プーランク「グローリア」で興味深いこと
作曲家フランシス・プーランクは1899年にフランスのパリで製薬会社(後のローヌ・プーラン)の経営者エミール・プーランクの長男として生まれた。父の跡継ぎになることを期待されていた彼は作曲家の道を選び、数多くの傑作を残し1963年に64歳で世を去った。彼の合唱作品「グローリア」は世界中で演奏される人気作品であるが、興味深い点がいくつかある。
第一楽章冒頭がストラヴィンスキーに似ている
プーランクは青年時に17歳年上であるストラヴィンスキーの音楽に触れ、強い衝撃を受けた。ストラヴィンスキーの「春の祭典」は1913年にパリで初演され、翌年にも再演されているが、思春期のプーランクはこのどちらかを聴いているとされている(「プーランクを探して」久野麗著、春秋社、2013年)。印象深い第一楽章冒頭のファンファーレは、ストラヴィンスキーのピアノ曲「イ調のセレナーデ」の冒頭とよく似ていることが知られている。
グローリア
イ調のセレナーデ
続く合唱歌い出しは自作のミサに似ている
プーランクがミサ典礼文に曲をつけるのは1937年の「ミサ曲ト長調」に続いて2回目であるが、どちらのグローリアもベースの歌い出しで始まるところが興味深い。しかも始まりの音もリズムもほぼ同じである。プーランクは自作の使いまわしが多いことでも知られている。ただし「グローリア」では復付点4分音符と16分音符の組み合わせとなり、より鋭いリズムになっている。
第一楽章③のテンポは時代につれ早くなっている
プーランク作曲の「グローリア」(1959-1960)は1961年1月21日にシャルル・ミュンシュが指揮するボストン交響楽団により初演されている。現在の楽譜では第一楽章の冒頭は♩=60、合唱が始まる③からは♩=82と指示されているが、この演奏では加速なく♩=60のままで演奏されている。
ヨーロッパでの初演は1961年にジョルジュ・プレートル指揮のフランス国立放送管弦楽団により行われ、レコードとして残されている。③のテンポは78ぐらいで、作曲の指示するテンポに近い。このレコードのラベルにはわざわざ「作曲家の立ち合いのもと録音」と書かれている。
しかしここのテンポは生理的にもっと早くしたくなるようだ。1989年の小澤征爾指揮ボストン交響楽団の第一楽章③は加速されて、107ぐらいになっている。
2013年のヤルヴィ指揮パリ管弦楽団もの第一楽章③は108ぐらい。現代でも遅めの人もいるが、早いテンポの場合はこのあたりで落ち着いているようだ。