福田和代さま @kazuyo_fuku の始めたハッシュタグ #新型コロナ千夜一夜 に寄せつつ太田忠司さま @tadashi_ohta が星野源さま @gen_senden の曲にインスパイアされた掌編に更にインスパイアされて、新城カズマが掌編というか散文詩を書いてみました^^;
(とゆわけで投げ銭システムなので最後まで無料で読めますが、お気に召したらチャリ〜ンと投げ銭してください〜)
山川異域風月同天——と、かれは記して送った。郷[くに]は違えども、風も、月も、君と我とをつないでいるのだ。
その、かれの事績を、あなたは読む。画面は深夜の東京で、ぽつりと、白く灯っている。
ぽつり、ぽつり、ぽつり、無数のモニタ画面が触れ合うことなく繋がって、同じデータを表示している。そのことを、あなたは識るともなく識っている。
わたしはそうして、そんな故郷のあなたを想う。この惑星の裏側で。こちらは昼だ。アザーンがまもなく響き渡る時間だが、人通りはない。カアバ神殿は、その黒々とした神々しさのみが屹立している——訪問が禁じられて幾日が過ぎたろうか、わたしの記憶は曖昧だ。
今わたしの立つ場所から二千㎞ほど北北東へ進んだ古都で、たいそう鼻筋のとおった女王がひとり、かれと同じ月を見上げながら、もの思いにふけっている——あのピラミッド群が建立されてから幾年が過ぎ去ったことだろうか、と。百年か、いやいやそんなものではあるまい。五百年か、それとも千年か。実際には二五〇〇年ほど前だ——王女にとっては:だがわたしとあなたからすれば約四五〇〇年前になる。
わたしはそのピラミッドを訪れたことがあるし、あなたも紀行番組でそれらの威容を観たことがある。ただし、かれは、千五百年以上前の王[おおきみ]は、それほど巨大な人工物がこの惑星に存在し得るなどと夢に見たことさえない(そもそも、惑星という観念すら、かれは持ちあわせていないのだ)。けれども、想像したことはある。はるか西の彼方に偉大なる女王国のあったと聞く、その国を。その威容を。その至福を。その疾疫の歴史を。
そしてアザーンは始まる。
かれは今も月を見上げる——女王が、わたしが、あなたが見上げている、あの月を。
離ればなれで、みんなそろって。
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