【無料】ヒグマ、ツキノワグマの撮影機材-前編 #25
森と山。
撮影スタイルを2つに分ける
フィールドの違い。
撮影条件が厳しい野生動物の撮影では、フィールドの状況が、撮れる絵を左右します。そこから撮影機材を選んでいきます。
私がクマを撮影するもっとも多いフィールドは「森」と「山」。この二つで撮影機材、特にレンズに求められるスペックは大きく変わってくるので、そこを中心にお話ししていきましょう。
■ 森の撮影
まず、森ですが、撮影において課題になるのは「暗さ」です。日中でも木々の梢に遮られて薄暗く、相手が動くことを考えると、手持ちでシャッタースピードも落とせません。そう考えると、機材的に求められるスペックは「高感度耐性」(カメラボディ)と、光学的明るさ(レンズ)となります。解放絞りの明るい、単焦点望遠レンズを使うことが多いです。
また、視界が利かない分、姿を見止めた時は既に距離が近い時もあり、そういう場合はクマの表情を狙います。ポートレイトという意味でも、解像度の高い単焦点レンズが望ましいです。
ボディは高感度に強いレフ機のD5を長く使っています。もう結構ボロボロですが、今でも一番信頼度の高いカメラです。今ならD6かな?
ミラーレスZの、低画素で高感度が強いカメラの発売も待ち遠しいですね。
プロとしての活動を始めようと決心した時に購入したのがこのレンズ。400mm/f2.8、600mm/f4と試しましたが、長時間フィールドを歩いて撮るスタイルの僕には、焦点距離、重量、いずれもこれが一番バランスが良かったですね。歩いて撮るスタイルの方は、スペックの重量だけでなく、実際に持ってみてバランスによる体感重量を比較することも大切です。
さらに、繊細な表情を捉えるカットでは300mm/f2.8。ワイド気味に狙う時はズームですが70-200mm/f2.8を使用します。ただ被写体との距離の問題もあり、短いレンズでの撮影成功例はぐっと少なくなります。
そしてもう一つ、現在500mmF4に代って最も使用頻度が高いのがこのレンズ。解像度はF4に敵わないまでも、その軽快さは全てを補って余りあります。また、軽いということは手振れを軽減できるので、解放絞りが一段暗くても、シャッタースピードを遅くしてカバーできるでしょう。
Zマウントでは600mm/F6.3が発表されましたね。F値の暗さが気になりますが、手振れ補正の効きの良さとボディ側の高感度でカバーすれば、非常に軽快な撮影が出来そうです。
■ 山の撮影
次に山。ここでいう山は、基本的に森林限界以上の高度。稜線上をイメージしていただければよいと思います。山のクマは私にとって重要な被写体です。その理由を述べた記事のリンクを貼っておきますね。
稜線上は見晴らしが良い場所が多く、空に遮るものがないため、光量には恵まれていることが比較的多いです。(もちろん朝夕で暗い時もありますが)私の場合、稜線上では周りの風景(特に植生)を含めて切り取ることが多いので、絞り開放値は暗くても、構図を自由にコントロールできるズームレンズが重宝します。それから稜線へはテント泊の装備など大きな荷物を担いで長時間歩くことが多く、機材が軽いことも望ましい。そういう意味でもやはりコンパクトなズームレンズに分があります。
もう一つ、見晴らしがよく、広大な山域の中で、非常に遠くのクマを観察する、というパターンもあります。この場合は、とにかく頂点距離が長いレンズをかついで、えっちらおっちら長い距離を歩くとになりますが、私の体力では、限界がありますね。笑)
ちなみにカメラボディは、明るい状態で、精細な風景をヒグマと合わせて切り取る、という観点からすると、高画素機が向いているかもしれません。私の場合、ここではD850が基準となりますが、AFの確実性という意味で、山上でもD5を使うことが多かったです。しかしミラーレスの導入で、山は高画素でピントも確実なZ9で撮影することが多くなりそうです。
ボディはレフ機のD850とミラーレスのZ9が主力です。
連射をあまり必要としない僕のクマの撮影では、Z9はどちらかというと高画素機の位置づけ。ミラーレス高画素機の意外なメリットとしては、クロップを迅速に違和感なくできる、ということが挙げられます。
レフ機なら、クロップするとファインダーに見える一部を記録するという撮影になりますが、ミラーレスならクロップすればその場でファインダーがその画角に切り替わります。「覗いたままの構図で撮る」これが撮影するうえで非常に重要だと考えていて、そういう意味では、レフ機は違和感なく撮影することができますね。Z9になってから、頻繁にクロップ機能を使うようになりました。
最近発売されたこのレンズ。山の撮影でよく使ったFマウントの200-500mmの画質の良いZ版を待っていた上に、安価ということもあり、すぐに導入しました。仕舞寸法が大きめなのは気になりますが、使ってみたところ、画質も良さそうです。来年の夏の山の撮影に活躍すると思います。
■ 番外編-海の撮影
ちなみに、番外編としてカヤックでの撮影があります。
この場合は、比較的岸に近づけることと、防水ケースへの素早い出し入れを考えると、コンパクトなズームレンズをチョイスすることがほとんどです。
古いレンズですが、いまだに頻繁に使用しています。
最もコンパクトで、焦点距離を伸ばせる(望遠が利く)タイプの画角のレンズです。これを防水ケーズに入れて、船上で出し入れして使っています。
いかがでしょうか。
フィールド別の機材の組み立てはざっとこんな感じでした。
■ 基本となる機材と、これからの展望
フィールドの条件に合わせた機材の選び方を書いてみましたが、もう一つ、機材を決めるのに重要な要素があります。それは「信頼度」です。
どんな状況でも、これがあれば、と思えるセットをエースとして心の真ん中に置いておきましょう。
よく「無人島に持っていくなら何?」みたいな質問を見かけますが、一つだけ持っていくなら、自分はこのカメラとこのレンズ!…というやつですね。
まぁ、カメラはもっていかないような気もしますが。笑)
自然写真に置いて、ここで最も求められるのは、よくレビュー動画や記事で見かけるような描写の繊細さやスペックの高さ、新しさではありません。タフな状況でもしっかり動作して、チャンスを逃さず切り取れる。そういった意味での信頼度が一番大切な要素です。
是非そういう信頼できるセットをひとつ、心の真ん中に置いてください。その信頼の重さが、この記事で述べてきたフィールドの条件の差を越えるなら、機材選びもまた変わってくるはずです。
ちなみに私の現在のエースなセットはD5+500mm/F5.6PFです。
今後の展望で言えば、機材選びの条件も変わりつつあるように思います。まず、ピントの不安(AFのズレ)が構造上、ミラーレスではかなり軽減されました。またレンズ選びも変化を見せています。長距離を移動する自然写真の望遠レンズは、重さや大きさが一つの大きな課題。大口径のレンズより、描写性能の上がってきたコンパクトなレンズの方が、トータルで利便性が高いように思います。(ニコンではPFレンズがそれに該当します)
個人的には「絞りの解放値はF5.6まで、テレコンも画質の劣化を考えて×1.4まで」が基準ですが、いずれも変わってくるでしょう。
レンズの手振れ補正の効きの良さと、ボディ側の高感度で、シャッタースピードを遅くすることができるからです。
そういう意味では、今回の私が列挙した機材は、少し古いものが多いかもしれません。しかし、基本となる考えは変わりません。是非皆さんも、ご自身のスタイルに合わせて、ベストな機材を選んでいただけたらと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回、後編では、実際のクマの写真を見ながら、そのフィールドの撮影状況と使用した機材について解説できればと思います。
写真が多めになる予定です。
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