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『創造的でなければ死んでるのと同じ』  夏野剛✖️松本徹三 対談連載 2. 迷った時は遠くを見ろ

2021年10月26日(火)に開催された「Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第11回 夏野剛 x 松本徹三」の書き起こしです。
通信業界の黎明期に、ソフトバンクとドコモで活躍。現在、日本の携帯電話の礎を作ったと言っても過言ではない二人。夏野剛松本徹三氏が日本の未来に関して議論します。

2. 迷った時は遠くを見ろ

司会:最初の方に夏野さんがお話しされました。今回松本さんが『2022年 地軸大変動』という本を出され、これは夏野さんが、メルマガでもTwitterでも大絶賛されていらっしゃいました。この件についてお伺いしたいです。夏野さんご自身、SFはお好きでいらっしゃるのですか?

夏野氏:僕はSFを読んでたことが新規ビジネスを立ち上げるきっかけになったぐらいです。
僕、SF作家で一番尊敬してて、一番大好きなのがイギリスのアーサー・C・クラーク、『2001年宇宙の旅』とかを書いた人です。物理学の法則とか、科学的根拠に基づいた上でシミュレーションするっていうのがハードSFの醍醐味ですが、日本のSF作家さんはあまりしないんです。もうちょっとファンタジー系とかにいっちゃうんです。だから、硬派なハードSFっていうのが日本ではあまりないですけど、まさか松本さんが書くとは思わなかったです。

司会:松本さんは、以前『AIが神になる日』を出版されました。それもどちらかというと、ハードSFの様な形だったと思いますが。

松本氏:そうなんです。あのときも夏野さんに帯を書いていただいた。
僕は、自分でこれからAIを使った商品やサービスを作れるわけじゃない。歳ですからもう作れないんです。そうなると、もっと先の大きな絵だけでも見たいですから、あの本も50年~100年先のことを書いているわけです。AIは50~100年先にこうなると。

僕は、孫さんの近くで5年ぐらい一緒に仕事をしましたから、孫さんから教えられることも多かったです。あの人は時々変なことも言いますけど、おおむね良い事を言われます。その中で僕が好きだったのは、「迷ったときは遠くを見ろ」という言葉でした。孫さんの流儀は、何でも先ず大きな絵を描く事です。目標を目いっぱい高くする。それから逆算して、じゃあ、それが最終目標なんだから、明日はこれをやってなきゃいかんよねと。
僕はこの発想が大好きでした。そうでないと考えが縮こまるからです。今できる、明日儲かるということばっかり考えてると、大きな仕事はできません。いつまでも細かいことばかりに目がいっちゃう。もちろん地に足は着いてなきゃいけないから、明日やることは大切です。だけど、明日やることは、当然明日できることでしかないんです。ほっといたって、明日できることしか明日はできないんですから。でも、そのときに、将来的な大きな絵を見た中での明日なのか、単なる明日なのかでは随分違います。この点で、僕は孫さんはやっぱり偉いなと思った。僕も同じ考えでした。あのAIの本は、そういうことで書きました。だって、明日何やるかっていうのは、その辺でいっぱいみんなもうやってるのですから。そんなこと、いまさら年寄りが書いたって意味ないじゃないですか。でも、あの続編を書こうと思うと、いっそのこと本物のSF小説にしちゃった方が分かりやすいし、もっと大きな絵が描けると思って書き始めた。それが今度の本です。

この本を書いた二つの動機

松本氏:今度の本を書いた動機は実は二つあります。半分は、今言った様に『AIが神になる日』の続編のような気持ちですが、もう半分は「国際社会のあるべき姿の探究」です。今の世の中、コロナと気候変動で大騒ぎですが、両方とも大したことはないんです。そんなこと言ったら、苦労してる方から怒られるかもしれないけども、今のコロナも気候変動も、よく考えてみればそんなに大したことではありません。気候変動で2度~5度気温が上がって海面が何センチか上がる。それだけで済むのなら、地球全体で長期的に考えるとそんなに大きなことではないけど、もしこれが10倍か100倍ぐらいの規模で来たらどう対応するのでしょうかと。でも、我々は、コロナやこの程度の気候変動でさえウロウロしていて、何もあまりシャキシャキできてないじゃないですか。こんなことでいいのかと。じゃあ、今の10倍の規模の災厄が来たらどうするのというのを書いてみたかった。

夏野氏:地軸が動くというのは気象条件から何から、地球の超基礎原理が動くということなので全く違う。そこにSFの醍醐味があるんです。その中で、人がどういうふうに動くかに焦点を当てるのがSFのすごさで。SFってサイエンス・フィクションなんだけど、実は人の動きなんです。人がどう動き、人がどう考え、どんな人がどんなことをやるっていうのをシミュレーションすることなので。松本徹三はハードSFの大家ですよ。

