォーターセル株式会社(新潟県)
会社HP:ウォーターセル株式会社 (water-cell.jp)
なにをしている会社?
ウォーターセル株式会社は、2011年に設立された企業で、農業情報プラットホーム/農業支援システム「アグリノート」を開発・運営しています。
事業内容
農業情報プラットホーム/農業支援システム「アグリノート」の開発・運営
アグリノートマネージャー: 営農情報集約ツールの開発・運営
アグリノート米市場: オンライン米取引仲介サービスの開発・運営
特筆コメント!
アグリノートの利用が拡がっている: 2023年9月4日時点で、アグリノートの利用組織数が20,000組織を突破しています。農業者たちにとって、アグリノートは貴重な情報共有ツールとなっています。
全国での幅広い実績: ウォーターセルのサービスは、日本全国の様々な農家で導入されています。地域を超えて農業の効率化や生産性向上に貢献していることがわかります。
2.株式会社 農プロデュース リッツ(新潟県)
会社HP:6次産業化のご相談なら|農プロデュースリッツ | 農プロデュース リッツ (ritzkirara.com)
なにをしている会社?
株式会社 農プロデュース リッツは、新潟県小千谷市に拠点を置く企業で、農業関連のさまざまな活動を展開しています。これには、農業カフェの運営、農産物の加工、農家の営業代理店業務、インターンシッププログラムの提供などが含まれています。
事業内容
さつまいも農カフェきらら
6次産業化プランナー
農家の営業代理店
アグリネット芋づる
農作物加工・加工委託
インターン・研修・農泊受け入れ
頒布会Ritz
農作物を使った製品、レシピ開発及び販売
講演、セミナー等の講師及び企画運営
特筆コメント!
特筆すべきポイントとして、地域貢献・確かな実績が挙げられます。
6次農業の支援を通して地域農業の活性化をおこなっていることに加えて、学生の職業体験やインターン学習の受け入れを積極的に行っています。
詳しくはこちらのブログから
URL:農業インターンシップ受け入れについて - さつまいも農カフェきらら (goo.ne.jp)
また、直近では以下のような実績を残しています。
令和4年度の農山漁村女性活躍表彰にて「女性起業・新規事業部門」での最優秀賞を受賞しています!
URL:農山漁村女性活躍表彰:農林水産省 (maff.go.jp)令和5年度(第62回)農林水産祭天皇杯等にて内閣総理大臣賞を受賞! URL:令和5年度内閣総理大臣賞を受賞いたしました | 農プロデュース リッツ (ritzkirara.com)
このように、新潟から全国指折りの企業と肩を並べられるスタートアップが登場してきています。
3.株式会社 笑農和(富山県)
会社HP:笑農和(えのわ) 「IT農業を通じて笑顔の人の和を創り社会に貢献する」富山県農業コンサル事業 (enowa.jp)
なにをしている会社?
笑農和(えのわ)は、富山県で農業コンサル事業を展開しています。企業理念は、「IT農業を通じて笑顔の人の和を創り社会に貢献する」ことです。
事業内容
スマート農業: 農業現場主義のIoT、AI技術を活用して、生産者の悩みを解決します。
農業IoT開発: IoT技術を取り入れた農業の見える化に関するコンサルティングを行います。
農作物販売EC: 生産者に代わって営業代行を行い、農産物の販売をサポートします。
特筆コメント!
スマート農業において、水管理の遠隔操作や水田管理の労力削減、お米の品質改善など、農家さんの「困った」を解決しています。
笑農和は、水稲農家向け水位調整デバイスの開発・販売を行っています。 水稲農家向け スマホでかんたん水管理**「paditch(パディッチ)」**はスマート水田を実現するサービスであり、お米の収量16.4%アップ・水田管理の労力80%減の実績があります。
URL:スマホでかんたん水管理 paditch(パディッチ) – 収量アップ・労力削減に貢献します
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<出典>スマホでかんたん水管理 paditch(パディッチ)
– 収量アップ・労力削減に貢献します
また、株式会社笑農和は宇宙技術アドバイザー顧問として伊巻和弥氏が2024年3月付で参画しました。伊巻和弥氏は30年以上の宇宙業界での経験を持ち、有人宇宙、宇宙探査、衛星などのシステム設計・運用、宇宙データ利用に従事しています。
現在、スマホで簡単に水田の水管理ができる『paditch(パディッチ)』は、衛星データなど宇宙技術の活用を中心としたスマート農業の推進に貢献しています。
今後は、世界でのpaditchの実装拡大を見据え、遠隔での稲作の工程・生育管理だけではなく、padichカーボン・オフセットを利用した温室効果ガスの削減、SDGsの実現にも寄与することが期待されます。
4.株式会社井上寅雄農園(長野県)
会社HP:井上寅雄農園 - 佐久市でイチゴ農園(イチゴ狩り)、農家向けWebサービス・Webメディアなどを運営 (toraonouen.co.jp)
なにをしている会社?
井上寅雄農園は、長野県佐久市でイチゴ狩りができるイチゴ農園を運営しています。さらに、農家向けのWebサービスやWebメディアも提供しています。
事業内容
イチゴ狩り園の運営
イチゴの栽培、販売、加工
農業動画のまとめサイト「ファーム・ラン」の運営
営農支援サービス「アグティー」の運営
特筆コメント!
井上寅雄農園は、イチゴ狩りだけでなく、農業者向けのサービスを提供していることが特徴です。
アグティーでは、プロの農家とのビデオ通話を通じて農業の課題を解決できます。
「アグティー」によって、ビデオ通話やチャットを通じてプロに相談し課題を解決してもらうことが可能になりました。これによって知識やノウハウがより開かれたものとなります。さらに、動画やビデオチャットを駆使するため、アドバイスをするための地理的な制約がなくなります。これまではとは異なり、他の地域の実践知を簡単に収集しやすくなります。このサービスを利用することで、農業をするときに発生するわからないことは、かなり削減されることが予想されます。
しかし、農業従事者の中にはスマホなどの電子端末の利用に明るくない方が一定数いることが想定されます。
「デジタル機器を苦手としている方に、どのようにして情報を届けるのか?」
という点は要注目です。
また、同社は信州アクセラレーションプログラムの第3期生として採択されています。
⇩詳しくはこちら
信州アクセラレーションプログラム過去の採択企業/長野県 (nagano.lg.jp)
おわりに
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北信越地域に根ざした農業スタートアップたちの活動は、地域の魅力をさらに高めています。私たちの毎日の食を支える農業が、若い世代にとって「楽しく、かっこよく、稼げる」仕事として認識される日もそう遠くはないかもしれません。地域発スタートアップの挑戦と成果が、全国の地方に活力をもたらすことを願っています。