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Ep.Sm2022 「SUMMER TIME」
──夏
にぎやかな蝉の鳴き声、木漏れ日から差す陽光。
ジリジリと照りつける太陽、蒸し返すアスファルトからの放射熱……
「あづ──」
8月中旬、避暑地と呼ばれる軽井沢だが、普段から生活している私達にとってはただの猛暑だ。
そんな避暑地に存在する、高校生たちが運営するJAZZ Café「プリムローズ」そのテーブルの上でノビているのは友梨。
「これで標高1000mって嘘も良いところよ……ねぇモモ……」
「ごめんね……昨日クーラー壊れちゃって……」
「肝心な時に壊れてんじゃないわよ……」
カフェのオーナー、百々も額に汗を書きながら氷がたっぷり入ったアイスコーヒーを頬に当てていた。
そんな中、菫だけが平然とピアノ椅子で漫画を読み耽っていた──
「ユリはコンクール期間中じゃなかったっけ、こんなところに居て大丈夫なの?」
「今日は学校も点検で全館停電、県大会も終わってすぐで、熱中症にでもなったら大変だし、羽を伸ばしてもらってるのよ」
「……ってか、なんでアンタだけ涼し気な雰囲気出してんのよ……」
「まぁ、私はどちらかと言えば都心かつ、海側の出身だし、山のほうがやっぱ湿度がなくて涼しく感じるよね」
「長野でも30度超えてるんだから暑いもんは暑いわよ……」
そんな暑さトークの最中、カフェのドアベルが鳴った。
入ってきたのは瑠璃と日葵だ。
「うわ……何この室温……」
入って早々、日葵は室温に圧倒されてたじろぐ。
カフェの室温は籠もっている分、外気よりも更に暑く感じた。
瑠璃はそんな事は気にも留めず何かを後ろ手に友梨へ近づいていく。
「ねぇユリ、これ」
「なによ」
「ミヤマクワガタ、めっちゃ大きい」
「ぎゃあああああああ!!」
「あんた飲食店に虫持ち込んでんじゃないわよ!!!」
そんな毎度の漫才を横目に、日葵はこの尋常じゃない室温に危機感を感じていた。
「モモ、昨日エアコン壊れたんだって?」
「そうなんだよねぇ……カフェ側だけだから寝室はなんとも無いんだけど……」
「業者さんもすぐ頼んだんだけど明日にならないと来れないって」
「モモが熱中症にでもなったら大変だし……カフェ開けておく意味もなくない?」
「そうだよね、流石にお客さんも来ないよね……」
夏休みも相まって軽井沢自体は人で賑わっていたものの、この猛暑を前にして
《今日限り!エアコン壊れています!》
の張り紙は以前のプリムローズのような閑古鳥を呼ぶには十分すぎる材料であった。
「諸君!」
と、日葵は高らかに声を上げた。
「本日、プリムローズは臨時休業としますっ!」
「──そして!今日はプリムローズ全員で川遊びデーとするっ!!!」
歓声を待ち構えるように自信気な表情をする日葵だったが、カフェは静まり返っていた。
瑠璃だけが、目を輝かせていた。
「川釣り、出来る?」
「あぁ勿論出来るとも!」
そこそこ嫌そうな表情をしたのは友梨。
「今日水着なんて持ってないし、第一、川遊びって言っても何処も観光客だらけでしょ」
「そうだよねぇ……人いっぱいいるのもちょっと暑いよね……」
百々も友梨に同意だった。
「お嬢さん方、私をどこの誰だか忘れていやしませんかね」
「朝比奈リゾート、その敷地内にプライベートリバーがあるに決まってるじゃんっ!」
「「!!」」
「勿論、水着もプールの受付から見繕ってきて差し上げよう!」
友梨、百々は少し魅力的だな……という表情をして押黙る。
菫は否定するも同意するもなく、皆が行くならといった表情。
これで誰も反対する者はいなくなった。
──夏
にぎやかな蝉の鳴き声、木漏れ日から差す陽光。
その陽光を反射する川のきらめき、せせらぎの音。
まさに川遊びにうってつけの程々の川幅と緩やかな流れは猛暑を忘れるほどに輝いていた。
「さぁ!これが弊リゾート自慢のプライベートリバーだ!!」
「「「「すごい……」」」」
大自然と朝比奈リゾートの財力に圧倒されるプリムローズのメンバーは、すでに各々水着を借り、夏らしく着飾っていた。
菫は普段のボーイッシュさを忘れさせられるような紫の可愛らしいフレア付きワンピースに、薄手のシャツを羽織り。
日葵は可愛らしいフリルのがついたオレンジチェックのハイネックセパレート。
瑠璃は動きやすいラッシュガードに長袖シャツ、麦わら帽子という渓流釣りスタイル。
「いやぁやっぱ、二人は“デカい”ねぇ!」
「アンタ、確信犯ね……」
日葵が下卑た視線を送る先には百々と友梨の姿があった。
友梨は真っ白な胸を真っ白く覆う鮮烈なビキニスタイル、レイヤードっぽく魅せるデザインが、普段キッチリと着込まれた制服に隠匿された曲線を強調していた。
百々は友梨程ではないものの、可愛らしい装飾が施されたビキニ。
ボトムのフレアが更なる可愛らしさを際立たせる。
「いや、だってそんだけ“デカい”とワンピースタイプなんて在庫ないんだよ~」
「無いわけないだろ!あと、デカいデカいうるさいわ!!!」
「でも、ちょっと可愛いかも……」
「でしょ~?」
「まぁ、観光用には整備されてないから、くれぐれも流れの早いところにはいかないように!あと、ヤマビルとか諸々気をつけるように!」
「それでは、川遊びを存分に楽しんでいってくれたまえっ!」
こうしてプリムローズ夏の川遊び大会が幕を開けたのだ。
瑠璃は上流で鱒釣り、百々、友梨はそのすぐ下で泳いで遊んでいた。
菫は川端で足だけ水に浸かりながら、それを眺め、感慨に耽っていた。
《こういう友達との遊びも、“ムコウ”にいた時には余りしなかったっけ……》
「なーに保護者ぶってんのさ!」
「──わぶっ……」
「何すんのさヒマリ!」
見かねた日葵が水鉄砲で菫の顔面を撃ち抜く。
「思い出に浸るのもいいけどさ、今は“私達”と遊んでよね!」
「……そうだね」
「じゃあ、遠慮なく……」
すっと笑顔に表情を切り替えた菫は傍らにあった水鉄砲を手に取り日葵目掛けて仕返ししてやるのだった。
時はあっという間に過ぎ日も傾く頃、瑠璃が釣り上げた鱒たちと、Z-Aの面々に、連れのお肉も合流し川辺でBBQ。
夜には花火を楽しんだ。
こんな楽しい夏をあと何回過ごせるだろうか?
いや、こんな楽しい夏は一回きりだ。
同じ曲を何度プレイしても違う瞬間が生まれるように、私達の青春は毎日がアドリブだらけなのだから。
2022.08
swing,sing project