海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第五回)
世界の皆さんこんにちは。私はニッポン在住の旅行ライター、日比野 心労です。
皆さんはanazomという企業をご存知でしょうか。
愚問でしたね。申し訳ありませんでした。
今や世界的な多国籍テクノロジー企業として名を馳せているanazomですが、近年、ニッポンのとある県を買収し新事業を始めたニュースは皆さんもご存知のことでしょう。今回は、そのanazomの傘下となった県の観光サービスにスポットを当ててみたいと思います。
第五回 AWA県
(Anazom Webcasting Association県)
(観光難易度:2【やや易】)
・AWA県の概要
AWA県(旧名:阿波県)はニッポンの肆国地方の東側に位置し、太平洋側から世戸内海へ入る手前にある県です。古来「阿波国」(あわのくに)と呼ばれていたこの地は、山がちで河川も多く、風光明媚な景色を巡ることができる豊かな自然の溢れる土地でした。また、世戸内海の入り口に鎮座する大渦(鳴門の渦潮という巨大な渦を巻く海流のこと)などの珍しい自然現象も楽しめる地でもありました。
また、肆国八十八ヶ所巡りという仏教徒の巡礼地の1番目の寺院が存在していたり、「阿波ダンス」という全国的に有名な宗教的祭礼が行われる、極めて興味深い文化的遺産を持つ県でもありました。
しかし、それら従来の観光が持て囃された時代は終わりました。anazomによる県全体の買収が行われてからは。
・Anazom Webcasting Association県とは
アナゾム・ウェブキャスティング・アソシエーション。これは米国企業anazomがニッポン法人としてAWA県に本社を置いた企業の総称です。最初に立ち上げた事業サービスは「Anazom Webcast Soul Service」(略してAWSS)という名称であり、当初この法人は200X年からニッポンにおいてその企業活動を展開してきました。
1995年、当時anazomのCEOヂェフ・ペゾスは、肆国において言い伝えられてきた伝承、「肆国八十八ヶ所巡り」を順打ち(1〜88までのチェックポイントを順に巡る)も逆打ち(その逆順)も納めた結果、自らの会社を世界的な企業にするという願いを叶えたことで、阿波県(AWA県の旧県名)の持つ神秘的な力と「奇跡の現実化」にビジネスチャンスを見出しました。折しもリバイバルブームを起こしていたスピリチュアリズムに傾倒していたペゾスは、降霊術とテクノロジーをマッシュアップさせる事でその可能性を成功に繋げたのです。
ノーベル賞物理学賞を受賞したケンブリッジ大学の数学者ロジャー・ベンローズが提唱した量子脳理論の霊魂の実在アプローチ「OR理論」の実証研究に莫大な投資を行ったペゾスは、自社のテクノロジー部門と阿波県の霊山寺の霊的な協力を得てある技術を完成させます。それが「Anazom Webcast Soul Service」と称する「死者の魂を呼び出しweb上のクラウドサービスで対話する」というものでした。
当初懐疑的な目で見られていたこのサービスですが、サービスのβ版がローンチするや否や爆発的なヒットを記録し、故人の記憶再現力の高さ、会話の自然性、顧客の幅広さなどの要因により、今やanazomの主要サービスのひとつとして認知されるまでとなったことは皆さんもご存知のことでしょう。
もちろんニッポンの仏教界を含め、世界の主要な宗教からの猛烈な反発が巻き起こった「反招魂運動」は現在も根深く残ってはいますが、読者の皆さんも一度は興味本位で歴史上の有名人の音声を動画サイト等でご覧になったことがあると思います。
そのようなサービスを展開する中、「もっと現実世界で故人と触れ合いたい」という顧客の更なる要望の高まりを受け、AWSSは阿波県で新規ビジネスを立ち上げたのです。それが「Anazom Webcasting All Soul」という招魂マッチングサービスでした。
anazomは手始めに既存の観光産業に多大な投資を行うことで地域住民の歓心を買い、外資企業に対する地元の警戒心を薄れさせました。更に県下の企業や団体を巧みな手腕で傘下に収めたanazomは、遂に行政機関をも裏で操るまでの地位を得ます。阿波県が財政難に喘いだ末に発行してしまった県民債を買い占め、プロパガンダを仕掛け行政買収の是非を問う住民投票を行った結果、阿波県はanazomの民間行政サービスの一部門として再生を果たしました。Anazom Webcasting Association県、「AWA県」の誕生です。
