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人獣細工

【人獣細工】
『小林泰三』

なう(2024/08/23 14:07:54)

※ネタバレ、自分語り、自己憐憫

このサイト内で小林泰三の話をするのはこれが初めてなので記しておくが、私が本を読み出すきっかけになったのは小林泰三の「玩具修理者」だ。
当時未だ中学生で、絶賛厨二病を患い、鬼頭莫宏作品や、星新一など、後味の悪い作品であったり、色々と考えさせられるもの、俗にSFホラーなどと言われるものなど、とにかくそういうものに強く惹かれていた時、胸糞悪い系の小説が読みたいなーの安直な気持ちでネット検索をするとヒットしたのが彼の作品であった。

読書をそれまで全然してこなかった私は本を楽しむために読んだと言うより、本を読んだことでちょっと凄くなったような気持ちになりたくて、いわばステータスが得られると思って読んでいた。(これは今でも否定できない)

実際に読んでみると、正直意味がわからなかったが、意味がわからないことが「カッコイイ」と思って無理矢理感動したことを覚えている。
後に解説や考察などを調べても、「へえ」としか思えず、それほど心を動かされた記憶は無いが、このステータスを得たという感覚と、ちょっと物好きな自分がカッコよく思えて、私は著者が好きだと思うようになった。

次いで「脳髄工場」、「肉食屋敷」、「大きな森の小さな密室」などを読んで、漠然と彼の世界にハマっている自分に酔っていた。

それから暫く読書とは無縁になっていたけど、好きな作家を聞かれたら当時一番同じ作家の作品を読んでいたのが彼だった為に、彼の名前を答えていた。
好きなところは?と聞かれると、
「独特な世界観があって、血肉臓物が出ないスプラッタ映画(作品によっては当たり前に猟奇的なシーンばかりだが)のようで、どこかB級映画を観ているような気持ちになれる他の作品にはない異質さがあるところ」
などと宣うが、実際には私もどこが好きか明確に答えることは出来ない。

そして最近読書にハマりだして、当然自分は昔好きだった著者のような作品が好きだと思ったから、本を選ぶ際には同じようなSFホラーであったり後味が悪そうなものを読むようになった。
しかし何冊か読むにつれて、自分が好きな本の傾向がわかるようになった。

・叙述トリックではない
・短篇集ではない
・物語の目的、主人公の性格に一貫性がある
・お涙頂戴ではない
・ミステリー、サスペンスではない

これらを踏まえて彼の作品を思い返してみると、私は本当に好きだったのか疑問が生じた。

となれば、今こうして読書熱があるのだから、彼の未だ読んでいない本を読めばいいではないか。
そうして選出したのが「人獣細工」
今までこの本を読んでいなかった理由は、単純に簡単に手に入らなかったからに過ぎない。
特に事前情報もなく、数年ぶりに彼の世界に入った。

ここまでが長い前振りです。以下、作品への感想。

上記で語った通り私は短篇集があまり得意でない。
長い話をじっくり理解して読み切ることに達成感と充足感を得られるから、短篇だとどうにも浅く感じてしまう。
けど、結論から言うと、良かった。

三篇が収録されているなかで、私が一番好きなのは表題作になっている「人獣細工」。
良かったとはいうものの消去法でこれを一番に持ってきている。
他の二篇は良かったと言うにはちょっと釈然としなかったので……。

今まで短編集の感想は全作をきちんと振り分けてそれぞれに書いていたけど、面倒なので一括でバーッと書いてしまう。

まず、一番目に良いと思ったものは最後に。
「吸血鬼狩り」の感想。

二通りの解釈を許されているらしいが、私は吸血鬼は実は人間であった。の方が小林泰三らしいと思うので、そちらで。
なぜあえて化け物のように振舞ったのかというのは、未成年の女の子にあんなことそんなことをしていることを隠すためなどと解釈すれば都合はいいけど、個人的に鏡を割るシーンが要らなかったと思う。
石投げて鏡を割るのはちょっと人間離れしていたから。
その他は語り手の子供ながらに感じた恐怖補正で誇張表現されているのだろうなと解釈できるけど……。
あと従姉妹も、それが悪いことだとわかっていたのならもっと上手い誤魔化し方をしろよと思った。
とはいえ15歳の少女には無理なのだろうか……?いや私だったら……と考えてしまって嫌になってやめた。
取り敢えず、合意であろうが未成年とそういうことはしてはいけません。
男の死体はどうしたのだろうか……。
次、「本」
途中まで凄いドキドキしてたけど、中盤から結末にかけて、良い意味でも悪い意味でも小林泰三だー!となった。
彼の作品って、偶にギャグテイストが入るというか、拍子抜けするレベルの面白シーンみたいなのが入ってくる。
大爆笑して抱腹絶倒とかではなく、温度差で困惑してしまうそこまで面白い訳ではないけどウケを狙っているのだろうなみたいな笑いのシーンがあって……(意図的かはわからないけど)それが濃く出ていて、私はそれを別段不快に感じるわけじゃないけど、合わない人には合わないだろうなと思った。
あと、結末のスッキリしない感じも、初めて「酔歩する男」を読んだ時の感覚とすごく似ていて、懐かしい気持ちになった。
私はそもそも前提として彼の作品が好きである潜在意識があるから、贔屓めに見ているけど、これは一般的にはどういう評価がされているのだろうかと調べてみたら、なんかあんまり核心に触れられている人はいない印象だった。
たぶん、みんなそんな感じなんだと思う。

そして私が一番楽しく読めた表題作の「人獣細工」は、オチが新鮮で良かった。
オチが読めるとかそういうことは考えるのが嫌いなので置いておいて、小林泰三独特の諄い質問追求みたいなシーンもきちんとあり。
父親の目的を探っているのは、小林泰三に慣れている読者からしたらダレるだろうなと思った。
意味などない快楽であったり好奇心であったり、そういうのが目的になっていることなど明白だったからだ。
あと、自分がもしユカの立場でも、別に良いと思う。

私は、生きていることに存在理由があると思っているし、人間が尊い存在であるとも思わない。
仮に自分が家畜であれ、微生物であれ、その存在が何かなどと考えられるほど自分のことが好きである証拠。
自分のことが好きなのだから、何者だっていいじゃない。
むしろ、自分がブタであるのなら、それを誇ったっていいとすら思った。
(まあ父親の移植に関しての発言は傷つくものであったが……)

総じて、いろいろ矛盾点や、じゃあこれはなに?どういうこと?と追及したらキリがないし、野暮というものだ。

今の読書愛が真っ盛りである私にとって、彼の作品を読むことがなんとも楽しく彼が一番!とは言えなくなってしまったけど、私の読書人生において彼は何より大きな存在であることに違いない。

長くなったし、作品の感想というより小林泰三の感想みたいな文章だったけど、書けて満足。
もう彼の作品は全てが遺作になってしまって、新しい何かを読むことは出来ないけど、古い作品でまだ手をつけていないものには今後も興味を持って読んでいこうと思う。

以上。