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写真のリアリティ
新田原基地の航空ショーを撮影し始めて10年が経過し、最近写真を改めて見直しています。
航空機が大好きで、中でも戦闘機が好きなのですが、写真として撮影するときは少し違ったものを求めています。
私が求めているのは戦闘機が写った「風景」です。
従っていつも撮影している風景写真と同様のアプローチをすることが多く、非現実性と現実性の狭間を狙っています。
現実性、すなわちリアリティを表現する手法として、背景を利用したり、空気の光拡散性を利用して不鮮明でクリアでないものを狙ったり、または写真の粒状性、場合によっては黒潰れ白飛ばしなども利用して複合ノイズによって鑑賞者の記憶にアクセスする手段を取っています。
不鮮明さなどのノイズを見ることによって、人の脳は過去の記憶映像を補完し、そこへ感動が引っ張り出されるという手法です。
戦闘機や航空機は大好きですが、例えば雑誌に載っているような完ぺきな品質のズームアップされた戦闘機の写真を見ても、私はどうもトキメかないのです。
もちろん戦闘機のアップ写真は私も撮りますが、普通に撮った写真を見てもどうもピンとこないことが多い。
実はこれと同じことが最近のポートレート写真にも言え、雑誌に載っている可愛いアイドルや、イケメン俳優の写真を見ても全く感動しません。
さんざん過去の記事で書いてきたように、それらのポートレート写真にはリアリティが全く無いからです。見れば見るほど完全にCGのように見えるわけです。
ただ単に綺麗で、超クリアで、一切ノイズが無く、肌は補正されまくってのっぺりと塗りつぶされ、もしくは加工によって完ぺきなグラデーションが作られ、非の打ちどころのないポートレート写真。
あまりにも綺麗過ぎるそれは、全く感動を生まないというわけです。
私としては1ミリも感情移入する余地がない。
AIによって作成された写真が一般的に普及し始めた中で、このことを世間が実感としてようやく理解できるようになってきたと思います。
いずれAIもこの欠点に気が付いて、如何にしてノイズを加えるかということを試行錯誤し始めると思いますが、自然界に存在するノイズを作り出すのは容易なことではありません。
一見真っ白に見える壁であっても、その表面には苔やカビ、微生物や汚れが付着しており、それらは光を拡散させて再現不可能なレベルの複雑多彩なノイズを作り出します。
自然風景の美しさとは、実はノイズの集合体であると言って良いでしょう。
このノイズは現在の最新のCG技術を駆使した映画ですら再現できておらず、ある程度疑似的に再現することは出来ても、現実を写した写真には到底及ばないのです。
写真の最大の利点は、これらのノイズを含めた現実性です。
もうお判りだと思いますが、今の写真業界、カメラ業界は、その最大の利点を捨てて、CGに近づくことを目標としています。
一方でAIは写真の持つ強みを吸収し、写真業界やカメラ業界が捨ててきたものを拾おうとするでしょう。
写真とは何か、それを今一度考える時期に来ているでしょう。
さて、何だかたいそうな話になってしまいましたが、過去10年間で撮影した航空機の写真を数回に分けてアップし、まとめてマガジン化しようかなと思っています。
見てもらいたいという気持ちも少しありますが、どちらかと言うと今後の私自身の航空機写真を考えるまとめみたいなもので、10年間に及ぶ実験を見て、考察するのが目的です。
ほんとはこっそりアップしたいのですがnoteの機能的に無理なので、何回かにまとめてみたいと思います。
お暇であればお付き合いください。
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