県全体を支配下に置いたanazomは、いよいよ降霊マッチングサービスを始動しようとします。しかしその為にはAWA県民の協力が不可欠でした。何故ならば、ペゾスはクラウド招魂サービスに限界を感じ、「会いに行けるご先祖さま」「会いに行ける歴史人物」を実現するために「阿波県民の肉体に呼び出した魂を憑依させ、訪れた顧客と対面させる」というサービス手法に舵を切った為なのです。
・AWASの利用方法について
さてここでAnazom Webcasting Association が提供するサービス、Anazom Webcasting All Soul
(AWAS)の利用手順についてご紹介しましょう。
まずAWASサービス利用者は専用の登録アプリをダウンロードし、希望する故人の情報を入力します。希望する対象が著名人の場合は、既存サービスのAnazom Webcast Soul Serviceに霊魂データが登録されており詳細情報の入力は省略できるのですが、公的情報量の少ない人物(例えばご自身の肉親など)の場合は、その生存歴や個人情報の他に、形見の品などの故人ゆかりの物品、日記、写真および動画データなどが必要になる場合がありますので予めご用意ください。
アプリからのマッチングが終了し、霊魂検索が終了しましたら通知が来ます。ここで利用者におかれましては、クラウドサービスのAWSSを利用するか、霊魂を受肉させるAWASを利用するかの選択が求められますので、AWASを利用される方はそちらを選択して下さい。(また、この際に故人の再臨希望年齢の選択もできます。)
決済情報の入力を終え登録が終了すると、約1ヶ月後に故人再臨のお知らせが届きます。この時点であなたはニッポン国への渡航準備を済ませ、速やかにAWA県へお越しください。
AWA県に訪問後は現地スタッフのナビゲーションに従い、県下各地に存在するハカバと呼ばれる霊的スポットの地下に設営されたアワー・ダンス会場へと向かって下さい。このアワー・ダンスは過去に阿波県で行われていたものとは違い、極力宗教色を排除したYOSAKOIというダンスに近いものですので、特定の宗教を信奉されている方でも参加しやすいものにアレンジされています。
地下深くの会場に到着しますと、擬似催眠網笠が支給されます。電極や脳波調整機器が埋め込まれた網笠を被ると、無数の極細の端子があなたの頭蓋に刺しこまれ、脳に電極が直結します。※係員の指示があるまで網笠を外さないでください。脳が損傷するおそれがあります。
擬似催眠網笠との接続が終わると、脳に直接「ア、ヤットサー ア、ヤットヤットー」という音声がエンドレスリピートされて流し込まれますので、そのまま暫く他の参加者の方々とダンス開始をお待ちください。
会場が暗転しスモークで覆われ、レーザービームが飛び交うようになるとアワー・ダンスが始まります。爆音で鳴り響くシンセサイザー、スピーカーから放たれる重低音の音圧と共に流れる「エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ」というサンプリング音声があなたの脳内の「ア、ヤットサー ア、ヤットヤットー」という音声とリンクし合い、あたなは次第に恍惚状態に移行していきます。
すると前方のステージから、スモークと共にAWA県民達が登場します。県民たちはマッチング登録した故人たちの外見に似るように顔面、身体を整形しており、ダンスフロアに降り立った県民の方々はあなた方と共にアワー・ダンスを踊ります。(ダンスを知らなくても、擬似催眠網笠があなたの脳に直接ダンスの動きをダウンロードしてくれますのでご心配はいりません。)
このアワー・ダンスの目的は、恍惚(トランス)状態に陥ることであなたの深層記憶を呼び起こし故人の霊魂と関連づける為なのです。脳内で爆音で鳴り響く呪詛のような文言は準備された肉体と魂を結びつける作用をもたらし、招魂と受肉のプロセスはこのトランス状態になった熱狂的な踊りのエネルギーと、AWA県のハカバそれ自体が持つ土地の霊的な力によって完成します。
因みにこのアワー・ダンスのグループの事を、睡眠の状態の一つを称した「REM(れん)」と呼びます。有名REM(招魂の再現率が高いグループ)になる程その参加費用は高くなりますのでご注意下さい。
アワー・ダンスミュージックが鳴り止み、会場の照明が元に戻ると招魂プロセスは終了しあなたは覚醒状態に復帰します。係員の指示に従い網笠を外すと、そこにはあなたが熱望した故人が立っています。目の前のあなたの愛しい人と、再会の喜びを噛み締めて下さい。
