母に教わった言葉
神が存在するかなんて僕には分からない。
でも、見てくれている「何か」は存在していて、辛いこと、悲しいこと、恥ずかしいこと、とにかくそこから逃げ出してしまいたいことがあったときには、その記憶をそっと僕の脳から排除してくれる。
そんな都合の良いメシアを、僕は時折妄想する。
たしか小学5年生くらいの頃、リビングでマンガを読んでいると、「童貞」という単語があった。
主人公である男子高校生が、経験がないとかそんな理由でイジられていた。
スマホやタブレットなんてまだこの世にない時代、知らない言葉を調べるツールといえば分厚くて重い辞書だった。
どこに置いたかも覚えていないそれを探すより、近くで洗濯物を干していた母に訊いた。
「ねぇ、『童貞』ってどうゆう意味?」
一瞬時が止まった感覚はあった。
「あんた知らないの?」
「うん、何?」
「『経験がない』ってこと!」
いやだから、なんの経験が…あ!
もしかして…。
あれから30年、メシアはまだ僕の前に現れない。
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