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一番好きなクマの本。 【無料記事】

おかえり はな
おかえり むし
おかえり さかな
おかえり とり
そして 少年は もうひとり
かえってくるやつを まっていた。

クマと少年  あべ弘士(ブロンズ新社)


「語り継がれる、民話のような物語を作りたい」
漠然と、そんな風に思いながら、
カメラを片手に動物を追う時間を過ごしてきた。

ここでいう私の民話のイメージとは、

多くの人の言葉で語り継がれることにより
無数の変容を繰り返し洗練されてきたもの。

受けとった者の心の深い部分に長く残り、
一人ひとりそれぞれの解釈や、想いが宿っていくもの。

つまり多くの人に語り継がれ、
読者一人ひとりの心の中で、それぞれの物語として残る。
といった感じだろうか。

私が敬愛する作家が傍らに聖書を置いたのは、
おそらくは多くの人間による信心を経て
洗練されてきた言葉の連なりが、
個人の視野による思惑を良い形で研磨し、すり減らし
自ら書く文章に「他人の個性」という即物的な影響を与えない
静謐さがあるからだと推測している。
そしてそれは、新しい想像の、最良の糧になったのだと思う。


あべ弘士さんの『クマと少年』という絵本の物語は
イヨマンテとその精神を題材にした物語だと思うが
それはまさに語り継がれる民話のようで、
シンプルな言葉と、想像力を喚起する
印象的な絵で創り上げられている。

札幌で絵本屋「ひだまり」を営んでいる青田さん
頂いてこの絵本の存在を知った。
読んですぐ、僕はこのような物語を作りたいのだと思った。

本文中にある、大きな風景を見て
「この みどりのなかに いる」…という部分。
そんな風に想像してもらうことも、
ずっと僕が伝えたいと意識してきた
「自然への想像力」だ。

この物語を受けとった子どもたちは
きっと心の中に、自らの想像力で
それぞれの情景を描くだろう。そんな風に思う。

自然への想いがある人には、
ぜひ手にとって読んでいただきたい本だ。
僕が理想とする物語の芯が、
しっかりとこの絵本の中に詰まっている。


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