・AWA県の住民属性ともう一つの観光目的
ここまでお読み頂いた方で、「AWA県民に霊魂を憑依させたとして、憑依を受け入れたり整形を進んで施される県民は存在するのか。」と疑問に思われる方も少なくないと思います。
anazomのCEO、ヂェフ・ペゾスが細心の注意を払ったのはその点でした。ペゾスは、元阿波県の県民のanazomに対する反感を嫌い、「現地住民はあくまでも招魂サービスを円滑に進める為のスタッフに過ぎず、憑依させる肉体および人格は別の土地から招聘するべきだ」との考えを持っていました。また、招魂した人格が県外に出て不要な混乱を招かない(独裁者の霊魂を呼び出したとして、それが世界に放たれたと想像してみて下さい。)ように、あくまでも範囲をAWA県に限定したサービス提供を想定していたのです。
その為、ペゾスは世界各国から「今の人生に絶望している人間」を集め、AWA県における憑依キャストとしての雇用を募りました。今までの人生に別れを告げ、AWA県で全く新しい人格、新しい姿形を獲得し、別人として人生をやり直す事ができるという奇跡を謳って募集をかけたのです。
例を挙げましょう。日本国の東京都に住む丸出 黒男氏(40歳)は所謂ブラック企業に勤めており、厳しいノルマと終わりの見えない残業に耐えかねて自殺を図ります。しかし首吊り縄に手を掛けたその時スマホに届いたAWASの広告メールに気を引かれ、自殺を思いとどまりました。2ヶ月後、AWA県の住民票を取得した丸出氏は、難病を患っていたNY在住のアーティスト、オノ・ヨーコ氏(当時108歳)のマッチング対象として、ジョン・レノン(40歳)としての新しい人生を歩む事になりました。
1年間、ジョン・丸出・レノン氏と寄り添い闘病を続けたヨーコ氏は、レノン氏の見守る腕の中でその生涯を終えたと報道されています。
この感動的なエピソードにより、AWASは爆発的なヒットを収め、世界各国からサービス利用者を集めていきました。またその波及効果により、AWA県は人生に絶望した世界各地のマイノリティが集う聖地としての役割を果たすようになりました。いじめに遭ったティーン世代、人種差別や民族迫害に苦しむ少数民族、夫からのDVを逃れる為、DVシェルターよりもAWA県に住民登録をした女性も数多く、更には(表立って公表はされていませんが)政治亡命した某国の要人までもがAWA県民として住民登録するなど、県は様々な弱者・日陰者、迫害され差別されてきた流浪の民にさえ門戸を開いたのです。亡命者や移民、被差別者達はみな超一流の整形外科手術を受け、世界中から集められた造顔・義顔作家の作った精巧な憑依対象の顔を獲得し、今までの人生の記憶と人格を抹消して招魂した人間の記憶と人生を引き継ぐことを選択していきました。AWA県の観光目的は招魂マッチングサービスだけに留まらず、世界のマイノリティを支持するanazomのポジティブな企業姿勢を体感することにもあるのだ、と言っても過言では無いでしょう。
このためか、現在AWA県は急速な多国籍化が進んでおり、そのエキゾチックな街の雰囲気を味わう事もAWA県観光の魅力のひとつとなっています。
・おわりに
魂が集い再生する地、AWA県。
文化的にも人種的にも多様な県民を抱えたAWA県。
AWA県は今後様々な可能性を秘めた県としてニッポンをリードする人材を育てていくことでしょう。
あなたも是非、躍動するAWA県を訪れ、その熱量を感じてみて下さい。
(第五回 おわり)
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AWASでは招魂マッチングサービスについて従量制料金(サブスクリプション)を適用しています。 AWASでは必要な個々のサービスにのみ、サービスを使用する期間だけお支払いいただき、長期契約や複雑なライセンスは必要ありません。 AWASの料金は、水道や電気などの公共料金の支払方法に似ています。
サービスを利用した分だけ支払い、サービスの使用を停止したときの追加コストや解約料金はありません。また、サービス使用停止に際しての招魂済み個体の廃棄処理費用とそれに付随する法的処理費用は全てanazomが負担します。
今、AWASにご登録いただけば開始3ヶ月間の費用が無料になります。(招魂した個体がお気に召さない、などのサービス利用期間中の解約も承っております)
是非この機会に、あなたの愛した故人と再び出逢い、新しい思い出を育んでみてはいかがでしょうか。
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