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【活動報告】「自分ひとりの部屋」をもつ〜シングルマザーズデジタルキャンプ・親子キャンプの意義

2024年10月まで、シングルマザーズシスターフッドでは「シングルマザーズデジタルキャンプ」という就労支援プログラムを実施していました。

スタッフの私・サチコは、2023年のインテンシブコース1期では受講生として、そして2024年の2期はスタッフとして参加しました。

本日は、9月に実施された1泊2日の親子キャンプについて、その意義と効果を考察したいと思います。

プログラムの詳細な内容については、スタッフ檸檬さんの充実のレポートをご覧ください。

就労支援プログラムに、なぜ、親子キャンプ?

就労支援プログラムとして一般的なのは、キャリア面談やリスキリングの機会提供、合同就職説明会などのアプローチだと思います。

「一体、自然の中での合宿にどんな意味合いがあるんだろう?」そう思われた方もいるかもしれません。

けれど、私としては、この親子キャンプで、受講生が「自分に集中する時間」が生まれ、それが、キャリアを拓いていく道しるべになっていくのでは、と感じています。

自分に集中する時間を持てるようデザインされたプログラム

「交流の場で初対面」の場の難しさ

「ひとり親向けの交流の場」は、参加者同士が初対面なことがほとんどです。子ども同士はすぐに打ち解けることもあるでしょうし、他のひとり親と出会う、新鮮さはあるでしょう。

しかし、初対面というのは何かと気を使うもの。

ひとり親、という共通項はあれど、それ以外の状況は人それぞれです。子どもの発達の特性や不登校など、様々な事情を抱えている場合もあります。

「交流したくて参加したのに、現場では自分の子のケアに追われて、他の親子と交流できなかった」ということ、私自身にも実体験があります。

そのようなことが起きないよう、シングルマザーズデジタルキャンプでは丁寧にプログラムをデザインしてきました。

丁寧にデザインされたプログラムが始まります。

シングルマザーズデジタルキャンプにおける、親子キャンプの意義

シングルマザーズシスターフッドの合宿の特徴は、3つあります。

1.オンラインでの交流を土台とした、ひとり親同士の深い交流

今回のプログラムでは、実際に親子キャンプでお互いに対面するまでに5か月間をかけ、オンラインで交流を深めてきました。

自己紹介シートにはじまり、集合研修での意見交換、普段のChatwork、Zoomを使ったもくもく会でのやりとり、グループリフレクション

キャンプ場に到着! わくわく感が溢れています(photo by KAJI ERIKO)

表面的なやりとりに終わらない、自己開示と他者理解の機会があったからこそ、初対面なのに「やっと会えたね!」が飛び交う、打ち解けた受講生たちの姿がありました。

やっと会えたね!

2.健全な母子分離と、頼れる「お兄さん・お姉さん」の存在

親子キャンプの日中は、母と子の環境を完全に分離し、それぞれのプログラムを実施しました。

キャンプリーダーは、みんなのアウトドア(株式会社Think&Camp)の原田順一さん、そしてスタッフには、原田さんの信頼するスタッフの方々をはじめ、野外教育をご専門とする明治大学の吉松梓先生と学生ボランティアのみなさん。

熟練のキャンプリーダー、学生スタッフの皆さん

充分な数のスタッフさんが、子どもたちと思いっきり遊んでくれます。

川遊びをするために準備万端で出発(photo by KAJI ERIKO)

子どもたちがどんなに大声をあげても、走り回っても、眉をひそめられることはない。

こんなダイナミックな遊び、なかなか普段はできないですよね。

それどころか、遊び上手なお兄さん、たのもしいお姉さんたちが、どこまでも一緒に付き合ってくれる。

キャンプリーダーの言葉に熱心に耳を傾ける子どもたち
もくもくとアート作品を制作する時間も

キャンプ場に到着したときは「YouTubeは?ゲームは?」と文句を言っていた子どもも、翌日には早朝から、疲れ知らずで駆け回っている。

遊びに夢中の子どもたち(photo by KAJI ERIKO)

好き嫌いだらけの子どもが、「おいしい!」と、焼きたての野菜にかぶりついている。そんな姿がありました。

夢中になって串を焼いている子の姿も。(photo by KAJI ERIKO)
アウトドアを感じられるメニューを用意していただきました!

