花の雲(静岡・伊豆高原)宿泊記*2017年12月
手つかずの森の中で客室露天風呂を堪能できる隠れ宿
今回宿泊した「花の雲」は、伊豆高原の別荘地にある全7室のこぢんまりとした宿です。幹線道路から、車がすれ違うのも困難なほどの狭い道に入った先にあり、門の暖簾が無いと旅館と気づかないほどひっそりと佇んでいて、「隠れ宿」と冠しているだけのことはあります。
フロントでチェックインの手続きをし、その際に女将さんから夕食の時間、貸切風呂の案内、チェックアウト時間を淡々と説明され、早々に部屋へと案内されました。部屋へ荷物を運んでくれたスタッフからも、部屋の詳細な説明などは特に無く、到着後一服のお茶も自分たちで入れるものでした。皆にこやか且つ物腰が柔らかで、接客の感じはとても良いのですが、サービスはあっさりしたものでした。
[客室]ひとつひとつ意匠が違う部屋と露天風呂
こちらの宿は「別荘」と呼ばれる古民家スタイルの離れ2室と、本館にある露天風呂付き客室5室から成り、今回は本館の「紅紫 −koushi−」というお部屋に宿泊しました。
本館の2階角部屋にあたり、梁見せ天井で吹き抜けになっているので解放感があり、10畳の部屋ですが広々とした印象です。テレビ台や床の間の調度品はアンティークの明朝家具で、インテリアへのこだわりも感じます。
広めのテラスには部屋専用の露天風呂があり、源泉掛け流しではありませんが、常に適温の温泉が注がれています。
本館の5室は、石風呂や檜風呂などそれぞれお風呂のデザインが違い、「紅紫」は1人でのびのび足を伸ばせるほどの大きさの円形の土造りのお風呂でした。
テラスからは敷地の森が眺められ、鳥のさえずりが聞こえる中、時折野生のリスが駆け回る姿を見ることができ、とても癒されます。
ただ、テラスへは室内から直接出入りするため、足拭きマットを窓際の畳の上に敷かなければならず、使い勝手としては快適とは言い難いものでした。また、洗い場が大変狭く、浴槽と部屋の窓の隙間に形だけ存在している感じで、ここで髪を洗ったりするのは現実的ではありません。ここでは入浴前にシャワーで身体を軽く洗い流す程度で、しっかり洗いたい時は、1階の貸し切りの内風呂を使ったほうが良いでしょう。
[温泉]空いていれば無制限に使える貸切の内風呂
貸し切りの内風呂は1か所のみですが、予約制ではなく、空いていればいつでも中から施錠して貸し切ることができます。客室の浴槽よりひと回り大きめで、シャワーブースは2つあります。
ユニークだったのが洗面所のアメニティで、ネイルポリッシュが5色置いてあり、自由に使うことができるようになっていました。時間無制限の貸し切り風呂とはいえ、さすがにここで腰を据えてネイルケアをする人もあまりいないと思いますが、面白いおもてなしです。
[食事]新鮮な魚介にわさび、まさに伊豆のグルメづくし
食事は夕食・朝食ともに本館1階の食事処でいただきます。すべて個室になっていて周りを気にせず落ち着いて食事が楽しめます。
夕食で印象的だったのはお造りで、醤油のほかに、小笠原の海塩「ムーンソルト」が用意してあり、好みに合わせて擦りたての生ワサビとともにいただきます。
脂の乗った新鮮な白身魚が極粗塩とよく合って、大変美味しかったです。
生ワサビはまるまる一本たっぷり使えるので、お造りの後も、メインのローストビーフや、〆の高菜ご飯に添えて、大好きなワサビを存分に堪能することができました。
料理のタイミングが若干早めで、後半テーブルに料理が少し溜まってしまいました。全体の量はやや控えめですが、お酒を楽しみながら美味しく完食できたので満足でした。別料金で特別料理も事前に予約できるので、足りなそうな方は追加で注文されても良いかと思います。
こちらの宿は、今回泊まった本館のみの感想としては、特に悪い点も不快な点も無いのですが、すべてが平均的で、周囲に山ほどある温泉旅館に比べ個性が埋もれてしまっている印象でした。別荘の豪壮さが、宿の個性を担っているのかもしれませんが、本館の一般客室も別荘に負けないくらいの特徴が何か欲しいと思いました。料理か、部屋か、サービスか、どこか一つでも圧倒的な強みがあると、もっと魅力的な宿になるのではないかと感じました。
三千坪の敷地に広がる森は、手つかずの自然のままなので散策などはできませんし、施設内にも近所にも売店は無いので、お籠もりに徹したい方や、温泉三昧に浸りたい方、一人旅など、ただひたすら部屋で心静かにのんびりしたい時にぴったりの宿だと思いました。
※写真と内容は2017年当時の情報です。ご了承ください。