大事なぬいぐるみ
私のシーツを洗うためだろう。母が、私のベッドの上に寝ていた1匹のぬいぐるみを、アルトサックス入れの上にちょこんと座らせていた。そのぬいぐるみは、私が娘のように可愛がっているものだ。それなのに母は、何ヶ月も開けられていないアルトサックス入れの埃の上に置いた。
それに気づいたとき、すぐさま下ろして綺麗な自分の、デスクの上に座り直させてあげた。そして、母はデリカシーのないただのぬいぐるみだと認識していたのではないかと感じ、怒りを覚え、遂にそれは頂点に達してしまった。
家庭崩壊、と言った方が正しいのではないだろうか。私は母の眠る布団の周りにぬいぐるみを並べた。みんな母を囲むようにしてじっと見つめていた。どれも怖い表情をして、眠る母を見下げている。怖いね。
私は玄関に、先程デスクの上に置き直した私の娘をポツンと座らせ、今日予定していた教習所に何のためらいもなく向かった。
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