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走れスナイダーカット

ジャスティスリーグのスナイダーカットを観ました。一言感想を言うなら、神話。これはなんか色んな意味で神話だなぁと。

毎度ですが、これ以降は色々ネタバレありますのでよしなに。

■ジャスティスリーグとは

とりあえず全く知らない人用に一応書いておくとジャスティスリーグっていうのは日本でも有名なスーパーマンバットマンがチームを組むっていう話で「アベンジャーズのパクリ?」ってよく言われてよく怒られるのがお約束ですが、元々アメコミのDCコミックスがジャスティスリーグを出した後にマーベルコミックがアベンジャーズをやってるので逆なんですね。映画のせいで日本での一般の知名度はアベンジャーズが勝ってる気がしますしなんなら「バットマンはアベンジャーズに入らないの?」って人も多いと思いますが、スーパーマンやバットマンは出版社が違うので出ません。コミックではコラボしたことはあるみたいですが映画でそれが起きたら革命だと思う。
ていうかアベンジャーズが2012年に映画化された後、2017年にジャスティスリーグが映画化されたのでコミックと順番が逆だからややこしい。ちなみに映画だとジャスティスリーグはワーナーブラザーズ、アベンジャーズはディズニーとマーベルスタジオが作ってるって感じ。

■DCエクステンデット・ユニバースとは

スナイダーカットとはなんぞやって話ですが、その前にDCコミックスの映画シリーズである「DCエクステンデット・ユニバース(DCEU)」について。
DCコミックスの実写映像作品としてはドラマの方で「アロー」や「フラッシュ」があってそれらがクロスオーバーするシリーズがあるんですが、そちらは「アローバース」と呼ばれています。
マーベルのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に対抗する形でかつ、ドラマの方で描かれている「アローバース」と差別化を図る形で作られた実写映画シリーズがDCEUというわけです。
発表された時点で割とスケジュールもタイトで順番も大丈夫かこれ?っていうなんか対マーベルへの焦りを感じるようなところもありました。たしか。

まずスーパーマンの誕生を描いた(何度目のリブートだろ?)「マン・オブ・スティール」(2013)、そしてスーパーマンの宿敵レックス・ルーサーの暗躍によってバットマンとスーパーマンが戦うことになる「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(2016)が続きます。
BvSでサプライズ的にワンダーウーマンが登場するんですが、その単独作が日本だと2017年の8月に公開(アメリカは6月)。ワンダーウーマンはアメリカだとそりゃメジャーなキャラなんですが日本だと圧倒的に知名度落ちると思う。日本で有名なアメコミキャラって言ったらアベンジャーズ以前はスーパーマン、バットマン、スパイダーマンって感じだったでしょうし。実際日本での興収はマンオブスティールはタイトルにスーパーマンを入れなかったのと何度目だよって感じもあったんでしょうか9.7億円と低めでBvSは18億まで持ち直すんですがWWは13億と落ちました。まあこれはがんばった方だと思います。
そしてJLは2017年の11月に公開。その興行収入はなんと!

11億円!

世界興収も6.57億ドルで、これはそれまでのDCEUで最低記録となってしまいました。
ちなみにBvSとWWの間にスーサイド・スクワッドっていうバットマンの悪役キャラがチームを組むっていう世界観は共有してるけど直接絡まないスピンオフ的な映画があるんですが、もうすぐリブートされることからわかるように割と内容はあれなんですがそれでも日本で17億、世界で7.4億ドル稼いでるんで、ヒーロー集結超大作としてはかなりの大コケと言えるでしょう。

なんでコケたかは色々考えられますが、まずBvSのラストでスーパーマンは死亡するんですが、ジャスティスリーグはバットマンがスーパーマンの遺志を継ぐために結成するって感じの宣伝だったんで予備知識ない人はスーパーマン出ないと思ったんじゃないかと。あとワンダーウーマンはそこそこヒットしたので知名度上がってたとしてもサイボーグとアクアマンは日本では無名に等しい。フラッシュは知られてるだろうけどドラマで知ってる人からしたら逆に混乱するんではっていう。

