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『経営理念』の歴史的変遷をまとめてみたら、古代ギリシャ時代のプラトンからの流れと、江戸時代の”家訓”からの流れが合流する経緯を経てることが分かり面白すぎた!

当社Singerlyは経営理念を軸にした”理念マネジメント”を専業としている会社でもあるので、今回は『経営理念』の歴史的変遷を紹介します!

『経営理念(以下、理念)』ってそもそもどんな歴史の中で生まれてきたのだろう!と思うことってないですか!?(そんなのねぇよ!って言わないで!)

まず欧州からの流れと日本独自の流れ、またそれらが明治維新以降で合流するという流れがあります。この辺りを理解することが『理念』の面白さをさらに深くするものとなります!

<欧州からの流れ>

・古代ギリシャの哲学が発祥
古代ギリシャにはプラトン(紀元前427-347)という天才がいました。彼は物事の本質や理想形を意味する「イデア」という概念を提唱します(コンセプトの語源的なもの)これが理念の源流であり、理想的な企業のあり方や目指すべきビジョンを示すものとなります。
今のミッション・ビジョンに相当する概念がここで生まれます。
※イデアの哲学的意味
『純粋に理性によって立てられる超経験的な最高の理想的概念」

「ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え」ということ。

・近代ドイツ哲学

ドイツのこれまた天才であるイマヌエル・カント(1724-1804)は、プラトンのイデアを受け継ぎつつ、それを「イデー」として再解釈し、人間の認識能力と道徳的原則に基づいた理想を強調しました。
これが企業の倫理や価値観の形成に影響を与えました。
いわゆるバリューに相当する概念が『イデア』に加わり、「イデー」として再解釈される訳です。

<日本独自からの流れ>

・安土桃山時代から江戸時代へ
時代は安土桃山時代(1573-1603)。この時代は織田信長を中心に自由貿易が盛んとなります。楽市楽座など市場を開放して自由に商業、貿易をすることを良しとしました。 しかし徳川家の江戸時代(1603-1868)に入ると方針は一転。鎖国による保護貿易へと移行。
さらに『士農工商』における階級制度、『参勤交代』における地方有力者の経済力の奪取などにより”商い”が社会的に良くないという洗脳が始まります。 商人たちは”儲ける”ことが社会的悪という印象を受けつけられます。短期的に目立った利益を出すことが認めない中で、唯一認められたのが『承継』における内部留保です。
当時は今の会社組織のように従業員を多数雇って事業を回すのではなく、親族を中心とした家業が多い訳ですが『事業承継』における利益確保のみ認められたのです。そうすると家業を営む事業者は『長期的な利益の獲得』を目指し、ブレない経営、一貫した経営をするようになります。
そこで出てきたのが『家訓』です。 まさに理念の源流がここにあるのです。家訓=経営理念は商業における本質である『長期的な利益の獲得』に根差したものであることが言えます。だからこそ理念は重要になるのです。

<明治維新以降>

明治維新(1868年)以降は開国により西洋の経済思想や経営手法が導入されました。これによりギリシャ時代から受け継ぐイデア、カントにより再解釈されたイデーが輸入され理念思想が日本企業にも浸透し始めます。しかし欧米の理念思想と日本の理念思想は根本的には違う思想。
両者がこの時代を経て交わっていきます。例えば、渋沢栄一氏が提唱した「合本主義」は、利益追求と社会貢献のバランスを重視した例ですね。

英米:個人の快楽を求める営利主義
日本:公の為に役割を遂行する義務 ⇨皇国職分+報徳思想

<近代史の経営理念>

明治維新以降は富国強兵の名の下に戦争への優先順位が高まります。家訓としての理念がお国のための理念に昇華されていき、その後は社会情勢や時代変化によって理念の主体が大きく変わっていきます。

①実業の思想(明治初期~中期)
明治維新により保護貿易から自由貿易に逆戻り。積極的な実業における理念が再発していきます。

②経営ナショナリズム (明治初期~中期)
第一次世界大戦に見られる戦争時代に突入。理念の主語は企業ではなく国に向けられ、経営は国のためにあるものだという『経営ナショナリズム』となります。お国のために経営をして利益を出そうとする考え方。士魂商才な思想はここで育まれます。

③経営家族主義(明治末期~大正)
経営ナショナリズムを推し進め、自社利益の確保は二の次に成らざるを得ない状況の中、組織エンゲージメントを高めるために、企業組織を一つの家族と見立てて保護していく『経営家族主義』が勃興します。働く仲間は皆家族だ!という考えで一致団結を進めます。終身雇用や福利厚生の概念はここで生まれます。

④経営者思想の経営理念(昭和)
1930年代から「経営理念」という言葉が使われ始めます。始まりは学級理念=教育からがスタート。ビジネス的な経営理念を最初に使ったのは「古林喜樂 (こばやし よしもと)経営学者と言われています。また欧米と日本における理念の解釈の違いを先述しましたが、長らく戦争における混乱が続きましたが、この機会をチャンスと捉え、これまでの経営ナショナリズムを放棄して「新しい理念と合理的・進歩的・独創的な経営」にするべきだ!と元ヤマハ社長の川上嘉市氏がエールを送る、などは時代の転換期を語る逸話となっています。
ここから経営理念の思想は大きく変化をしていくこととなります。お国の為の経営理念から経営者そのものにスポットライトが当たる時代になります。敗戦し焼け野原となった日本。 そこから様々なスタートアップが生まれます。
松下電気(今のパナソニック)、ソニーなど。スタートアップでは創業者がフォーカスされるように経営者思想に焦点が当てられるようになります。経営者哲学・経営者理念としての経営理念にシフトしていきます。
松下幸之助氏の『水道哲学』は有名です。製品やサービスが水道のようにどこにでも行き渡り、誰もが手軽に利用できるようにすることを目指した理念です。まさに社会のインフラになることをビジョンとした理念。