松本氏:ありがとうございます。そういう大問題が起こったときに、世界は、そして、日本の首相はどう動くか。それを自分で考えるわけです。だって、そんなことは来年起こってもおかしくはない事だからです。もし宇宙人が来たらという確率は、0.01%かもしれないし0.0001%かもしれないけど、0%じゃないわけでしょ? そういうことがもし起こったときに、自分だったらどうするのかと。こう言うとおかしく聞こえるかもしれないけど、この本を書いている間中は毎晩それを考えていました。この本の筋書きは初めからあったわけじゃありません。前提だけ決めて、そのときに人間や国際社会がどう動くかっていうのは、書きながら考えたのです。そうすると、毎朝ガバッと目が覚めて、「あれ? 待てよ。そんなこと言ったって世の中には通らないぞ」とか「困ったなあ。そこはどう解決しようか?」とか思い悩むのです。自分がそういう世界に生きていて、実際にそういう事態に直面していると考えてみるわけです。だから、こんな年寄りでも、ボケてる暇なんてなかった。

夏野氏:これはNetflixかAmazonプライムで、ドラマとしてやってほしいと思います。

松本氏:そうなればうれしいです。

松本氏:重要なところに日本人が出てきますけれども、僕は必ず『外国人の目から見た日本人』にしているんです。読者としては外国人を初めから意識していましたから。僕はトータルでアメリカに10年ぐらいいましたし、発想や考え方とかは日本人と外国人の半々ぐらいです。だから、何とか英語版を出したいし、映像化してくれたらうれしいですね。

SFは、自分ごととして読むのが醍醐味

司会:先ほど、松本さんがコロナよりもっと大きな規模で考えるってお話しされたときに、夏野さんうなずいてる感じがありました。夏野さんは今回の『地軸大変動』を読んでいる際に自分事化したり、自分でそういうふうな立場になったりはお考えになったのですか?

夏野氏:SFっていうのはそういうことなんです。自分はその立場になったときにどう行動するんだろうということと、作家が書いてることの答え合わせみたいなことなんです。自分だったらこうするけど、作家さんはこうした。でも、もしかしたら自分が思ってたよりも、作家さんが思ってることの方が正しいかもしれない。こういうふうに、この状況が起こって自分だったらどうするって思いながら読むのが、SFの醍醐味なんです
特にアーサー・C・クラークの作品っていうのは、主人公の心理描写っていうのがものすごくされていて。そこには家族があり、ほんとに身近な愛情があり、でも、置かれてる環境はそんなもんじゃない。そのアーサー・C・クラークのタッチが、松本さんの作品にはモロありました。

松本氏:ありがとうございます。そういって頂けると一番うれしい。僕、アーサー・C・クラークが一番好きだったんです。

夏野氏:最高です。

松本氏:『幼年期の終わり』って面白かったな。

夏野氏:『幼年期の終わり』も面白かったけど、心理描写を描くんであれば、やっぱり『宇宙のランデヴー』です。あの閉鎖空間に置かれて、異星人と会うっていう。それだけ聞くとあり得ないことなんだけど、あまりに心理描写が的確で、そういう状況に置かれたときに人間ってこういうふうに行動するんだみたいなことが描かれてるのは、今回の『地軸大変動』と全く共通している。

松本氏:ありがとうございます。

夏野氏:素晴らしいと思います。日本のそういう意味でのSFとして、ふざけた方向とか違う方向に行かずに、まともに書いたのは小松左京さんだったと思うんです。今でも『日本沈没』ってすごいシミュレーション小説なんだけど、50年も前の作品なんで科学技術が違いすぎちゃってて。だから、今の世の中に通じようと思うと、今やってるTBSみたいなドラマみたいになっちゃって。まさか、こんな身近な松本さんがSF大作家の最右翼に躍り出るとは思わなかったです。

松本氏:夏野さんにそうおっしゃっていただいて、こんなうれしいことないです。

夏野氏:ほんとにそうです。

松本氏:日本のはファンタジーが多いですね。

夏野氏:そう。あと、ヒーローを作りたがるんです。日本の作品って。でもヒーローってそんないないんで。


3. 海外から見た日本
(に続く)

【緊急告知】 第2弾 開催決定! 3月29日 22時〜

「Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第16回 夏野剛 x 松本徹三」の対談を行います。現在の世界情勢を経験豊富な二人の視点から解説・考察します。自分達の取るべき行動・これからをを考える。

【タイトル】  「ウクライナ情勢と、その後の世界秩序」
【開催形式】  オンライン配信(ニコニコ動画)
【配信日時】  3月29日(火)22時~

※視聴頂くには、シンギュラリティ・ソサエティ or 週刊『夏野総研』への入会が必要になります。

『創造的でなければ死んでるのと同じ』  夏野剛✖️松本徹三 対談連載1〜7

1. 地獄を知っている二人!?
2. 迷った時は遠くを見ろ
3. 海外から見た日本
4. AIの未来、人類を救うのは!?
5. 知識の幅を広げよう
6. 日本の市場と会社の限界
7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!

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