海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第一回)
・はじめに
世界の皆さんこんにちは。私はニッポン在住の旅行ライター、日比野 心労です。私はニッポンに20年間住んでおり、その間に各地を旅してさまざまな観光地を訪れてきました。その経験から、皆さんがニッポンへの旅行を計画するときに必要なことを紹介できると思い、この記事を書いています。
COVIDー19が未だに猛威をふるっている現在ですが、ニッポンはウイルスの侵入を防ぐ特別な措置をとっており、安心できる旅行先としてお薦めできます。是非皆さんもニッポンを訪れてみてください。不思議の国ニッポン、神秘の国ニッポン、危険と冒険と宝があなたを待つ国ニッポン。その魅力の一端を、ここで皆さんにも知っていただくことができればこれに優る幸せはありません。
なお現在、日本国については各国および日本政府により渡航の制限が掛かっており、日本政府も制限を解除する見込みはないとのコメントを出しています。ニッポンを訪れる際はくれぐれも日本経由ではなく、ニッポンへの直行便もしくは各種空間転移技術を使用して本京都駅へ行き、入国手続きをおこなって下さい。
それでは、魅惑のニッポンへの旅行を始めていきましょう。まずはニッポンを訪れた旅行者が必ず向かうニッポンの玄関、本京都をご案内します。
(本文中の「観光難易度」は、著者の主観に基づくものです。1→5の順に易→難の評価になっています。)
第一回 本京都(観光難易度:3【やや難】)
皆さん、ようこそニッポンへ。今あなたが様々な方法(それは直行便の飛行機だったり、ワームホールだったり、ピンク色のドアだったりするわけですが)を駆使してたどり着いた巨大な駅の構内、その駅自体がニッポンの首都である「本京都」です。
本京都駅は、面積約2,200㎢、最高部の高さ634mの超巨大な建造物で、実質本京都の面積の全てを占める建物になっています。
ニッポン唯一の国際空港である真本京国際空港はこの建物の屋上の一角にあります。よく晴れた日には、澄んだ青空の遥か向こうにニッポンを象徴する山、不死山(ふじさん)が見えます。が、直視はしないでください。これはまた後ほどご紹介する3つの県に跨る山なのですが、この山を一定時間直視すると魂を吸われ永遠に帰国できなくなります。空港のあちこちに掲示されている注意書きにもありますが、不死山を見るときは手鏡に映す、スマホのカメラ越しに眺めるなどの二次的な方法をもって視界に入れてください。(私はこれで二人の友人と永遠の別れをする羽目になりました。)
・入国後の案内
空港での入国手続きは簡単です。カウンターで綿棒を使って唾液サンプルを提出し、スクリーニング調査利用に関しての同意書にサインをしてパスポートと一緒に提示したら入国手続きは終わりです。入国適正化医療パッチを胸の上に貼りゲートを一歩踏み出せばそこはもう駅の構内です。あなたの目の前には、地平線が見えるかのような広大な空間に、路線図を示すパネルが9,856枚、乗り場ホームを案内するサインが127,900ヶ所、それぞれのプラットフォームに向かうムービングウォークが約600本(日によって変動します)床を這っています。
積層構造になっている構内の吹き抜けから階下を覗き込むと、その動く歩道は蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされ、青、赤、黄のLEDの照明に照らされたその様子はさながら小さな宇宙のような美しさを我々の目の前に映し出してくれます。これが本京都の名所のひとつ「本京都駅構内の夜景」です。ちなみに写真撮影するのは結構ですが、吹き抜けから身を乗り出して撮影に熱中するあまり手すりを乗り越えて落ちないでください。本京都民にとってこの構造の危険性は自明なものなので、防護ネットなどの落下防止対策は為されていません。年間で平均十五名の旅行者の落下行方不明者が発生していますので、くれぐれもお気をつけください。
路線図パネルを詳細に見た方はお気づきかもしれませんが、本京都の(そしてニッポン首都としての)機能のすべてはこの駅構内に存在します。例を挙げるとニッポンの国会議事堂はジオフロントエリア9層の東区中央寄りに4層ブチ抜きで存在しますし、本京都庁は空港の直下の階の湾岸エリアの三分の一を占めています。その他官公庁、行政機関、司法機関はそれぞれの関係性を踏まえアクセスしやすい位置と階数に配置され、国内の民間企業本社の集まるオフィス区、都民の住居の集まる居住区などは極めて有機的な繋がりを持って配置されています。時間があればそれぞれの区を詳細に紹介したいところですが、それはあまり実用的では無いかもしれません。
なぜなら、本京都駅はニッポン国内を巡る交通網のターミナル地点でしか無いのですから。