⑤企業組織思想の経営理念
戦後のスタートアップを率いる強烈なカリスマ創業者もその思想を次の世代に受け継がなければいけません。そうすると、創業者理念を組織理念に浸透し、組織として体現していく必要があります。
そこで生まれたのが企業組織理念の考え方です。経営理念の「社是社訓化」、すなわち「テキスト化」である。
経営理念をテキスト化することで経営理念の機能化が図られました。理念浸透におけるツールとして、経営を実践するための役割として「経営理念」に着目した考え方となります。

⑥ミッション・ビジョン・バリュー(平成以降)
時代は流れて平成時代。マネジメントの父であるドラッカーは2003年に出版された著書「Managing in the Next Society」の中で企業経営におけるミッション・ビジョン・バリューの必要性を提唱します。これまで経営理念=経営のあり方(Why)を軸に展開されてきました。
類義語としては経営理念、企業理念、基本理念、社是、社訓などが挙げられます。しかし、Whyだけでは思想としての網羅性に欠けるとし、ドラッカーはミッション・ビジョン・バリューの三方向からの言語化を示します。

ミッション:存在意義・使命(Why)
ビジョン:あるべき姿(Where)
バリュー:譲れない価値観(What)

さらにジェームズ・C・コリンズ氏の書籍『ビジョナリーカンパニー』の世界的ロングセラー、ミッション経営の第一人者であるスターバックス・コーヒーの日本上陸などが交差し、理念=ミッション・ビジョン・バリューが浸透し始めるのです。第一次ミッション・ビジョン・バリューブームの到来です。

⑦『パーパス』の出現(現在)
時代はグローバル化とサステナビリティへ。 ミッション・ビジョン・バリューに加えて『パーパス』という概念がグローバル企業を中心に叫ばれるように。 ミッションと概念が近いのですが、当初は似て非なるものです。

パーパス:社会的な存在意義や使命 (社会から組織へのベクトル的なイメージ)
ミッション:組織の存在意義や使命 (組織から社会へのベクトル的なイメージ)

グローバル市場での競争が激化し、企業は単なる製品やサービスの提供だけではなく、社会に対する貢献や存在意義を明確にする必要が高まりました。
気候変動、貧困、不平等などの社会的課題が顕在化し、企業がこれらの課題解決に貢献することが求められるようになり、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)が重視される時代となります。 また消費者の価値観の変化が著しく、価格や品質だけでなく、企業の社会的責任(CSR)や環境配慮、倫理的な行動を重視するようになり、それらはSNSを中心に瞬時に拡散されるようになりました。
さらに人的資本経営に見られる『組織エンゲージメント』が重視され、自分の仕事が社会にどのように貢献しているかを重視するようになったことも社会に対する貢献や存在意義を明確化するトリガーになりました。
これまでのミッションに『社会的な貢献』のメッセージが乏しかったこともあり、パーパスという言葉が出てきたことと、新しい言葉は新しいマーケットを作る、ということ。レッドブルが急成長したのは市場を『健康ドリンク』ではなく『エナジードリンク』と呼び、新しいマーケットを作ったからです。その意味では欧州企業が得意なマーケティング手法に踊らされているのです。

⑧未来の経営理念
『経営理念』という言葉だけで、これだけの歴史が詰まっています。とても面白くないですか?昨今では経営理念、ミッション・ビジョン・バリューを掲げる企業が増えてきておりますが、その歴史や本質を知ることで、自分たちの理念との向き合い方も変わってくるでしょう。
時代は共感の時代。利便性による幸福度は限界にきており、心の情緒さが働く人の主体性を生み、幸福度を高める時代となっています。いかに自分の価値観とフィットした職場を探すか、職場を創り出すかが大命題となっています。
ミッション・ビジョン・バリューブームと言って良いほどに注目度は高まっています。 一方で懸念事項も出てきています。経営理念マーケットには組織コンサルティング会社、ブランディング会社、広告デザイン会社など他業種が営みを生み出しています。カッコイイ言葉、インパクトのあるホームページ、精錬されたパンフレット・・・いろんなものが生み出されています。
ただ、等身大以上の自分たちを過度に表現する『キラキラ理念』が後を断ちません。 理念とは言語化された経営哲学、文化とは信念が描き出す日常。日常の文化がキラキラしていないのに、理念をキラキラなものして、同様にホームページなどもキラキラにして・・・それは本来の自分たちらしさではありません。
世間からしたらカッコ悪い、ダサい、と言われたとしても、それが自社の個性なのであれば、それを武器に変えるべきです。全員から好かれるスターはいません。世界で一番嫌われるのもまたスター。

ビジョナリーカンパニーにはこう書かれています。
『その基本的理念にぴったり合う者にのみに素晴らしい職場であって、​合わない者は病原菌か何かのように追い払われる。その中間はない。​​』

この通りだと思います。飾った自分たちになるな、等身大の自分たちらしさを武器にせよ! 理念や組織文化に携わる一人の人間としてそう思います。等身大の自分たちで行こうよ!そう思います。
もっと個性が溢れる素晴らしい社会にしていこう!

<まとめ>

経営理念は、歴史的な背景や哲学的な影響を受けながら進化してきました。古代ギリシャの哲学から始まり、近代ドイツ哲学の影響を受け、日本の歴史的な商業倫理と融合し、現代に至るまで進化を続けています。この変遷を理解することで、現代の経営理念の形成背景を深く理解することができますし、これからの未来に経営理念を軸に何を大切にしていかないといけないか?が見えてきます!
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