メダカの気持ち
私はメダカ。ここでお母さんが産んでくれたの。ここは、温度も変化が少ないし、生き生きとした水草さんともよく会話をする。安定した場所なの。
こんなに環境がいいところだから、メダカの群れは出来るのだわ。ご先祖さまがきっと見つけてくれた絶好の住処。水辺からご飯も降ってくるし、飢えることもない。お腹もいっぱい過ごせるの。
お母さまは「何かあった時のために警戒していなさい」というけれど、私はしていないわ。だって生まれてから一度も怖い肉食魚に会ったことなんてないもの。ここは快適だからずっとここに住みたいって思うわ。
だけど、不思議。
ある日、突然前触れもなくお空から大きな網が降りてきて捕まえられた。私の旦那さんは無事だったのだけれど、その代わり私と仲間達が犠牲となった。
暖かい水もなくて、同じ住処で暮らしていた水草たちとも会話ができなくなったわ。
突然私の日常は奪われた。
こんなに水の流れが乱れたことなんて、今まで経験したことがないわ。まるで地震が起きた時みたいに体が、内臓が揺らされて、私は水の温度がずっと低い場所へ移された。信じられないかもしれないけど、本当の話なのよ。
そのうち、ここの環境にも慣れてきた。歳をとったせいかしら、多少のことで驚かなくなったわ。
今までとは違う味だけれど、お空からご飯は落ちてくるし、お魚たちは同じメンバーがそこにいる。でも、たまに違うお友達が来るわ。
その子も、私と同じように突然ここに連れてこられたって言っていたの。何度も揺らされて、怖かったんだって。
ずっと時間が過ぎていって、段々と私は、大きな音を立てられても、微動だにすることは無くなっていった。そして、私は眠ったようにお星様になったわ。その時お空から見て気付いてしまったの。
これって全部「人間」っていう生き物のせいかも…。
大きくて、足というものが生えていて、陸の上で呼吸ができる怪物がいて、その怪物が、私たちを何度も別のところへ連れて行ったり、魚たちをなんと、食べたりもするのよ!
どうして私、気付かなかったのかしら?どうして疑問を持たなかったのかしら。空の上から降ってくる大きな網や、私たちの水槽を叩く生き物、空から降り注ぐご飯…。全部私たちは、人間の掌の上で転がされていたのだわ!
がっかりした、私の人生、なんだったの?
今度生まれる時は、メダカなんかに生まれたくない。今度こそ私は人間になって、逆に人間を掌の上で転がしてやるのだわ。