あとは構内の掲示に従って動く歩道を乗り継ぎ、あなたが目的とする行先ホームへと移動を始めるわけなのですが、移動手段は徒歩と電車しかありません。本京都には車も道路も存在しないのです。また、目的のホームにたどり着くためにそこまで行く電車に乗り、その電車に乗る為に乗り継ぎの電車を探し当てて乗り、またその電車に乗るために……と、場合によっては目的のホームまで行くために最低でも十数回の乗り継ぎを行わなくてはなりません。初見の旅行者にとってはこれが大変な作業に感じることでしょう(熟練した私ですらたまに迷います)。
ですが心配はいりません。困ったら、近くにいる本京都民に道を尋ねてみてください。例外なく全ての都民があなたをナビゲートし、目的のホームまで誘導してくれることでしょう。
ここにこそ、本京都を観光するにあたっての最大の魅力が潜んでいるのです。
・本京都の経済活動と観光注目点
本京都では国内企業の本社および海外企業の支社以外の経済活動は全て「ターミナル機能を運営する事」にリソースが割り振られています。インフラ整備、交通システム運営、駅職員の衣食住を満たし医療体制を確立すること、物流や福祉なども先ずはターミナル機能を円滑に動かすことが念頭に置かれて制度設計されています。
そのためか、本京都民すべてが義務教育の段階で、生活に直結する駅機能と路線図を頭に叩き込まれるのです。(学校と自宅の十回以上に及ぶ乗り換え路線を把握しなければまともに通学はできませんから。)
なので彼らは、地方から仕事でやって来た出張会社員や本京都経由で他地方へ向かおうとする旅行者、又は我々のような外国人旅行者にとってはこの上ないナビゲーターとなるのです。
そしてなによりも、文字通り右も左も分からない旅行者にとって、彼らは温かく接してくれます。我々の体調を気遣い、地方旅行の魅力を訴え、ニッポンの自然や各地のグルメ、さらには故郷の話や自分の家族のエピソードまでも披露してくれます。そこには「おもてなし」の心があり、不安を携えて来た旅行者の支えとなる心優しい都民の姿があり、その温かさに触れることは、あなたにとってかけがえの無い旅の第一歩目と思い出になることでしょう。
もちろん彼らの行為は無償ではありません。ナビゲートした人数により、都から報奨金が支払われますので、旅行者の方においては無機質なスマホアプリの乗り換え案内よりも、遠慮なくこちらの案内を利用されることをお薦めします。
ただ一点、禁止行為があり、これを違反した者はたとえ旅行者であっても即勾留、即決行政処分が適用となり自国へ強制送還されることになります。
それは、本京都民を他府県へ連れ出す行為です。
・本京都の黒い歴史と出発に向けての心構え
本京都はニッポンの首都であり、経済活動の中心地であります。そのため地方からの人口流入は日本の東京都と同じかそれ以上であるのですが、前述のように都内全域が建築物であるためか思った程過密であるという印象は受けません。そのため、都は人口流入による規制を全く設けず、むしろ増え続ける人口に対して高額の税金を課すことでその財政を潤わせてきました。20XX年度の最新の会計報告では、前年比200%の財政黒字率を達成しています。
重税にもかかわらず人口集中が止まない理由としては、交通インフラの都民の利用無料化、居住空間の確保による住居費用の軽減化などや経済活動の一極集中という点が挙げられますが、実はより根の深い問題がここにはあります。都民は一度本京都に住んだら、死ぬまで都から出られないという契約を交わして本京都へ移住してくるのです。
いわば自身の身を担保にして都に融資を行い、その金利で生活する、という人質経済、これが増え続ける人口を前提とした本京都の経済活動の本質なのです。(一時的な他府県への移動すら、逃亡の可能性を理由に却下されます)
そのためか、我々旅行者を案内するときの都民の表情はいつもどこか哀しげで、故郷を話すときの彼らの声は必ず優しいのです。
都民と何気ない会話をしながらあなたは次第に気づくでしょう。「ここではない、あそこ」を思い偲ぶこと。そこに、あなたがする旅の意義を垣間見ることができるはずです。
あなたは都民の心優しい案内の果てに、目的地へ向かうホームの電車に乗り、あなたを見送る都民の姿を窓辺に見ることでしょう。その時、都民から目を離さないでください。都民は必ず手を振り、深々としたお辞儀(これらの所作は日本国民もニッポン国民も共通の所作です)であなたに別れを告げるでしょう。
あなたがこれから向かう旅先に、是非、本京都民の想いも、連れて行ってあげてください。
さあ、旅を始めましょう。
(第一回 おわり)
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