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キヒヌ島の民族衣装クルト

エストニアの離島キヒヌ島は、パルヌからフェリーで1時間と少しの場所にある、周囲16km程の小さな島である。

島の北東にある港に着いたら、現地ガイドのマーレさんがトラックで島を周ってくれた。2019年のこと、8月末とはいえ涼しい。皆長袖を着ている。ここでは、男性は、漁に出て数ヶ月家に帰らない。アザラシ漁が伝統的な漁業であったが、アザラシが保護対象になり、1980年代に漁が禁止されて、伝統的アザラシ漁文化は危機の状態にある。女性は、男性の留守の間、家を守り、農業や織物をする。教会の神父も女性だと聞いた。

マーレさんは、自分の家に案内してくれて、室内を見せてくれた。庭にはリンゴの木が実をつけていた。マウンテン・アッシュというナナカマドのような木がたくさんの赤い実をつけていた。広い牧場には数頭の羊が遊んでいる。刈り入れが終わった麦畑には、麦わらが円筒形に積まれていた。

元小学校の校舎を使った博物館を見学した。そこで、マーレさんが伝統的なスカート「クルト」を衣装箱から出して説明してくれた。スカートは、赤を基調に緑や黄などが入ったカラフルな縦縞模様である。喪に服すときは黒の多いスカートを着用し、次第に明るい色になり、1年後には元の明るい赤に戻るという。スカートは、裏表がリバーシブルになっていて、洗濯はしないらしい。女性たちは、数十着のスカートを持っていて、大切に使い続ける。

結婚すると女性は夫持ちという意味でエプロンを着けるようになる。若いときは明るいエプロンで、年齢が重なると落ち着いた色に変わるという。農作業にはエプロンの上に白布のエプロンを着ける。エプロンは、家事のシンボルであり、それを着るということは、主婦だということだ。

スカートやエプロンは、どこかの工場で作られるわけではない。各家庭でひとつひとつ手作りで作られる一点物。キヒヌ島は、持続可能な社会そのものだ。

日本も、ついこの間までそうだった。子ども頃に、おばあさんが、洗い張りといって、和服を1枚の四角い布にほどいて、洗ったら、一間の長い板に貼って干していた。それをまた縫い直すのだから、大変だったが、着物は一生ものということなのだ。若いときは明るい色の振り袖で、既婚者の正装には落ち着いた色の留め袖がある。葬式は黒い喪服。キヒヌ島のスカート「クルト」に共感を覚えたのは、そんなわけからだろう。

キヒヌ博物館
クルト
マーレさんの牧場
麦わらのロール
リンゴの木
マウンテン・アッシュ


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