親だけがプログラムの恩恵を受けるのではなく、子どもたちが楽しそうに、生き生きとキャンプ時間を味わっている。

それを知っているから、親の私たちも安心して、存分に自分自身の時間に没頭することができたのでした。

3.安心してひとりになり、自分だけに集中できる時間

親向けのプログラムでは、皆で思いっきり体を動かしたあと、「自分のこれまで・これから・実現したい未来」に向き合う、個別ワークの時間があります。

ワークシートに書き込む受講生

合宿二日目。空が白くなった早朝から、ひたすらにワークシートと向き合う参加者の姿がありました。

朝からおつかれさま、と声を掛けると、
「日常に帰ったら難しいもの。だから今やっているんだ」
はにかみながら笑って答えてくれた受講生の姿に、とても尊いものを感じました。

みんなより少し早く起きてワークシートに取り組む受講生

私たちのプログラムが目指しているのは、「自分らしくはたらく」というゴールです。そのためには、まず「自分」の適性や他者との違い、叶えたい未来にしっかりと向き合うことが必要です。

自分はどういう人間か、何を望むのか……長くキャリアを築くためには、自分を客観視する、ひとりの時間が欠かせません。

それなのに、ひとり親の毎日は本当に目まぐるしいものです。仕事にせよ、家事・育児にせよ、やることは常にいっぱい。

何かを集中して考えようとしても目の前のタスクに忙殺され、自分が何を目指しているのかもわからなくなってしまう、そんな経験がある方も多いと思います。

キャンプでの2日間は、普段の日常から切り離され、安心できる仲間と、大自然に囲まれます。

心身ともに安心できる、守られた環境、大自然のなかにいるからこそ、わかる、自分の本音があります。

自然に囲まれて自分だけの時間

私自身も、受講生として参加した1年め、ワークを行ったとき、川を見ながら大泣きしてしまいました。普段の自分では開けなかった、押し殺していた望みの扉が開いたような時間でした。

自然の音だけに包まれて、自分の望みがくっきりしてきます(photo by KAJI ERIKO)

ひとり親が、「自分ひとりの部屋」をもつこと

合宿を終えて読み返したのが、ヴァージニア・ウルフの名著『自分ひとりの部屋』でした。

フェミニズム・エッセイの先駆けとしても知られている、ヴァージニア・ウルフの名著『自分ひとりの部屋』では、「女性と小説(フィクション)」という命題について、まるまる一冊をかけて、こう回答しています。

〈女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない〉

ヴァージニア・ウルフ、片山亜紀訳『自分ひとりの部屋』平凡社、2022年、p.10。

ここでいう「小説」とは、自分だけのクリエイティブな作業、自分自身で物事を考えること、といってもよいと思います。

自分らしさに徹底的に向き合い、真の自分らしい「キャリア」のビジョンを思い描く、という作業も、同じことなのではないでしょうか。

今回の親子キャンプでは、日常生活と隔絶された安全な環境下、子どもたちが元気に豊かな時間を過ごしている、安心と安全の中だからこそ、描けるものがきっと、あったと思います。

そしてここで発見した「自分らしさ」を礎に、受講生は未来へのビジョン―本当の意味での、自分を支える「お金と、自分ひとりの部屋」をめぐる旅をスタートさせていきます。

描いたビジョンをもとに、まずは1ヶ月間集中的にプレゼンテーションを準備、最終発表会へと向かっていきました。

誰もが必要な「自分だけの時間」

デジタルキャンプ・インテンシブコースの受講生は、1期・2期合わせて20名程度です。プチコース修了生と合わせても100名弱、全国のひとり親の数からしたら、とてもわずかな数かもしれません。

でも、一人一人が「自分らしくはたらく」ことを諦めずに追究することで、周囲の方や子どもたちにポジティブな影響を与え、さざ波のように「自分らしくはたらく」の輪が広がっていくかもしれません。

そうして、シングルマザーへの心無い偏見が少しでも減り、多様な家族がありのままで存在できる社会に、少しでも寄与できたら、と願っています。

「自分だけの時間」は、ひとり親に限らず、すべての大人、子どもが等しく必要としているもの。

すべての人に贅沢な自分だけのための時間が取れる、そんな社会になりますように。

(文責・サチコ)



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