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世の中みんな白糸の滝

滝は意外に難しい撮影対象です。
ひとつめの理由は、撮影できる場所が限定されるため。安全な足場が限定されます。
ふたつめの理由は、谷は太陽光の影響が大きいため。光のバランスが難しく、どうにもならないケースが多々あります。
みっつめの理由は、対象が縦に長く、全体のバランスが悪くなるため。

他にもありますが、割愛します。要するに難しいです。

こういった理由もあって、あまり大して感動できない滝の風景を何とかしようと、写真家たちは滝の撮影手法を考え出しました。
それがスローシャッターによる撮影手法です。

今や滝の写真と言えば、ほぼ全てスローシャッターです。
前もって言っておきますが、この撮影手法を批判しているのではありません。
シャッター速度を落としてスローシャッターで撮影するというのは、写真というものを純粋に楽しむ方法としてわかりやすく、良いことだと思います。

「しかし」です。

世の中のほぼ全ての滝の写真が、まるで白糸の滝のようになってしまうのはどうかと思うのです。
私はこれを単純に「白糸の滝現象」と呼んでいます。現象と現像をちょっとかけています。「症候群」と呼ぶのはさすがに嫌味すぎると思って、控えています。
白糸の滝とは、富士のふもとにある国の名勝で、静岡県にある滝です。
日本三大名瀑のひとつとも言われ、四方から流れる水が絹糸をたくさん流したように見えることから白糸の滝と呼ばれていますが、名瀑ゆえにスローシャッターの被写体の代名詞となっている滝なのです。

今や、世の中の滝の写真は99.99999%以上(体感数値)が白糸の滝状態です。
残りの0.00001%はどうなっているかというと、それがたぶん私の滝の写真です、きっと。

私が何を言いたいかというと「滝=スローシャッター」ではなく、シャッター速度の違いによる変化を意識しましょう、ということです。
滝はスローシャッターで撮りましょう!という教えは、明らかに間違っていると思います。
何度も言いますが、スローシャッターを非難するのが目的ではありません。

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見てください。まさにスローシャッターの滝です。
シャッター速度は0.4秒。確かに綺麗です。十分作品に使える手法です。
この手法は決して間違いではありません。
でも、「音」はどうですか?
この滝の特徴でもある膨大な水量から来る「どどどどど!」という音は聞こえますか?
滝というエンターテイメントは「音」がキーになっています。
少なくともこの写真からは、さらさらとした水の音しか聞こえてきません。
私は写真の音を大切にしていて、風車の写真の時にも説明しましたが、風車の撮影では風の音が聞こえるかどうかを大切にしています。

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20分の1秒です。
ちょっと、どどどど、という音が聞こえてきたような気がします。
この滝の本来の水量が良くわかり、迫力が増したような気がします。

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80分の1秒です。
なかなかの迫力です。どどどど、という音も聞こえてきます。

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320分の1秒です。
ほとんど変化はみられませんが、水はほぼ静止しているように見えます。
どどどど、という音よりも、ばばば、とかバシャバシャという音に変化したような気がします。

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1600分の1秒。完全に静止画像です。
パッと見では、80分の1秒あたりから変化がほとんどないような気もしますが、今度はちょっと拡大してみましょう。

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最初の0.4秒の写真の等倍です。
とても美しいですが、絞りがF22のため、はっきりと回折の影響が出て眠い画像になっているのが気になります。
NDフィルターなどの対策が必要かもしれません。

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20分の1秒です。F16のため、やはり回折によって解像度が落ちていますが、水の流れらしさが感じられます。

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80分の1秒。F9で僅かに回折の影響がありますが、ほぼ気にならないレベルです。水の動きが良く見えてきています。
流動体としての重量感が伝わってきます。

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320分の1秒。ほとんど止まっています。水の動きが面白いです。
僅かに水が動いているのがわかり、水の流動はまだ意識できます。

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1600分の1。もはや流水というよりも、水そのもののマテリアルを楽しめる写真です。「ザ・水」という感じです。
水の質感や、透明度などが良くわかります。

どうでしたでしょうか。
どれかが正解というわけではありません。
滝の種類や、テーマや、あなたのイメージによって、いろいろな手法を試してみてはいかがでしょうか。
なんでもかんでも白糸の滝にしてしまうよりも、いろいろな手法と影響を把握して、あなただけのベストな写真を是非とも追求してみてください。

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