でもこれらは日本での事情なんですよね。俺も日本のワーナーの宣伝担当だったら頭抱えると思う。ところがJLは日本よりもアメリカの方が派手にコケてるんですね。アメリカだけだと2億ドル。MoSは2.9億、BvSは3億、WMは4億。ちなみにアベンジャーズは6億。
要するに「駄作」だったんですね。頭すっからかんにしてポップコーン食べてればそれなりに派手でいっぱいヒーローが出てきて戦うから楽しい気がしますが、そこかしこで「ん?」ってなるんです。少なくとも俺はそうでした。ん?の積み重ねが多すぎて見終わってからもモヤモヤしかないし、それは「考察」とかでは解決不能なものなんです。考察って「楽しい想像」の先にあるものだと思うので。

■ジャスティスの迷走

ジャスティスリーグの映画化には紆余曲折があったんですが、そもそもは2007年くらいには計画されてキャスティングとかもやってたのにストライキとかで遅れ、08年の「ダークナイト」がヒットしたことで逆にJLが製作中止になるという。
そして2013年のMoSから改めて映画シリーズを作っていくということにしたそうです。MoSもBvSもJLも監督はザック・スナイダーが務めます。公開スケジュール考えるとすごいハードワークだと思うんですが、それでも引き受けたのは、スナイダー監督がそれだけスーパーマンやバットマンたちアメコミヒーローが好きでその実写化に人生と命をつぎ込んでもいいと思ったからだと思います。メイキング映像見てるとめっちゃ楽しそうだし。
が、スナイダー監督はジャスティスリーグ制作中というか追加撮影中の2017年に降板します。娘さんが急逝したことで同じくプロデューサーだったデボラ・スナイダー夫人も降板。
その代打を務めたのはなんと「アベンジャーズ」の監督ジョス・ウェドン。追加撮影とそのあとのポストプロダクションを務め映画は公開に至ります。これ、DCのライバルであるマーベルの同じようなヒーロー集合映画を成功させた人が手を貸してくれるという形で普通に見たらちょっと感動的なのかもしれないけど、スナイダー監督の作風とDCコミックスの雰囲気を知っているファンは当初から懐疑的というか不安しかなかったんじゃないかと思います。

スナイダー監督は、独特の作風で知られていてMoSやBvSもかなり映像的にも内容的にもダークで重いんですね。ファンにとってはそれはDCコミックス的で正解ではあったんでしょうがWBなのかウェドン監督の判断なのか、JLには追加撮影でユーモアのあるシーン(実際には滑り気味)が足され、フィルムのトーンも明るくなり、これはウェドン就任前だと思うけど、そもそも2部作で計画されていたものが120分まで短縮されることに。まあそういったことが失敗だったのは数字として出たわけですが。

で、ネットで割とニュースになったりもしてるんですがサイボーグ役を務めたレイ・フィッシャーをはじめとする関係者たちによるウェドンからのハラスメント行為の告発などもありましたが、それに関することとウェドン監督の人間性についてはよくわからんので触れずにおきます。まあたぶん問題行動はあったし、問題のある人なんでしょうが、そのあとも割と仕事して結果だしてるんですよね怖い怖い。

■#ReleaseTheSnyderCut

というわけで公開されたものがあまりに杜撰な内容でスナイダー監督の作風からも離れていたことで公開直後から「ザック・スナイダーが本来作ろうとしていた版があるはずだ!」という決めつけから「スナイダーカット公開しろ運動」がファンの間で起きるんです。アメリカのオタクの行動力すごい。ただ、運動の間には色々と問題行動もあったようです。

で、これ実際ホントだったのかブラフだったのかスナイダー監督自身が2019年3月にスナイダーカットが存在すると明言。

そして2020年5月にストリーミングサービスのHBO Maxで公開されることが発表されます。2、3千万ドルくらいかけて追加撮影とかしたそうな。

そして元々劇場公開ではなくドラマシリーズとして公開する予定だったということで7つのパートに分かれて総計242分という特大ボリュームで完成した「スナイダーカット」がアメリカでは3月、日本では5月に公開となりました。

冒頭で「神話」と感想をまとめましたが、もうひとつ「すっきり」というのがあります。ウェドン版で感じた「ん?」がなくなりましたので。

この感想文書くためにウェドン版見直さなきゃなーと思ったんですが、かったるいのでやめました。覚えてる限りですが、ウェドン版は基本的に作中のキャラクター全てにおいて行動の動機がよくわかりません。全体的に結果ありきでふわっと進んで、最終的に「え?スーパーマンだけいれば解決すんじゃん」っていう身も蓋もない終わり方に思えました。

