死闘!秘密結社違愚vs県北戦士アガキタイオン
私、姫華マキナは、コスプレ衣装制作工房の事務所の床で延々30分は土下座をしている男性の根気に折れ、仕方なく口を開いた。「わかりましたよ……今回だけですからね、参加するのは」
「やったあ!ありがとうございます!これで息子も……あ、いや、県の創作大賞も盛り上がります!では、現地でお待ちしていますね!」
今では観光プロモーション事業も手掛けている、有限会社「新潟防衛軍」の社員、加藤和宏さんは、飛び跳ねるように土下座から身を起こすと、足の痺れも構わずに事務所から走り去っていった。安請け合いしちゃったかな……と、私は恐る恐る相方のミッシー、三島恵梨が作業している工房を覗く。やっぱりというかなんというか……彼女は仏頂面で裁ちバサミをカチャカチャやって威嚇してきた。こわい。
「……アガキタイオンとアガキタイリスの衣装、前回の爆破撮影からまだ直してないんだからね。『新潟県創作大賞』の授賞式、明日じゃん。どーすんの?」
「てっ……徹夜で手伝いますから神様仏様ミッシーさま!なんならお土産で新潟の地酒2、3本買ってきてもいいから!お願い〜〜!」
「……地ビールもいっぱい奢ってくれるならね」
困った笑顔を浮かべてミッシーがため息を吐く。手を合わせてミッシーを拝む私は、経費で落とせないであろう日本酒と大量の地ビールを想い、月末まで軽いままの財布を想って少し泣いた。
新潟市の新聞社が企画した『NIIGEI創作大賞』のプロモーションの一環として、県を代表するコンテンツとして認識されている『県北戦士アガキタイオン』と、その姉妹作品である『県北戦姫アガキタイリス』が駆り出されたのには訳がある。先週、創作大賞の運営に届いた一通の手紙。何やら古めかしい字体で和紙の便箋に筆で書かれたその文面には、
「『面白さ』を標榜するNIIGEI創作大賞へ鉄槌を下す。我は魔鬼。『くだらなさ』を至高とする秘密結社『違愚』の首領なり」との言葉が。
「まあ、この前の爆破撮影で警察沙汰だけは避けられたのは加藤さんの手柄だとは言え、そのお返しにまた変な事態に巻き込まれるんじゃ、割に合わないんじゃない?」
新潟へ向かう新幹線の中でミッシーが愚痴をこぼす。
「それが、警備会社や警察じゃなくて、プロモーションに便乗して、アガキタイオンとアガキタイリスに警備をお願いされたの。まあ、私と後藤さんなら大抵の悪いやつはなんとかできそうだけどさ……」
「危ない事はやめておいてね、マキナ……いくらマキナと後藤さんとはいえ、相手は何者なんだかわからないんだから」
心配そうな顔でミッシーが言う。
「まあ、その辺は大丈夫かな……っていうか、この手紙の主には心当たりがあるんだけどね……」
私は苦笑を浮かべると、頭の上に❓マークを浮かべるミッシーにウインクして、今日のステージ進行台本を開いた。
「足掻きまくるぜ!アガキタイオン!
「足掻いて魅せます!アガキタイリス!」
ドーン!という爆発音のSEと共に、アガキタイオンのスーツアクター、後藤さんと、アガキタイリスのスーツに身を包んだ私はそれぞれの決めポーズを構える。その前で大賞受賞者にトロフィーと商品を渡すのは審査委員長の作家、厳就ケン氏だ。って、なんだこの演出。爆発とか要るの。
「いやーおめでとうございます!これからも頑張ってください!」
厳就氏が受賞者の寒江かまど氏にトロフィーを渡そうとしたその瞬間……
「危ない!二人とも伏せろ!」
アガキタイオンの後藤さんが弾かれたように飛び出す!そして前段の二人を抱えると、受賞ステージの裾へ飛び伏せた。二人の立っていた位置には黒い布がはためき、雷の音(安っぽい合成音だ)と共に仮面とマントに身を包んだ人影が立っていた!会場をつん裂く観客の悲鳴!
「ワハハハ!我こそは秘密結社違愚の首領、魔鬼!創作大賞などという高尚を装った催しなど潰し、『くだらなさ』を至高の価値とする『違愚バカフィクションコンテスト』略して【違愚BFC】を開催することをここに宣言しよう!さあ、会場を荒らしてまわれ!我が復活怪人よ!!」
そう叫ぶと魔鬼と名乗った仮面の男がはためく黒布をブワサッと剥ぎ取ると、中身は……
「メガロイマジニア!!」客席のミッシーが身を乗り出して叫んだ。そう、あれこそはミッシーが過去に作った怪人コスプレ衣装、メガロイマジニアのスーツそのものだ。2メートルはある漆黒の球体に禍々しい毛細血管様の模様が明滅し、回転しながらステージ上の机や商品なんかを薙ぎ倒していく。
「まさか……復活していたというの?そしてあの仮面の首領はひょっとして……」
球体怪人メガロイマジニアは回転を早めて客席へ飛び込もうと進路を変えた。その先には呆然と立ちつくすミッシーが……
「ミッシー危ない!間に合え……アガキ───ック!」
私は球体目掛けて飛び上がり、その芯の部分へ飛び蹴りを叩き込んだ!ぶよん、という感触の先に人体らしき物体を蹴足がとらえる!手ごたえあり!
着地をキメた私は絶望する。回転が止まらない。
それどころか球体は客席方向へ向かうと思ったら迷走し始め、その身体からは何やら聞き覚えのある悲壮感に満ちた声が……
「マキナちゃん止めて!回転が!とまらなオエエエエ!ウげ!目がまわうぉエエエe」
「か、加藤さん!?」
球体は進行役の居たところに突っ込んでその回転を止めた。まだ入っていたマイクの音声がその悲鳴と……その、アレだ。(自主規制)の音を拾う。
「十想地明翁(じっそうぢ・あきヲ)監督!」立ち上がったミッシーがステージ上の魔鬼首領に駆け寄り、その仮面を剥ぎ取る。
「なぜ、こんなことを……下ネタはやらないのが信条じゃなかったんですか!?」
あきれ顔のミッシーが、悶絶している球体の中の加藤さんを指さす。
「だって私もイグで目立ちたかったんだもん。」
十想地監督はテヘペロしながら言った。私は土産物の請求書をこの監督に送りつけてやろうと心に決め、加藤さんを助けに向かうのだった。
(おわり)
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