ちなみにウェドン版を見てないというスナイダー監督の版にはウェドン監督が追加撮影したシーンはひとつもないそうですが、それにしても大筋は同じ話なのにここまで変わるかと。まあ倍の尺を使ってるのでそりゃゆったりと背景描写はできるんですが、とはいえ無駄な要素はないです。むしろウェドン版の方が無駄な「ユーモア」シーンありますし。ただ、スナイダー版になんですが、どう考えても2秒くらい切れるでしょっていうカットがいくつかあったのが気になりますが。さすがに素人が見てもわかると思うんですが、変な間があるカットが少なくとも2つはあったと思います。まあ、それは編集ミスということにしておいて、シーンとしての無駄なものはないなと。

そもそもアクアマン、サイボーグ、フラッシュについてはこの映画内でバックグラウンドを描かないといけないはずなのにウェドン版にはそれがなかったんですね。なんとなくこういう能力のキャラって程度。それは人物描写じゃなくて設定紹介でしょっていう。ワンダーウーマンことダイアナに関しても単独作で描かれていたスティーブへの想いが再び描写されてました。これウェドン版にはなかったと思うんですが。アクアマンも後の単独作ではちゃんと出てきたバルコがJLにも出るはずなのにいなかったわけですが、スナイダーカットではちゃんと出てきたし、アトランティスが今回の戦いに加わらない事情などもちゃんと描写されてすっきり。これはダイアナの故郷であるセミッシラの方もしっかりと描写され、陰ながらダイアナを支えていたことがわかりました。
この3つのマザーボックスをそれぞれ守ることになったアトランティスとセミッシラはちゃんとしてたのに人間は土に埋めて終わらせてたのはさすがに如何なもんかと思うんですが。事情がわからんままSTARラボに回収されてたし。

バットマンことブルースがなんか小馬鹿にされていたような描写もなくなったと思います。自分だけでは手に負えない敵を相手に地球を守るためにチームを作り、特殊能力がなくても技術と知恵で戦い、何よりクラークとの友情がBvSの仲直りとクラークの死という短い間に強く育まれていたことがわかる。マスクを被っててもそれぞれのシーンでバットマンの心情がわかるベン・アフレックの表現力すごい。
そしてクラークはもちろんダイアナたち他のメンバーもちゃんとブルースに敬意を払ってるんですね。
それとは関係ないけど、ちょっとしたセリフでアーサーの「俺がそう言ったか?」のシーンとかもすごくいいなと。たった一つのセリフで言った人の人間像と相手との関係性が描かれるという。

そして最も描写が濃くなったのはサイボーグですね。ウェドン監督に酷いハラスメントを受けていたということが関係しているのかウェドン版では…彼がなんで仲間になって何してたのかよく覚えてません…。スナイダーカットでは正に話のど真ん中でしたね。マザーボックスから生まれたとも言える彼はマザーボックスを使ったスーパーマンの復活にもユニティの分解にも必要不可欠。何より彼の行動の動機が自分をサイボーグにしたことで恨んでいた父との和解からの愛情だったというドラマ性。
そしてフラッシュについては、昔の映画版やドラマもあって割と彼のオリジンは俺の中では当たり前になってたのですがそういやお父さん出てこなかったなと。ウェドン版だとただ早く動けるやつが友達欲しさに参加したって感じだったような。スナイダーカットだと「父親の冤罪を自分が証明する」ことや「スピードフォースにアクセスするにはエネルギーがいる」ということが描写されて「人助けをするヒーロー性」や「よく食べる」というキャラ付けがちゃんとされて、しょうもないコミックリリーフ的なシーンがなくなったことで単純に大人たちの間で浮ついてるだけっていう風になったかなと。

■神はジャスティスに宿る

では神話性について。

これはスナイダーカットが公開される以前にその内容を知り得た人たちが「スナイダーカットはより伝説的で神話的だ」と語っていたそうなんですが、まさにその通りだと思います。

映像的にもウェドン版では明るくされていたのがスナイダー監督らしいざらついていて黒みを絞ったダークな感じで統一されていて「格式」すら感じると思います。

そして物語自体の始まりが地球の神話の時代になっていて、神話の英雄たちが地球から追い払った強敵の再来をジャスティスリーグは迎え撃つわけです。まさに神話の再来。まあ実際には今回はその最大の敵の手下なわけですが。
この過去の戦いはウェドン版でも描かれているんですが全く違うっていうくらい印象が違いますね。ただ大昔に強敵が来たって感じで神話的な感じはなかった。出てくるキャラも違うし、描写も違うし、そもそもダークサイドとステッペンがなんで地球に固執するかの動機付けがなかったし。

ワンダーウーマンとアクアマンについてはその出生や能力も神話の代と大して変わらないし、そのまま引き継いだと言えるでしょう。サイボーグもメカっぽいから未来的だけど元になったもの自体がマザーボックスという神話の代のもの。スーパーマンことクラーク・ケントことカル・エルもそのチート級能力はさておいてもBvSの時点で彼は神話になってます。

俺が個人的に「神話やこれ…」って熱くなったのはフラッシュなんですよね。実は。
ラストバトルのクライマックスで脇腹を負傷して走れなくなったことでサイボーグへのエネルギー供給に間に合わずユニティが完成し世界が滅んでいく。その中で彼は治癒能力で傷を癒し再び走り出す。どう考えても手遅れにしか見えない状況なのに、バリーだけは何かを目指して懸命に走る。もう全世界のフラッシュファンは叫びますよね。

走れバリー!走れ!

いやもうこれ叫ばせるためのシーンでしょこれっていう。そして「ルールなんてひとっとびだ」と時空を超えてマザーボックスが合体する前に戻る。ここの描写が映像的にも凄かった。何より、ダイアナ、アーサー、ビクター、クラークが上記のように「過去」の神話の流れを汲んだ存在なのに対し、バリーは時を超えるという超常性で今まさに神話になっていく瞬間を見せてくれたなと。
実は俺はウェドン版のJL見た時点ではエズラ・ミラーのフラッシュに全然魅力を感じてなかった。共感性羞恥持ちなせいもあるけどあの痛い描写は正直ダサいなと。あとはドラマの方のグラント版フラッシュの方が馴染んでたのもあると思う。でもスナイダーカット版のフラッシュはこのシーンで一気に好きになった。それ以前からウェドン版で感じてた嫌な感じはなかったし、ほんとなんだったんだあれっていう。やっぱフラッシュかっこいいぜ!

スナイダー監督はヒーローを神として描いているらしいけど、いかにも神話的なワンダーウーマンやアクアマンだけでなく古代超兵器によって生み出されたサイボーグや今風(なのかな?)なフラッシュにまで神話性を持たせるのすごい。

あれ?バットマンことブルース・ウェインはって?

自分には手に負えない敵が来るからメタヒューマンを集めてスーパーマンに匹敵するチームにしよう!戦力が足りないから何がなんでも絶対彼なら大丈夫だからスーパーマンを蘇生させよう!自分が捨て身で突っ込んで突破口作るから!立ち回りとエイムには自信があるからみんなを援護!とまあ縁の下支えまくりな活躍をしてるんですが、何よりこの「神話」においてブルースが果たす役割っていうのは「語り手」なんだろうなと。それはBvSから始まってるんだろうけど未来から来たバリーのメッセージを受け取り、ダークサイドに敗北した未来を視て、それを阻止するためにジャスティスリーグを作るわけですし。そしてスナイダーカットのエピローグを見てもこの「物語」は彼を中心にして彼の視点で描かれてるんだなと。

そう、我々は闇夜の騎士が語る「神話」を拝んでいるわけですよ。

で、一番大事なことなんですが

続きは?

いかにも続きがある風に終わってますが、これいわゆる投げっぱなしエンドなんですね。本来はダークサイドが侵攻してくる続編が予定されてたけどスナイダー監督の降板とウェドン版の大コケでポシャっているので、今現在も続編が作られる予定はないそうです。

でも、シャザムも合流する予定で作られたはずなんですけどねぇ…。と、シャザムの興収を見て白目。

ただ、エピローグのあれが追加撮影分だとしたら、あれによって「ほら!また続き作らないとファンが運動起こすよ!てか起こして!」って風にも思えなくもないんで、ちょっと今後に期待したいですね。

サポート頂けたら…どうしよっかなぁ〜。答えはもちろん、イヤァオ!